RED & BLACK

観劇日記

【続報】Watainシンガポール公演が中止

Watainのシンガポール公演が当局によって中止にさせられた件(前に書いた記事:Watainシンガポール公演が中止 - 絵のない絵本)について、Watainのfacebookにまた声明が来てた。Asia Timesのインタビューを受けたのに、恣意的に切り取られたのにご立腹らしく、インタビュー全文を公開するとのこと。

インタビュー全体を読むと、Erikはブラックメタルは権威に対する反抗であって、規制するのは逆効果だと言っている。いつでも最後にはサタンの話で締めるのかわいい。

問題の記事の方では、Erikの発言はWatainはサタニスト集団で規制されても仕方がないというふうにも読めるような感じだ。ただし、記事自体は、マレーシアやインドネシアブラックメタルシーンの盛り上がりや、それに対する各宗教の権威からの反応にも触れられていて結構つっこんだ構成になっている。ブラックメタルはハラームだというハラームが出たとか・・・インドネシア大統領がメタラーだと話題になったことがあったけど、ブラックメタルはやはり別かもしれない。

また、記事中でブラックメタルについての説明の中で、「厭世的(misanthropic)」という言葉が出てきている。これはDissectionのジョン・ノトヴェイトが入っていたサタニズム組織Misanthropic Luciferian Orderを念頭に置いていそう。記事にもあるようにWatainのメンバー全員が有神論的サタニストだということだけど、この組織に関わっているんだろうか。そのあたりは今度調べてみたい。

 

 

それにしても、この件の後、YouTubeでWatainの曲を見るとコメント欄が「シンガポール政府が禁止してくれたおかげでこのバンドを知ることが出来たぜ!ありがとう!」みたいなコメントばっかりになってて草。

 

 FacebookのWatainの声明(2019/03/19)

www.facebook.com

シンガポールでの出来事についてもっと読みたい人たちのために、Asia Timesに最近記事が公開された。

エリックはこの記事のためにいくつか質問に答えたが、しかし結局はインタビューのうちのほんの少ししか引用されていなかったので、インタビュー全てをここで未編集で公開することにした。2つを比較することによって、このような全国メディアが、何を公開し、何を公開しないことを選択したのか、思考の糧を得られるだろう。

このような平凡で無意味なことに退屈した人に対しては、イタリアの伝説的なBlack Widow Recordsからリリースされた DEATH SSのトリビュート"Terror Tales"をお勧めしよう。これは2010年の俺たちの曲"Chain of Death"をフィーチャーしている。注文はこちらhttps://blackwidow.it/

Asia TimesによるWatainのインタビュー

01 -シンガポールのK. Shanmugam内務大臣は、Watainのコンサートは「公序良俗に反しており、我々の宗教および社会の調和を乱し」、その名のもとに「テロリストの行動」を奨励すると述べました。あなたたちのバンドは大臣の主張に返答されますか?

E Danielsson: その主張は間違ってはいない。俺たちの芸術表現には確かに、整然としたキリスト教社会に対する正にアンチテーゼとして捉えられるものが多くある。俺たちがすることの多くは、人間存在の影の側面、一般的には呪われ禁止されていると考えられている、宗教や哲学の聖堂に対して踏み込んでいると捉えることができる。ここで、我々は、魔女が踊り、儀式の炎が燃え、混沌が支配する、聖なる領域を発見する。文化的なコンテクストから言えば、これらのことは、過去50年にわたり世界的なヘビーメタル・カルチャーのトレードマークになってきたし、何十年もの間に何度も不安を呼び起こしてきた。そして、人々がそれを恐れることは理解している。ある程度は、そうあるべきだ。しかし当座の問題は、彼らの恐怖が正当化されるかどうかではなく、彼らが他者に対してどんな形態の文化にアクセス可能か不可能かを決定するかどうかだ。なぜなら、良かれ悪しかれ、これはボイコットや検閲によって単純に消え去る短命なものではなく、既に多くの場所でそれぞれの名前を持つ世界的な現象だからだ。結局は、かれらは降参しなければならなくなるだろう。

02-シンガポールのメディア規制当局IMDAは、「宗教的に攻撃的」とみなされた曲を演奏しないことや、宗教や儀式的行為に言及しないことを条件として、当初は公演を許可したと述べました。バンドはそれらの条件に合意しましたか?もしそうであれば、それらの制限は公演にどのように影響を与えたでしょうか?

