『紅天女』とは
『紅天女』は、漫画『ガラスの仮面』に登場する劇中劇である。『ガラスの仮面』は演劇の漫画なので、いろいろなオリジナル演劇が登場する。その中でも『紅天女』は主人公のマヤとライバルの亜弓さんが演じる権利をかけて対決する伝説の作品という設定。
『紅天女』は、南北朝時代を舞台に、「紅天女」の化身である少女・阿古夜と仏師の一真という青年の恋物語だ。「紅天女」はおそらくアマテラスをモチーフにしており、神の依り代である阿古夜と、仏の象徴である一真を対比したスピリチュアルな作品である。そのため、『ガラスの仮面』では、その世界観にどうやって演技でリアリティを出すか、という点が主題となっている。
感想
このオペラは非常に原作に忠実な作りで、カットされている場面はおそらくなかった。漫画に登場する戯曲の台詞がほとんどそのまま歌詞になっているので驚いた。ただ、私の好みとしては、オペラの表現形態に合うように作り変えても良かったんじゃないかと感じた。
ストーリーについて
オペラにしては登場人物がかなり多く、ちょっと散漫になってしまった印象があった。本来、オペラでは戯曲と違って、アリアを歌えば話相手がいなくても、感情を観客に伝えることができるので、必要な登場人物は少なくてもすむはず。例えば、「一真が帝の命で天女像を彫らないといけない」ことを伝えるのに、必ずしも帝が登場する必要はなくて、照房が歌で説明すればいいのでは。
また、3時間の大作でかなり長いし、オペラではやりづらい場面もあったので、原作にあるエピソードを削ってもいいんじゃないかと感じた。三種の神器が盗まれるくだりとか、そんなに必要ないんじゃないか。
実は、原作ではまだ描かれていないラストシーンがこのオペラでは既に描かれている。詳しくは書きませんが、正直、よく分からなかった・・・原作で描かれるのを待ちます。だから早く完結して!!!
音楽について
私は、状況の説明はレチタティーヴォでサッと済ませて、アリアで感情を思い切り吐露する、というふうにメリハリをつけてほしいタイプだ。一方この作品は、もともと戯曲として作られた台詞をそのまま歌に乗せているので、歌で感情を伝えるようになっていなくて残念だった。ワーグナーが好きな人にはいいかもしれない。(私はワーグナが好きではないので・・・)
阿古夜と一真のラブシーンは、オペラらしくて良かった。愛を歌う際に宗教の話をするのは、よくあるし自然な感じがする。
しかし、ラブラブなシーン以外では、あまりキャラクターの感情が伝わってこない感じだった。阿古夜も一真も紅天女も、自分の気持ちを直接台詞にするのではなく、スピリチュアルなことばかり言うので、どうにもオペラっぽくない。例えば、ラストのシーンでは、一真は天女像を彫るために、紅天女が宿っている梅の木を切り倒さないといけないのだが、そうすると阿古夜は死んでしまう。そういう葛藤は、オペラだったら普通は「これが俺の使命なんだ~~~だけどやりたくない~~~」みたいにアリアをゴリゴリ歌うもんじゃないかと思うが、そうなっていないので拍子抜けしてしまう。戯曲では、喋っていることと本心にずれがある場合に、本心を演技で伝えられるのだが、オペラではそれは難しい。
オリジナルの展開が少しだけあり、楠木正儀の妻の伊賀の局という女性が登場する。この人のアリアは、ほとんど唯一感情を前面に出したアリアで、いきなりオペラらしくなって不自然な感じはしたが、良かった。伊賀の局を登場させたのは、おそらく、阿古夜(=紅天女)・一真のカップルと、楠木正儀・伊賀の局のカップルを対比させたかったのだと思うが、後者のカップルの感情の交流があまり描かれていないので、あまり上手くいっていなかった。
村の祭りの場面での合唱は凄く良くて、この雰囲気の出し方は戯曲ではできないと思う。阿古夜の村の人たち(実は紅天女の部下の精霊)のシーンも合唱にすればいいのにと思った。私はオペラの合唱が好きなので、合唱が少ないと寂しい。
作曲の寺嶋民哉氏は、『ガラスの仮面』のアニメや舞台の音楽も手がけてきた方だそうだ。 琴とかの和楽器が入っていて、いい雰囲気だった。
演出について
紅天女の衣装は特に綺麗ですばらしかった。ただ、お着替えの時間がちょっと長すぎでテンポ悪くなってしまってたのが残念。
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