【感想】ミュージカル『レ・ミゼラブル』2021年
ついに初レミゼしてきたので感想です。
原作も読んだのに、今まで生でレミゼを見たことがなかったんですよね。2012年の映画版を見ただけでした。映画版レミゼの話をすると皆ラッセル・クロウ・ジャベールの悪口を言うけど、私はラッセル・クロウが好きなのであまり気にならない。
2019年の公演は、まだチケット取りの術を知らなかったので(今もあんまり知らないけど)、普通にチケット戦争に敗れ、見にいけなかった。今年は母が見たいと言ってたので頑張ってチケットをゲットしたのですが、当日の朝になって母が体調不良で行けないと言い出して困った。当日にも関わらず、Twitterのフォロワーさんが一緒に来て下さることになり、本当に良かった。ありがとうございました。
基本情報
2021年6月25日(金)ソワレ@帝国劇場
キャスト
ジャン・バルジャン:吉原光夫
ジャベール:上原理生
ファンチーヌ:知念里奈
エポニーヌ:唯月ふうか
マリウス:竹内將人
コゼット:熊谷彩春
テナルディエ:駒田 一
テナルディエの妻:森公美子
アンジョルラス:小野田龍之介
ガブローシュ:重松俊吾
指揮:若林裕治
感想
初のレミゼ、全体的には「早送りみたいだな・・・」という印象だった。特に1幕、次から次に場面が移り変わり、息つく暇もない。ストーリー上、これ以上削れるシーンはない気もするが・・・フランス版を見たことはないが、銀の燭台のくだりがないなど、ストーリーを分かっている人向けの脚本だったそうなので、このバージョンよりはゆったりしていたんだろうと思う。
シーンの移り変わりで大きな扉が登場するのだが、扉は本の比喩というか、本を開いて物語の世界が舞台に出現するイメージなのかなと感じた。ということは、このミュージカルは本をパラパラ断片的に斜め読みしているということ?
舞台設定についてはわざと説明不足にしている感がある。今1832年であるとか、ここはパリだとかツーロンだとかモントルイユ=シュル=メールだとか、そういうことは一切説明されない。「ABCの友」の政治的主張も最小限の描写である。場所・時代に左右されない普遍的な物語ということなんだろうと思うが、さすがに説明しなさすぎな気がする。なぜこの作品をフランス革命の話だと思っている人が多いのか分かった、説明がないからだ・・・
いろいろなキャラクターが出てきては、共感する間もなく一瞬で死んでいくという感じが否めない。あまりに高速でストーリーが進むし、台詞があんまり聞き取れないので、なぜ死んだのか分からんだろ見たいな感じのところも多かった。
ジャベールの記事でも書いたんですが、原作とミュージカルの宗教的なメッセージ性はかなり違っている。原作では、愛で人が救われるとことや、現世で正しく生きることは描かれているけど、死んだあとのことは全く描かれていない。ユーゴーは典型的なカトリックではなく、現世で良く生きる、そのために社会を改革するという思想の人である。
それに対して、ミュージカル版では「死んで救われる」ことがめちゃくちゃ強調されている。フォンチーヌもエポニーヌもジャン・バルジャンもABCの友の面々も、「もう死にたい」「死のう」と言って死んでいく。そして、神の国に行ってものすごい満面の笑顔。フォンチーヌもエポニーヌもジャン・バルジャンも「もう死にたい」みたいなことを言って死んでいく。
キャスト&キャラクターについて
キャストは全員歌がうまくてすごい。ダンスがない演目だから、いかんなく歌うま俳優さんを集められるのかもしれない。
ただし、全体的に、結構歌詞が聞き取りづらかった。ストーリーが詰め詰めなので歌詞も繰り返しが少なくて一回聞き逃すと取り返しがつかないので困る。また、レミゼは普通のミュージカルだと台詞になっている部分が歌(レチタティーヴォ)になっている。日本語でレチを歌う機会はほとんどないせいか、レチの部分は特に聞き取りづらかった。
"Lavely Lady"をはじめ、合唱曲の歌詞がめっちゃ下品なのを知らなかったので驚いた。貧しい民衆はみんな下品で愚かに描かれている。まあこれは原作がそう(啓蒙思想)なので正しい。ただ、メインキャラがみんな聖人君子みたいに描かれていてちょっと違和感があった。ジャン・バルジャンとかジャベールとかエポニーヌは、貧しい民衆から「更正」した人たちなわけで、もうちょっと民衆と紙一重な感じにしてほしいというか。特にエポニーヌははじめからいい子すぎて、もうちょっとすれっからし感がほしい気もする。
なので、人間っぽいテナルディエ夫妻とかガブローシュとかグランテールとかが癒し(?)だった。こころなしかテナルディエ夫妻は出番も多いし、曲は長いし、優遇されているキャラだと思う。テナルディエ(妻)が夢見がちな性格という設定とか、説明する必要あった?という感じ。
一番好きだったのはガブローシュ役の重松俊吾さんかもしれない。生意気なんだけど、エポニーヌ姉ちゃんが死んでショックを受けているのは子供らしくて良かった。(ガブローシュとエポニーヌが姉弟だって劇中で説明されてないけど)グランテールはガブローシュの兄ちゃん的な存在なのね。思想的に似通ったところがあるし、いいコンビ。
アンジョルラスだけは聖人君子というか完璧超人でOK。小野田龍之介さんは、MAであんなに嫌なやつ(オルレアン公)だったのに今度はこんな好青年に変身していてすごい。
ジャベールが好きなのでジャベールの話をしますが、上原理生さんのジャベールはちょっと若くてかっこよすぎかな・・・ミュージカルのジャベールって、国内でも海外でもみんなイケメンさんですが。
上原さんジャベールは、ジャン・バルジャンにもらった命なんていらねえ!って死んだように見えた。どうでもいいけど、ジャベールとジャン・バルジャンが手錠で戦うシーンは、『エリザベート』のトートとシシィみたいでちょっとどきどきした。
帝劇のこと
もしかすると、私は帝劇の音響が好きじゃないのかもしれない。オケ、特に管楽器がめちゃくちゃ鋭く響く感じ。一方、歌はあんまり響いてこなくて、「何か遠くて歌ってるな」という感じだった。
帝劇に来たのは今回2回目だった。もう1回は2016年の『王家の紋章』初演だったのだけど、そのときも音楽的にはあまり楽しめなかった記憶がある。
もしくは、帝劇に来るときあまり良い席を取れないせいかもしれない。今回は1階の後方で(ただしセンターブロック)、『王家の紋章』のときは2階席だった記憶がある。前回の観劇が自由劇場だったので、帝劇はめちゃくちゃ広く感じた。あと、帝劇は座席の傾斜があんまりないし、前の席が2人とも男性だったので、舞台はあんまり見えなかった。特に、捕虜ジャベールをジャン・バルジャンを逃がすシーン、舞台の袖側なので、ほぼ何も見えず。以前は座席が千鳥配置ですらなかったとは恐れ入る。
背景に映像を使っていて、非常に美しかった。Starsの背景の星とか。ちょっと前までは舞台の背景に映像を使うといかにも投影という感じのぼやけたものだったと思うけど、最近は映像が綺麗だ。『アナスタシア』のときも背景の映像がとても綺麗だったけど、あれは巨大なモニターを使っていたらしい。今回のはどうやっていたんだろうか。
See also:
「民衆の歌」の歌詞とか6月暴動の背景をちょっと解説した記事です。
ジャベールの死についてひたすら書いた記事です。