E Danielsson: ああ、俺たちは実際、演奏を許可されなかった曲のリストを入手した。しかし皮肉なことに、俺たちの曲をよく知っている人でさえ、何らかの形でサタニズムを奨励したり、無法を容認したり、不吉な前兆や悪魔的なことを礼賛したりしない曲を見つけようとする努力は絶望的であるということを証明したよ。俺たちが演奏しないように言われた3曲は見たところ無作為に選んだものだった。ステージ上で起こることについても同じだ。要するに、ショーが行われたとすれば、それらの要求はまったく無効な状態になっていた。もしWatainがステージに上がってパフォーマンスを行えば、検閲しようとしたもの全ての要素があるだろう。だから基本的にこの件は、シンガポールの路上で政府公認の売春婦に対して、性的興奮を公然と招かないように、下品な服装を全部取り除くように言うようなものだ。俺が推測するに、彼らは土壇場でこれを悟り、俺たちのショーを開催の数時間前に中止させるという臆病かつ非常に残念な決断につながったのだ。

03-オンライン署名に15000筆が集まった後、政府は圧力をかけてギグを中止させたようです。地元のファンは本当に落胆しています。芸術的表現の自由を否定する社会やシステムに対するバンドの見解は?

E Danielson: その見解はかなり明確だ。似た方法で統治されている国が他にもあるならば、Watainだけでなく他の多くのバンド、アーティスト、画家、詩人、作家はすべきことをできなくなってしまう。俺は文化の自由を信じているし、各個人が自分が賞賛したり評価するものを判断する権利を信じている。人種や信条にかかわらず、このシンプルな考えに反対する者は敵とみなす。もし、ある社会が、非常に脆弱だからいかなる逸脱的・敵対的な声もふさがなければならないとその社会の支配者からみなされるのであれば、それはおそらくその社会が変化するときだろう。

04-アジアのほかの地域では、バンドはパフォーマンスに反対されたことはありますか?おそらく公共の秩序や文化的背景のため、西洋社会の「サタニック・パニック」と比較して、アジアでは反対は違った形で現れるのでしょうか。

E Danielsson: 俺たちのような音楽や芸術的表現は、常にある程度の反対に遭遇するだろう。俺の知る限り、野生的で情熱的な反抗の精神を象徴し、不満の炎を煽り、従順な服従を嘲笑し、人々が支配者に疑問を抱くのを奨励するのが、俺たちの義務だ。もちろん、現状を必死に維持する者に歓迎されるわけはない!もちろん彼らは我々のことを恐れているし、それは正しい。サタンは反対の神、ただ告発の神だ。政府、法執行機関、宗教機関が、火刑台に連行することをやめない魔女の神である。魔女の声は、俺が歌うとき俺を通じて響く。そして確かに復讐を遂げるであろう。 

 

 

Asia Timesの記事

Asia Times: Hear no evil, see no evil in Singapore

www.asiatimes.com

 

東南アジアのメタルヘッズたちは先週、あるイベントが地獄のようで魅惑的であることを期待して、シンガポールに降り立った。高く評価されているスウェディッシュ・ブラックメタルバンドWatainのライブのパフォーマンスだ。

Watainは削り取るようなサウンドと罪深いイメージで知られており、この裕福な都市国家で初のショーを3月7日に行う公的な承認を与えられていた。しかし、開始のたった3時間前にショーの中止が発表されると、ファンはがっかりさせられた。

 規制機関である、州の情報通信開発庁(IMDA)は、ショーは「憎悪を引き起こし、シンガポールの社会的調和を乱す可能性がある」ため、開催できないと発表した。

内務省(MHA)はこのイベントについて「セキュリティ上の懸念」を提起した。K Shanmugam内務法務大臣は、Watainに対する大衆の抗議を認識しているが、コンサートの中止を求めるオンライン署名が政府を動かしたことは否定した。

