RED & BLACK

観劇日記

【感想】『キャッツ』2019年映画版

悪名高い『キャッツ』映画版がアマゾンプライムで無料になっていたので、見た。

今年は、ロンドン版の配信も見たし、劇団四季で舞台版も見たので、個人的にはキャッツ・イヤーだった。その集大成(?)が映画版でいいのか?という気はするが・・・

 

ネットで散々な悪評が流れている本作だが、映画として良い出来になっているかは別として、『キャッツ』2次創作としては面白いところもあった。

 

 

感想

舞台版から変更されていたのは、以下の点。

・舞台版は明確な主人公がいないが、映画版はヴィクトリアが主人公になっている。

・ヴィクトリアのソロ曲"Beautiful Ghost"の追加。

・台詞がかなり追加されている。それに伴い、人間(猫間)関係の描写が増えている。(ヴィクトリアとミストフェリーズ、ヴィクトリアとグリザベラ、ミストフェリーズとガス などなど)

・猫たちの性格・設定の変更。

・舞台版ではマキャヴィティが悪事をはたらく意図は明確ではなかったが、映画版では目的がはっきり描かれている。

・オールド・デュトロノミーがオス猫からメス猫になっている。

・グロールタイガーが、アスパラガスが演じる架空の猫ではなく、実在の一匹の猫になっている。

・ランパスキャットのナンバーはカット。

・猫の表現方法が、メイクからCGになっている。

 

ストーリーについて 

まず、ヴィクトリアを主人公に設定し、ジェリクルキャッツの仲間に入っていく過程を描くストーリーにすることで、作品の設定や世界観を分かりやすくしようという意図が感じられた。実際、ジェリクルボールとは何ぞやとか、世界観の説明がちょっと台詞で追加されていた。

また、ジェリクルボールをマキャビティが邪魔するというストーリーや、ヴィクトリアとミストフェリーズのロマンスを創作することで、舞台版よりは分かりやすくなっていた。舞台版を知っている人間からすると「話がある!」という感じだった。しかし、映画だけ見た人からするとやはりまだ「話がない」という状態だったようだ・・・エンドロール入れても1時間50分なんだし、台詞でもっと説明した方が良かったと思う。

しかし、映画版で追加されたストーリーはお約束展開すぎて、正直つまんないのは否めない。ストーリーの軸であるヴィクトリアとミスとフェリーズのロマンスは何の変哲もないし、ヴィクトリアをミストフェリーズが助けたり、ミストフェリーズをヴィクトリアが励ましたり、あるある展開すぎて、陳腐な印象を受けてしまう。

 

また、ヴィクトリアに捨て猫という属性を追加したことで、社会から「捨てられた」存在であるグリザベラとの共通点が生まれ、さらにグリザベラのナンバー"Memory"に対応するヴィクトリアのナンバー"Beautiful Ghost"が追加されることで、ヴィクトリアとグリザベラの対応関係が形成されている。(余談だが、ヴィクトリア役のフランチェスカ・ヘイワードよりも、エンドロールのテイラー・スウィフトの方が明らかに歌がうまくて、かわいそう)。ヴィクトリアとグリザベラは、他者から受容されることを望んでいるという共通点があり、共感を用いてヴィクトリアは能動的にグリザベラをコミュニティに招き入れる。

さらに、オールドデュトロノミーをメス猫に変更することで、ヴィクトリア(若年)・グリザベラ(中年)・オールドデュトロノミー(老年)という3世代の女が連帯する物語になっていた。まあ、連帯した結果、なぜグリザベラが天上に行くのかはよく分かんないけど。グリザベラも一緒に楽しくジェリクルキャッツとして生きていけばいいじゃない。

あと、グリザベラが排斥される理由は、娼婦だからではなく、マキャビティに協力したからというふうに変わっていた。マキャビティに協力してる猫は他にも何匹かいるのに、なぜグリザベラだけ・・・?娼婦でしかも醜くなったゆえにコミュニティの男からも女からも嘲笑されるというのがリアルで良かったと思うんだけど。そのあたりを無難にしようと変更したのは良くなかったと思う。全体的に性愛要素は削除されていて、その代わりにヴィクトリアとミストフェリーズの青春的恋愛要素が追加されているので、対象年齢低めになっている印象。

 

猫たちの性格は、だいたい皆カッコよさ減でお間抜け的に変更されていた。親しみやすくしようとした結果なんだろうけど、笑って良いのか微妙なセンスのギャグも多く、あんまり良い効果は感じられなかった。ラムタムタガーをセクシーイケメンモテモテ猫からイタいカッコつけ野郎に変えたのはファンが怒りそう。ミストフェリーズもドジっこヒロインすぎるし、マキャビティなんてバイキンマンなのか?

グロールタイガーをガスと別の猫にする改変は必要ないと思ったけど、ガス役のイアン・マッケランが楽しそうだったから別にいいかという感じ。ボンバルリーナは大分カッコよく改変されてて、この映画はテイラー・スウィフトのPVなのではという感じだった。

 

ミストフェリーズとガスの友情のくだりは良かった。ミストフェリーズとラムタムタガーの友情が削除されたのは寂しいけど。いや、いいよ別に。"Rum Tum Tugger is a terrible bore"をミストフェリーズが歌ってくれたからいいよ。

 

CGについて

さんざんに言われているCGの猫人間ですが、たしかに気持ち悪い。舞台版もわりと気持ち悪いけど。

毛皮が薄すぎというか体毛が短すぎ。人間の大きさと毛の長さの比率でCG作っていると思う。人間を猫の大きさに縮小してから、毛を生やさないと・・・毛が長めの猫(ガス、オールドデュトロノミー、グリザベラ)や模様がある猫(ミストフェリーズ、マンゴジェリー&ランペルティーザ)は結構かわいかったので、気持ち悪さの原因はだいたい短すぎる毛のせいだと思う。

あと、猫の大きさが明らかに小さすぎる部分がいくつかあってかなり気になった。線路の上を歩くところとか、体長10cmくらいに見えた。

画面が結構暗いので、服を着てない猫の見分けがつきづらい。皆に服着せればよかったのに。

 

せっかくCGなんだから、アニメ調の猫にすれば良かったのにと思う。しかし、そうすると生身の人間のダンスの魅力はかなり失われてしまう。『キャッツ』からダンスの要素を減らすことはできないという判断の結果、中途半端な猫人間が生まれてしまったのだろう。

ダンスの要素を生かすに当たって、CGで動きをつけているところが雑音になってしまっていたのは残念だった。ところどころ、長距離をジャンプする部分などにCGの動きが入っているので、生身のダンスを見たときの感動が薄くなってしまっていた。

 

ネズミ人間とゴキブリ人間は許さない。事前知識ありで家で見てて本当によかった。ネズミ人間のネタ、後々まで引っ張るなよ!気持ち悪いよ!

 

See also:

誰も文句を言わない(言えない)方の映画版。

iceisland.hatenablog.com

劇団四季の舞台版。

iceisland.hatenablog.com