絵のない絵本

観劇レポ、ミュージカルの話を書いています

【感想】ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』2021年(配信)

梅田芸術劇場で上演されている『ポーの一族』のライブ配信を見た。

原作はもちろん萩尾望都先生の名作漫画『ポーの一族』。

このミュージカルは、2018年に宝塚で上演された作品だそうだ。今回は、宝塚を退団された主演の明日海りおさんは続投、他の役は男性キャストも交えて再演されたということだ。

 

キャラクターや全体の雰囲気は、原作漫画とは少し違う印象だったが、これはこれで素敵だった。また、複雑かつ繊細な原作をミュージカルらしくまとめなおしていて、新しい発見もあり、良い二次創作になっていると思う。また、宝塚特有のダンスや合唱の豪華さも、宝塚を見たことのない筆者には新鮮でよかった。

 

 

基本情報

2021年1月23日(土)マチネ

キャスト

エドガー:明日海りお

アラン:千葉雄大

リーベル綺咲愛里

シーラ:夢咲ねね

ポーツネル男爵:小西遼生

老ハンナ/ブラヴァツキー夫人:涼風真世

大老ポー/オルコット大佐:福井晶一

クリフォード:中村橋之助

ジェイン:能條愛未

レイチェル(アランの母):純矢ちとせ

 

感想 

構成のこと

原作は、一話完結のエピソードが断続的に発表されていて、その時系列も前後している。そのため、時系列を整理して把握するのは結構たいへんであるが、それも作品の一要素でもある(永遠の時を生きる人たちにとっては、時間は直線ではなく、行ったり来たりするものなのかもしれない)。

本作では、原作終盤の「ランプトンは語る」に登場する現代人ドン・マーシャルとマルグリッド・ヘッセンを案内人として、時系列を追ってエドガーの足跡を辿っていくというふうに再構成されている。

 

採用されているエピソードは、以下4つ。分量にすると原作の半分くらいか。

・「メリーベルと銀のばら」:エドガーとメリーベルの生い立ちとバンパネラになった経緯を描く

・「グレンスミスの日記」(の前半):貴族の青年がスコッティの村に迷い込んでエドガーとメリーベルに出会う

・「ポーの一族」:メリーベルとポーツネル男爵夫妻の消滅と、アランの加入

・「ランプトンは語る」(の冒頭):現代の人々がエドガーたちの足跡を辿る

 

1幕は、「メリーベルと銀のばら」と「グレンスミスの日記」と、「ポーの一族」の途中盤まで、2幕では「ポーの一族」の中盤~最後までと「ランプトンは語る」という構成。

1幕は、かなり特急で進行した印象。「メリーベルと銀のばら」の後半のオズワルドとユーシスのくだりなど、重要なエピソードが地の文だけで飛ばされてしまった。ユーシスなんかほぼナレ死・・・。カットすれば良かったのでは?一方、2幕は、独自のエピソードを挿入しながらのゆっくり進行だった。そのため、構成のバランスは悪い印象だった。

2幕で挿入されていたオリジナル要素である交霊術のくだりは、原作の「ホームズの帽子」のエピソードをもとにしていると思うが、必要性がよく分からず、無駄に尺を使っている印象が否めなかった。時代に合わせて、実在人物であるブラヴァツキー夫人とオルコット大佐に変更されている。一人二役を演じる涼風真世さんのブラヴァツキー夫人の怪演は良かったが・・・

 

現代の人々を狂言回しとして、エドガーたちの足跡を追うという構成にしたことで、時系列も分かりやすいし、エドガーを眼差す人間たちの視点を入れられたのは良かったと思う。原作の半分くらいは、エドガーたちに遭遇した(そして、人生が少し変わってしまった)人間たちの視点から描かれたエピソードだ。ミュージカルという形態ではそれを再現するのは困難だが、狂言回しを登場させることで、その雰囲気を一部再現できているのは、良い演出だったと思う。折角だから、狂言回したちにももう少し歌わせてあげてほしかったが・・・

 

本作では、「永遠の生を共に生きるパートナー探しの物語」という切り口でまとめ直していて、歌詞もそれにフィーチャーしたものになっていた。それを念頭に原作を読み返してみると、ああ、そういう話だったのか、という納得感があった。よい二次創作だと思う。

その点からいうと、ポーツネル男爵夫妻は塵になる最期の時まで一緒にいられたので理想のカップルなのだ、というのも新発見だった。このカップルは好きなキャラクターなので、素敵に描かれているのは嬉しい。消滅シーンも原作よりドラマティックに演出されていた。