署名はショーの前に16000筆以上を集めており、Watainと、10月にシンガポールで公演することになっている比較的落ち着いたスウェーデンヘヴィメタルバンドSoilworkを禁止するように議員に求めている。

署名を開始したRachel Chanは、これらのバンドの曲には、死と自殺を促す「サブリミナル・メッセージ」が含まれていると主張している。

規制によって、宗教的・社会的調和の名の下に公的発言やメディアが厳しく規制される国において、不和を引き起こさせるような、あるいは潜在的に問題となりうるイデオロギーを表明する音楽や他の芸術表現の居場所があるかという議論が引き起こった。

当局がコンサートの中止に対応したことも、批判を呼んでいる。

 

Watainのエージェントによれば、Watainは12月下旬にエンターテイメント・ライセンスに申請し、その過程でショーのセットリストと曲の歌詞を提供するよう要求された。

当初IMDAは、コンサートの2日前の3月5日にライセンスを承認したが、バンドのパフォーマンスとステージの背景に対してして懸念を示した。

ブラックメタルの邪悪な美学と不快な演出に忠実に、Watainのメンバー(全員が有神論的サタニストであると明言している)は通常白と黒のメイクをして、逆さ十字や燃える三又の鉾、動物の死体とともにパフォーマンスを行っている。

IMDAは、バンドが特定の「厳しい要求」を満たすことを条件にギグを許可する選択をし、それには宗教的に攻撃的であると見なされた曲を取り除くことや、宗教や宗教的シンボルについての言及の禁止、ステージでの「儀式行為」の禁止が含まれていた。

年齢制限も課され、18歳未満の人は誰も参加できなかった。イベントの主催者は、約150枚のチケットを販売し、直前での中止によって11,000USドル以上の損害が発生したと述べた。

MHAはWatainについて宗教を侮辱し暴力を助長しているとレッテルを貼っているにもかかわらず、刺激的なギグをなぜ当初承認したのかと疑問にもつ人もいる。中止に続いて、Shanmuganは、反キリスト教的な歌詞を考慮すると、彼らがシンガポールでどのようにパフォーマンスできるか分からなかったと述べた。

彼は、Watainは「バンドの名の下に行われたテロ行為やその他様々なとても攻撃的な発言を奨励するとすら言っている」と記者に語った。

 

「その主張は間違ってはいない」、WatainのフロントマンErik DanielssonはAsia Timesに語った。「俺たちのような音楽や芸術的表現は、常にある程度の反対に遭遇するだろう」、「過去50年にわたり世界的なヘビーメタル・カルチャーのトレードマークになってきたし、何十年もの間に何度も不安を呼び起こしてきた」という文化的背景の中にグループを位置づけて語った。

「しかし当座の問題は、彼らの恐怖が正当化されるかどうかではなく、彼らが他者に対してどんな形態の文化にアクセス可能か不可能かを決定するかどうかだ。」と語る。Danielssonは、演奏することを許されなかった曲のリストをIMDAに渡されたが、その選択は「見たところ無作為」だったという。

「俺たちの曲をよく知っている人でさえ、何らかの形でサタニズムを奨励したり、無法を容認したり、不吉な前兆や悪魔的なことを礼賛したりしない曲を見つけようとする努力は絶望的であるということを証明したよ。」と語る。「もしWatainがステージに上がってパフォーマンスを行えば、検閲しようとしたもの全ての要素があるだろう。」

ブラックメタルは1990年代はじめ、サブジャンルの独特のサウンドを確立したと評価された著名なミュージシャンがノルウェーでの一連の殺人や教会放火に関係した後、悪名高くなった。このサブジャンルは反キリスト教的・厭世的テーマを意味しており、さまざまな形態のサタニズムやペイガニズムを提唱しているアーティストもいる。

型破りな曲の構造と意図的に音質を悪くした制作とともに、ブラックメタルアンダーグラウンドのルーツを超えて進歩して久しい。実際、サブジャンルの国際的なファン層は、音楽的・文化的な人気は過去20年間で急上昇するのを目撃している。

