RED & BLACK

観劇日記

【感想】在宅期間中に見たオペラいろいろ

自宅待機期間中、オペラは色々なところで配信されていて、とても把握しきれない。ありがたいけど・・・

 

新国立劇場トゥーランドット

長くなったので別ページにしました。

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ウィーン国立歌劇団「子供のための『ニーベルングの指輪』」

私はワーグナーが苦手なのだけど、これなら見られるかなと思ってみてみた。日本の新国立劇場で「子供のためのオペラ劇場」という企画で公演したものを、ウィーンに逆輸入したものだそうだ。

www.hmv.co.jp

あの長い長い「リング」が1時間にまとまっている。リンク先の解説には、

ヴォータンが身勝手に他人の黄金を奪ったり、ジークムントとジークリンデの近親相姦やジークフリートが殺されるといった人間不信に陥る要素は排除され、

とあるように、情操教育に悪そうな部分はカットされているが、元々のストーリーを生かしつつ上手くまとまっている。子供向けあって衣装もかわいい。字幕がなかったので確かではないが、歌詞は変わっていた。

 

まず、ワルキューレお姉さんたちファフナーと戦っているシーンで幕開け。しょっぱなからワルキューレの騎行」とは豪華だね。ファフナー王蟲みたいな造形で、超短い竜らしい。戦いのさなか、ブリュンヒルデがノットゥングの剣を壊してしまい、父ちゃんのヴォータンに怒られて火の中に封印されてしまう。ヴォータンは渋カッコいいし、ローゲの衣装はピグモンみたいで可愛い。

森の小鳥が現れ、携帯で眠っているブリュンヒルデの写真を撮影。ジークフリートに写真を見せると「何てかわいいんだ!」と惚れる。この流れ、魔笛じゃん。ジークフリートの衣装は妙にダサい。

しかしブリュンヒルデファフナーにさらわれてしまっていた。また、ラインの乙女たちが現れ、指輪をファフナーに盗られちゃったと訴える。ラインの乙女たちは魚の衣装なんだけど、ラインの乙女って魚だったの?

ジークフリートは折れたノットゥングを鍛えなおし、ファフナーと戦って勝利する。ブリュンヒルデも助け出し、指輪も取り返した。ブリュンヒルデと結ばれたジークフリートは、結婚指輪としてファフナーから取り返した指輪を渡してめでたしめでたし・・・と思いきや、ラインの乙女たちがやってきて、それ私たちのだから返して!と主張。ヴォータンに諭され、ジークフリートブリュンヒルデは指輪を乙女たちに返して、本当のめでたしめでたしで幕。

 

最後の場面、本物の「リング」の5億倍くらい道徳的で笑ってしまった。借りたおもちゃはちゃんと持ち主に返しましょうね~。子供でも分かるんだよなあ。それができれば世界が滅びることもなかったんだよ!

 

 

ウィーン国立歌劇場「エフゲニー・オネーギン」

新国立劇場のオネーギンを見逃してしまったので、というわけではないけど、こっちを見た。2019年の公演らしいです。

指揮:Michael Güttler
Eugen Onegin:Boris Pinkhasovich
Tatjana:Marina Rebeka
Lenski:Pavol Breslik
Olga:Margarita Gritskova
Fürst Gremin:Ferruccio Furlanetto

 

徹底的にオネーギンがいけ好かない感じに描かれていた。もともと嫌なやつではあるが、ずーっとむっつりしていてますます嫌な感じ。また、レンスキーとの友情もほとんど描かれていないように見えた。これは、2幕の決闘が決まったシーンの4重唱で本来オネーギンがレンスキーに対する友情を語るはずなのだが、ここに字幕がついていなかったせいかもしれない。2幕のレンスキーを殺したシーンとか、3幕でタチアーナに跪くシーンとか、ラストとか、一瞬だけ人間らしい顔になるのが上手いなあと思った。あと、3幕ではオネーギンがタチアーナにラブレターを書くのだが、1幕のタチアーナと同様に突っ返されていて、ざまあみろと思った。

レンスキーは、オリガと喧嘩して突き飛ばしたりして結構乱暴な感じだが、決闘の部分のアリアからは直情的だけど良い人な感じが出ていてよかった。

 