ただし、ミュージカルという形式で、エドガーたちが自分の思いの丈を歌い上げるのには少し違和感があった。エドガーたちはそういう素直なキャラじゃなくてもっと捻くれていると思う。それに、萩尾望都先生の漫画では、登場人物の感情は、微妙かつ繊細にチラッと垣間見えるものなので。そのため、本作はもともとあまりミュージカル向きではない題材を扱った労作かもしれない。

 

キャスティングのこと

宝塚で生まれた演目に、男性キャストを混ぜるという試みは良いと思った。宝塚の動画を見ていると、壮年以上の男性や女性を、若い女性だけが演じるのはやっぱりちょっと無理がありそうだ。その点、本作ではポーツネル男爵役の小西遼生さんはシブくて素敵だった。大老ポー役の福井晶一さんも、なかなか大老っぽさが出ていた(どうでもいいけど、イスラーム学者の中田考に見えた)。

また、宝塚では毎年何作もの新作ミュージカルが上演されていて、そのうち再演されレパートリーとなる演目はわずかでもったいないことだ。せっかくの日本オリジナルのミュージカルなのだから、宝塚では事情があって再演できなくても、他の劇団で活用できれば良いと思う。宝塚を退団した女優さんは多いのだし、上演権を柔軟に運用してもらって、演目の様々な演出を楽しめるようになるといいと思う。

 

明日海りおさんのエドガーは、堂々としていてカッコいいのだが、原作のどこか儚げな少年エドガーという感じとは少し違うなという印象だった。明日海さんがトートをやっている動画を見たがめちゃくちゃカッコいいので、単にイメージの問題だと思う。

演出の小池修一郎氏が文庫版の解説で書いているとおり、「男役の二枚目スターは背が高いのである。少年には大きすぎるのだ。」。この解説は1998年に書かれたものだが、この点は結局未解決のまま上演されたのだなと感じた。まだ、小柄なカワイイ系の男役はいないのだろうか?演目が宝塚を離れたのだから、少年らしさを追及したキャスティングも今後はアリだと思う。

 

キャストごとに「作画」がバラバラなのも気になった。明日海りおさんのエドガーはお化粧バッチリの宝塚風で異界の存在の雰囲気満点、一方、千葉雄一さんのアランはお化粧なしの普通の少年で、どうしても釣り合っていない感じだった。アランは、素朴さを失っていないといえどもエドガーのパートナーなので、「作画」は合わせてあげてほしかった・・・

2018年の宝塚公演の映像を見たが、このときの柚香光さん演じるアランは、見た目も萩尾望都世界の少年っぽくて素敵だし、演技も繊細で素晴らしい。(↓これ!)

youtu.be

 

個人的に異彩を放っていたのは、涼風真世さん演じる老ハンナ。カッコよさすぎ、美しすぎるので、全然「老」じゃないじゃん・・・と思ってみていたが、調べてみたら御年60歳らしい。本物のバンパネラではないだろうか?クリフォード役の中村橋之助さんも55歳らしく、信じられない。宝塚や歌舞伎の世界にはバンパネラが隠れているのかもしれない。

ジェイン役の能條愛未さんは、落ち着いていて素敵だなと思ったら、元乃木坂の方らしく、アイドル出身に対する偏見を反省した。

 

演出のこと

驚いたのは、とても贅沢にダンスが盛りまれていること。ほとんど全てのシーンにバックダンサーがいるし、その種類も多様で非常に豪華。学生のダンスはアイドル風?で遊び心を感じた。多くの団員に出番が必要な宝塚特有なんだろうけど、嬉しい点だった。

合唱のシーンも多く、合唱大好きパーソンとしては嬉しい。民衆がバンパネラを狩るぞの曲なんか好きだ(ちょっとノリノリすぎる気もするが。民衆は恐怖にかられているのであって・・・)。しかし、全体的には曲はあまりキャッチーではなくメリハリに欠けている感じがあり、また、歌詞もあまり洗練されていない印象であった。

 

「ミュージカル・ゴシック」と名乗るだけあって、ゴス風の衣装や舞台装置には気合が入っていた。アンサンブルやダンサーの人数も多いし、衣装のコストが凄そう。萩尾望都先生は服飾史マニアらしいので、衣装にこだわるのは仕方がない。

1幕の最後、エドガーの人生の走馬灯みたいな感じで舞台がぐるぐる回るシーンの演出は非常に好きだった。

演出に若干ワンパターン感が感じられたのは残念だった。例えば、場転のあと、男の人がピョーンと飛び跳ねるシーンから場面が始まる、という部分が3回くらいあった。舞踏会のシーンも数回あったし、学生のダンスも、2回あって似たような感じだった。

 

参考文献

萩尾望都ポーの一族』1~3 小学館文庫

萩尾望都 ポーの一族年表:萩尾望都作品目録

 

See also:

iceisland.hatenablog.com