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観劇日記

【あらすじ・感想】映画『不安な外出(불안한 외출)』

韓国映画好きの友人から珍しいドキュメンタリー映画を借りました。

 

『불안한 외출 The Anxious Day Out』(邦題:不安な外出)

監督:김철민(キム・チョルミン)

2015年

 

あらすじ

10年の指名手配生活と5年の収監生活を送った韓国の活動家ユン・ギジン(윤기진)氏とその家族を描いたドキュメンタリー。

主人公ユン・ギジン氏が5年に及ぶ監獄生活から解放され、釈放されるのを家族や仲間たちが出迎える場面からはじまる。ユン・ギジン氏は90年代に学生運動に参加し、政府が「利敵団体」と指定している「韓総連(韓国大学総学生会連合)」のリーダーとなったことで自動的に指名手配されることになった。10年に及ぶ逃亡生活の中で、学生運動の仲間だった女性ファン・ソンと結婚し、2人の娘も生まれた。

5年の懲役刑の後、待ち望んでいた家族の生活を始めるが、父親をほとんど知らない2人の娘はなかなかユン・ギジン氏に馴染んでくれない。ぎこちないながらも家族で普通の生活をし、交流していく。

釈放からわずか一年後、ユン・ギジン氏は再び起訴される。収監中に書いた手紙の中に、北朝鮮を支持していると見なされる箇所があったためだ。裁判の結果次第では、また収監されるかもしれない。不安に思いながら、家族で食事や旅行に行って団欒の時を過ごす。果たして判決は・・・?

 

感想

民主化以降も現代に至るまで、国家保安法の存在により、「親北派」とみなされると国家の好き勝手に収監される状況が続いていることに非常に驚いた。「北朝鮮のスパイ」の名の元に、収監中に書いた手紙(検閲されてから出しているにも関わらず)の中に国家批判があるだけで起訴されるという馬鹿げたことがまかり通っているのだ。

ユン・ギジン氏を支える家族や仲間の存在が印象的だった。妻ファン・ソン氏との結婚式は指名手配中であったが、仲間の支援により無事に式を挙げることができていた。指名手配された活動家に対して、見捨てずに支援してくれる仲間が大勢集まり、会場を包囲した警察を仲間の隊列にまぎれて突破することができたのだ。

ユン・ギジン氏の両親は、警察に「息子はスパイだから自首するように勧めてくれ」と言われるが、結局は息子を信じて支援してくれるようになっていた。妹も、指名手配犯の家族であるために職場で差別を受けたと話していたが、夫婦揃って兄の支援をしてくれていた。

そうは言っても、家族の存在で救われるという単純な話ではない。ファン・ソン氏はユン・ギジン氏の両親と同居しながら2人の娘を育てて夫が帰ってくるのを待ち、ユン・ギジン氏は収監中娘たちと暮らすことを希望にしていた。夫婦が共に家族みんなでの生活を待ち望んでいたにも関わらず、実際にユン・ギジン氏が出所すると、生活が期待通りにならない焦りでお互いに傷ついてしまう。国家が家族をバラバラにしてしまい、希望を持ちつつも、その傷から回復することに難しさに意気消沈するような映画だった。

 

 

(以下ネタバレあり)

判決は想像よりもずっとひどいもので、1年6ヶ月の実刑であった。さらに、2審で判決が覆り、ユン・ギジン氏が釈放されると、入れ替わりに妻ファン・ソン氏が国家保安法違反で逮捕される。まるでユン・ギジン氏が釈放されて面子が保てなくなったことの報復かのようだ。2014年にもなってこんな人権侵害が行われていることにがっかりする。