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観劇日記

【感想】ソ連版『ロード・オブ・ザ・リング』

ソ連で制作された『指輪物語』のテレビドラマの映像が発掘された、というニュースを見たらしい。YouTubeで公開されていたので早速見てみた。

当然ロシア語だけど、ちゃんと英語字幕がついている(少し怪しいが)。ネットのオモチャにしてほしいという意思の表れと見た。

 

courrier.jp

 

youtu.be

 

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タイトルは《Хранители》で、おそらく「指輪保持者(複数形)」のことだろうと思う。

動画は2本あり、各1時間程度。「前後編」と紹介している記事があるが、タイトルは「第1章」「第2章」。第1章ではトム・ボンバディルまで、第2章では、塚山から「旅の仲間」終了までが描かれる。

 

もう、どう考えても打ち切りとしか思えない。しかも、第2章を制作するときには既に打ち切りが決まっていたとみえる。何しろ、第2章では、塚山、アラゴルンとの出会い、エルロンド会議、モリアの坑道、ロスローリエン、ボロミアの裏切り、が1時間に詰め込まれている。とにかく「旅の仲間」までは終わらせようと頑張ったんだろうな。

詰め込みのせいで、場面転換がものすごく唐突になっている。裂け谷にいたかと思うと、次の瞬間モリアの坑道の中を探検している、みたいになっている。メルロン!のシーンはもちろん無し。

 

しかも、たびたび重要なシーンが無視されている。ガンダルフは、バルログとの戦闘の描写がないまま、突如として行方不明になり、「ガンダルフは死んだに違いない」といって置いていかれる。ひどすぎる。悲しんでないで探してやれ。

また、ボロミアの裏切りの後、オークとの戦いがなく、ボロミアは死なない。そのため、ボロミアが単に裏切っただけの嫌なやつになってしまっている。

逆説的に、ピーター・ジャクソンの映画版にトム・ボンバディルと塚山の場面を入れなかったのは正しかったことが証明されてしまった。「旅の仲間」を2時間に納めるのは無理。

 

とにかくCG技術はひどい。全てがぼやけていて何も分からない。背景はファミコンRPGを彷彿とさせる。1991年制作だが、

CG技術がないため、戦闘シーンはかなり省略されている。そのため、何が起こったんだか謎になってしまっている部分も多い。『アタック・オブ・ザ・キラートマト』(トマトが人を襲うクソホラー映画)を髣髴とさせる。トマトが出てきて「キャー」と悲鳴があがった次の瞬間には血溜まりが...みたいな感じ。

 

全体的に演技力は死んでいるが、キャラクターの描写はそんなに(比較的)悪くない。アラゴルンが渋くてカッコいい感じで登場したのに、終盤単なる気のいい兄ちゃんみたいになっていて可愛かった。ゴラムの頭のレタスは謎だが...メリーが眼鏡かけているのは斬新。

 

エルフの描写はやたらフワフワしていて、なんか誤解があるように思う。『不思議惑星キン・ザ・ザ』の、人をサボテンに変えてしまういけ好かない星の住民に似ている。

ゴールドベリ(トム・ボンバディルの奥さん)の荘厳さに比べて、ガラドリエルがやたらにキラキラしてるばかりでショボいのは悲しい。贈り物もくれないし。レゴラスは女性が演じているように見えたけど何故?

 

冒頭にリンクを貼ったクーリエ・ジャポンの記事には、ホビットたちとトム・ボンバディル夫婦の写真に「ホビットの小ささもちゃんと表現」とキャプションがついているが、間違い。トム・ボンバディル夫婦がでかいだけで、ホビットは単に背が低い俳優さんが演じている。ホビットは小さいから馬に乗れないという設定だったと思うのだが、映像では普通に馬に乗ってるのに、台詞では「ポニー」であることになっていて笑ってしまった。

 

1991年制作であることを考えてもかなりクオリティが低いと思う。ピーター・ジャクソン版を久しぶりに見返したくなった。ドラマも楽しみだし。

 

See Also:

ソ連版『ロード・オブ・ザ・リング』、当時の社会情勢を考えると、版権無視で制作したんだと思うけど、YouTubeで公開して大丈夫なんだろうか。

現代のロシア人もけっこう著作権に無頓着な印象がある。これとか・・・

iceisland.hatenablog.com