それに対して、女性陣は愛情豊かに描かれていてほほえましかった。特に冒頭のタチアーナとオリガが話している場面は、本を読むタチアーナの横でオリガが寝っ転がって雑誌読んでいて、タイプは違うけど仲のいい姉妹という感じでよかった。オリガ役のMargarita Gritskovaさんはずっとニコニコしていてとても可愛かった。タチアーナはウブで弱弱しい感じで描かれることがよくあるが、Marina Rebekaさんは強い感じなので1・2幕は正直あんまり似合わないなーと思ったけど、3幕は良かった。

 

衣装や大道具は、現代風のよくある感じ。ムッシュー・トリケがマジシャンみたいな格好なのは笑えて良い。

バックにたくさんの抱き合っているカップルが配置されていて、タチアーナがオネーギンにフられる場面でだんだん分かれて男が去っていく、という演出は大変さみしくて効果的だった。背景でずっと雪が降っているのは、ちょっとステレオタイプな感じがした。

 

それにしても、チャイコフスキーの音楽ってこんなに甘くて繊細で素敵だったかね?見るたびに好きになっていくなあ。

 

藤原歌劇団 スーパーオペラ『紅天女

これも別ページに飛びます。

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 メトロポリタン歌劇場ナブッコ

4幕でいきなりナブッコユダヤ教に改宗してハッピーエンドという超展開を、ドミンゴの超カッコいいナブッコで強引にまとめられていてよかった(?)。

アビガイッレもカッコよくて、3幕まではほとんどアビガイッレが主人公になっていた。1幕のユダヤの神殿にアビガイッレが攻め入るシーンでは、ユダヤ人の女たちが剣を取ってアビガイッレに立ち向かってくるのだが、その剣を片手で奪うアビガイッレ、カッコよさすぎる。しかし、アビガイッレに感情移入しすぎると、4幕の展開の変さが目立ってしまってよくないかもしれない。最後の展開はアビガイッレが可哀想だけど、ドミンゴナブッコが死にゆくアビガイッレの頭を撫でたりして本当に悲しそうにしていたのでグッときた。最後に父親に認められて良かったね。逆にフェネーナとイズマエーレは若干空気になっていた。それにしても、フェネーナはあまり政治に向いてなさそうだが、この国はどうするんだろうか。

北村紗衣先生が、アビガイッレはナブッコと奴隷の娘か、それとも奴隷同士の娘か、という問いを書いていらしゃった。

音楽は迫力があるのだが、どうも話が苦手で…メトロポリタンオペラ『ナブッコ』(配信) - Commentarius Saevus

2幕のアビガイッレが出生を記した書類を発見するシーンで、"Di Nabucco figlia, qual l'Assiro mi crede"(アッシリア人たちは私をナブッコの娘だと信じている)とか、"il finto padre"(偽の父)、と言っているので、アビガイッレは奴隷同士の子だと思う。METのサイトやWikpedia英語版にも、ナブッコの子ではなく奴隷(複数)の子と書いてあった。しかし、新国のサイトなど日本語のサイトを見ると例外なく、ナブッコが女奴隷に産ませた子説を採用していた・・・奴隷同士の子だと不思議な設定なので、どこかで間違って広まってしまったのだろうか?奴隷同士の子であるアビガイッレが王女として育てられた経緯としては、もともとナブッコとアビガイッレの母は関係を持っていて、アビガイッレが生まれたときはナブッコの子だと思って育て始めたのが、後から父親も奴隷であったことが明らかになったのではないかと想像した。

 

このオペラ、曲は大好きなのだが、ユダヤの神殿が破壊されるシーンとかの、つらいはずのシーンでも明るい楽しい曲なのはちょっと変な感じがした。やっぱりアビガイッレが主人公なんだろうか?合唱が多いのは好きだけど、民衆があんまりイキイキしてない感じだったのは残念。

衣装はちゃんとアッシリア人ユダヤ人に見えるし、オシャレでよかった。捕らえられたユダヤ人たちが望郷の思いを歌うVa' pensieroのシーンは、演出によってはシオニズムっぽくなると思うけど、そういう演出の例はあるんだろうか。