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観劇日記

【感想】『スポンジ・ボブ ミュージカル:ライブ・オン・ステージ』(配信)

スポンジ・ボブのミュージカルを配信で見た。ニコロデオンというアメリカの子供向け番組の配信サイトでやっていて、体験期間があったので無料で見ることができた。

2017年からブロードウェイで公演されていた作品で、トニー賞にノミネートされたときには結構話題になっていたが、動画とかも見ていなかったので完全に初見。私は原作を全く知らず、スポンジ・ボブが海に住んでいることをはじめて知ったくらい何も知らない状態で見たが、楽しく見ることができた。想像以上に大人でも楽しめる内容だった。

 

ストーリーは、主人公の住む町が火山噴火で壊滅してしまうことが分かり、主人公たちが火山を登って噴火を止める装置を火口に投入する、というもの。典型的なストーリー・・・というか、「指輪物語」じゃん。途中で友達が飛んで助けにくるところも。

プロットは子供向けの単純なものだが、町が滅びると知った住民たちの描写はめちゃくちゃ批評性がある。「状況は完全にコントロールされている」と嘘をつき、従わない市民は攻撃し、イベントを開催して市民の関心を逸らし、最終的には「こうなったのはメディアのせいだ!」と責任逃れをする町長。一方市民は、当初は「家にいても楽しいよね」と言っているが、イベントや宗教に逃避し、科学を信じず、移民を排斥し、互いに攻撃しはじめる。まさに、コロナ禍で起こっていることそのものだ。この作品はコロナ前のものなので、コロナ禍で起こっていることって予見可能だったんだなあと驚く。

差別の描き方も優れている。主人公の友人であるサンディは優れた科学者だが、移民であることで差別され、町を出て行こうと決意する。町が救われた後、サンディの装置のおかげでだと知った住民たちは謝罪するが、サンディの決意はすぐには変わらず、繰り返し説得された後にようやく町に残ることを選択する。失われた信頼はすぐに回復するものではない、口先だけで謝罪すればよいというものではない、ということがしっかりと描写されていて、とても感心した。

 

衣装がすごくカッコいいのも良かった。登場人物はかなり擬人化されていて、原作の形状はほとんどとどめていないが、どのキャラもとてもスタイリッシュな衣装。原作の再現をすればいいってもんじゃないんだよな~。イカルド(彼はイカじゃなくてタコらしい)は足が4本あるが、タップダンスのときには本物じゃないの方の足にもタップする部分がついていたりとかの細かい部分もいい。悪役のプランクトンとカレン夫婦はマトリックス風の衣装で、典型的な悪役衣装ではあるけどダンスするとめちゃくちゃカッコいい。

大道具もカッコよくて、火山を梯子で表現したりと、必要以上にリアルに寄せずに工夫しているのが好みだった。

キャラがマエストロと話したり、スポンジボブのファンだという海賊が乱入したり、メタっぽいギャグもかなりあった。海賊は原作にも出てくるキャラらしく(この人だけ実写)、原作からしてメタなネタが多いらしい。

いろんなミュージカルのパロディが入っていて、これも大人のブロードウェイファンには嬉しいポイントだと思う。『屋根の上のバイオリン弾き』や『プロデューサーズ』は分かったけど、おそらく他にもあったと思う。

 

もちろんキャストはめちゃくちゃ上手い。ものすごいロングトーンとかの超絶技巧がギャグになっているので、ブロードウェイのレベルの高さを感じた。

 

全体として、楽しい作品だけど予想以上に批評性があり、大人でも楽しめる作品だった。

 

See Also:

プランクトンの衣装のせいで、SQUIPを思い出しちゃうね。ということでBMC紹介記事(途中で力尽きている)を貼っておきます。

iceisland.hatenablog.com