 

ブラックメタルは東南アジアで、特にムスリム過半数インドネシアやマレーシアで強いニッチなファンを獲得している。その人気は、2006年に、マレーシアの国家ファトワー会議が「ブラックメタル・カルチャー」はハラーム(宗教的に禁じられている)であり、それと関係することはシャリーア法のもとで罰することが出来ると宣言する程度まで、宗教当局を心配させてきた。

同国の宗教官僚制において最も強力な機関であるマレーシア・イスラム発展省(Jakim)は、当時は禁止に反対し、ブラックメタルの徹底的な禁止を超えた熱狂的なファンに向けた「集中的カウンセリングセッション」に賛成すると述べた。

シンガポールの国立教会協議会議長であるTerry Kee司教は、Warainのコンサートの中止を賞賛し、「悪魔的暴力の公的な承認は、感じやすく浮ついた若者に対して有害な影響を与え」、グループの存在は公的に世俗的な都市国家の宗教的調和の理念に有害であるとの懸念を挙げた。

しかし、グループの地元のファンは面白くない。

バンドとのファンミーティングで撮影された、コンサートの参加者になるはずだった人々がWatainのメンバーと共に中指を立てている写真がオンラインで回覧された。Shanmugaは、マレーシアのムスリムコミュニティの集まりで、この写真が「クリスチャンコミュニティで」急速に拡散されたと主張した。

法務大臣は後に、写真の中の「マレー人の若者の集団」を槍玉に挙げたとき、人種問題としてネット民に叩かれ、これはWatainのソーシャルメディアページに掲載されている。

Shanmuganは、都市国家のマレー人ムスリムコミュニティがキリスト教について考えていることを、この写真が代表しているわけではないことを示すことが重要だと述べた。

「当局が、不幸な人々のグループの単純な写真だったものを、反宗教的なニュアンスで人種的な声明と変え始めるとき、これは非常に危険なゲームだ。」多人種からなる黒装束の集団を撮影した、地元の写真家Gary Ngは述べた。「私が見ているのは、全ての人種を横断する人種的多様性だけだ。」彼はFacebookに投稿した。

シンガポールの音楽ファンたちは、道徳的取り締まりに反対し続けており、エクストリームミュージックシーンに対する情熱は失われていないと述べる。

「署名の作成者は、署名を始める前に主催者に相談して何が起こっているのかを知るべきだった」アンダーグラウンドミュージックのイベント主催者Shaiful RisanはAsia Timesに述べた。

彼は、署名者が音楽ファンに対して「個人攻撃」を行い、「ニッチ名文脈を理解することなく」ショーを禁止しようとしたと述べた。

境界を押し広げるブラックメタルの冒涜の領域の中でさえ、今日のシンガポールでは禁止されてはいない。

Mayhem、Behemoth、Mardukといった反キリスト教的メッセージで知られるバンドは以前、IMDAの課した規制のもとではあるが、この都市国家で演奏を行った。主催者は、禁止を求める請願にもかかわらず、Soilworkの10月の公演は予定通り行われると述べている。

シンガポールは、西洋のポピュラーカルチャーやオルタナティブカルチャーの様々な側面に対する過去の弾圧以来、かなり落ち着いた。

シンガポールは、男性の長髪に対する政府の反対キャンペーンの中、1970年代にロックの伝説Led Zeppelinの入国を拒否した。1980年代初頭にはじまったばかりの検閲により、BeatlesDavid Bowieも放送禁止だった。

しかし、批評家たちは、Watainのコンサートの中止は、芸術表現とイベント主催者の両者にとって新しい厄介な先例となったという。

「主催者は、単にショーを開催したいだけで、もし追加の対策を講じなければならないなら、そうする」。Shaifulは、中止は芸術の「曲解した理解」を示したという。「我々もまた社会の一部だ。我々にも自分の居場所や、自分の音が必要だ。もし我々が誰の邪魔もしていないなら、どうか放っておいてほしい」