絵のない絵本

観劇レポ、ミュージカルの話を書いています

【感想】ミュージカル『プロデューサーズ』2005年映画版

11月から渋谷のシアターオーブでミュージカル『プロデューサーズ』が上演されるということでTLが俄かに盛り上がっていた。

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私は舞台版は見たことがないのだけれども、2005年の映画版が大好きなので結構楽しみだ。タイトルからはありがちなショウビジネスのミュージカルを想像するけれども、この作品は一味違って「帰ってきたヒトラー」に近いものがある。私の推しはナチシンパのおっさんフランツで、好きな場面は断然、劇中劇のナチ・ミュージカルだ。ここだけでも動画でみてほしい。

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楽しみだが不安もある。偏見と差別の盛り合わせみたいな内容で、2000年代なら容認されたかもしれないが2020年現在だとアウトな表現が頻出だからだ。相当バランス感覚のある演出をしてくれないと全く笑えない代物に仕上がってしまいそうだ。今回の演出は福田雄一氏で、正直に申し上げると知らない人だけど、テレビのバラエティ番組も手がけている人だそうで、(最近のテレビのバラエティとか見ないけど価値観のアップデートとか期待できないし、)まあ不安だ。全体的には、ブロードウェイのショウビジネスの文化をネタにしたコメディなので、その点では福田氏が以前手がけた「スパマロット」と近いものがある。

 

舞台を見に行く前におさらいをしておこうと思う。

プロデューサーズ」の原作は、1968年の同名映画で、これを2001年にブロードウェイで舞台化したのが今回上演するミュージカル、さらにそれを2005年に再映画化したものが映画版・・・ってややこしすぎる。

あらすじは、元売れっ子プロデューサーのマックスと、会計士のレオが「最低のミュージカル」を作って制作費を持ち逃げして大儲けしようぜ!という話。

まずマックスは、最近作るミュージカルがコケてばかりなので、性欲旺盛なお婆さんたちの愛人業でやっとのことで制作費を集めているという設定。2005年の映画版ではネイサン・レインが演じていて派手でイケイケの業界人のおじさんという感じだった。

 

もう一人の主人公レオは会計士で、マックスの帳簿を見て、失敗したミュージカルの方が儲かる場合があることに気づき、「最低のミュージカル」を作るという計画がスタートする。このからくりはよく分からないのだが、舞台が失敗してすぐに興行が終わってしまえば、集めた資金を使い切らないままになるからだと思う。

レオはもともとプロデューサーになりたいという夢を持っていたところをマックスに乗せられて、コンビを組むことになってしまった。しかし彼がプロデューサーになってやりたいことは「お金持ちになってモテモテになりたい!」だけで、ミュージカル制作には全く触れられない。明らかになめている。ちなみに会計事務所ではみんな鉛筆で作業していることから、映画の舞台は原作発表当時の1968年前後と思われる。

このレオ、比喩が全く通じなかったり、パニックを起こしてお気に入りのハンカチを取り出して落ち着いたりと、明らかに何らかの精神障害が示唆されている(おそらくアスペルガー?)。問題がありそうなのは、レオが美女ウーラと付き合い始めると、依存していたハンカチを捨ててしまうという描写だ。精神障害とモテないことを結びつけ、童貞と一緒に「卒業」できるかのような描写は大分問題があると思うので、この点はぜひどうにかしてほしい。

 

今回は、マックスを井上芳雄さん、レオを 大野拓朗さんと 吉沢亮さんが演じるそうだ。マックスが随分若々しいイケメンだな・・・?映画ではレオが子供のころ、マックスのミュージカルの大ファンだったという設定だったので、ある程度の年齢差があると思っていたんだけど。さてはイケメン同士のブロマンスを強調する気かしら。マックスとレオの友情はテーマの一つではあるんだけど、マックスもレオもどうしようもないやつなのが魅力だと思うので、そうしてほしい。

 

マックスとレオの最低なミュージカル制作のために、最悪な台本、最悪な演出家、最悪な役者を探すことになる。まず「最悪な台本」は、「ヒトラーの春の日」というヒトラー礼賛もの。作者はナチのおっさんフランツ。自分では「僕はナチ党員じゃない!」と言っているけど、伝書鳩(ぬいぐるみ)をアルゼンチンに飛ばしているので、完全にクロ。フランツは明らかに変なナチ野郎のくせに、何故か異常に愛嬌がある。めちゃくちゃドイツ訛りで、ヒョロヒョロでいつも鉄カブトに半ズボンで、総統はダンスが好きだったんだ!と言って謎の踊りを披露してくれる。かわいい。

 

「最低な演出家」はゲイのロジャー。いわゆる「オカマ」/「オネエ」キャラで、女装姿で登場したり、職場がハデハデキラキラだったり、やたらにフランス語を使ったりする。さらに彼のカンパニーは全員ゲイで、ロジャーのパートナーカルメンをはじめ、ありとあらゆるゲイのステレオタイプが登場する。彼らはゲイだというだけで「最低な演出家」扱いは流石に酷い。(舞台は楽しくなくっちゃ!のポリシーで、脚本を第三帝国が勝利する筋に書き換えてしまうが。)ロジャーもカルメンも超キュートなキャラなので可愛く演じてほしい。

 

「最悪な役者」はスウェーデン人美女のウーラで、いきなりマックスとレオの事務所を訪れてセクシーなダンスを披露して役をもらおうとする。英語が下手で、一人称は「ウーラ」である。マックスが「プロデューサーの彼女には役があるもんだ」と言うとおり、枕営業の擬人化みたいなキャラだ。金髪美女でナイスバディだが、頭は悪い(少なくとも英語が下手なので頭が悪く見える)。このステレオタイプをそのままやるとだいぶまずい。映画版も前回の日本公演も、ウーラ役にはカッコいい系の女優さんをキャスティングして「これは冗談ですよ」という雰囲気にしていた、というツイートを見てなるほどと思いました。

 

 

 

これらの台本・演出・役者が揃って出来上がった「春の日のヒトラー」は、マジで最高のシロモノである。ソーセージだのプレッツェルだの雑なドイツのステレオタイプな物品を頭に乗せた半裸の美女が登場、ナチ党員や親衛隊がかっこよく踊りまくる。

↓は1968年の映画版。

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観客は「不謹慎だ!」と言って帰ってしまいそうになるが、ロジャーが演じる「オカマ」ヒトラーが登場すると、ナチを風刺した作品なんだと思いワハハと笑いながら戻ってくる。マックスとレオの思惑とは逆に大ヒットしてしまう結果になる。ここで、観客が風刺だと判断したのは「オカマ」すなわちお笑いだからだ。「オカマ」は笑いものにしてよい存在、という図式は差別なので、今やったら駄目だと思う。

ちなみに1968年の映画には、「最悪の役者」として、LSDというあだ名のヒッピーが登場してヒトラー役を演じていたらしい。こいつはミュージカル版と2005年の映画版ではカットされてしまったけど、復活もアリではないか(ヤク中はバカにしてもいいって訳じゃないが)。