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観劇日記

【感想】宝塚歌劇『ひかりふる路~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』2018年(配信)

宝塚の『ひかりふる路』を配信で見た。ロベスピエールが主人公で、しかも作曲がワイルドホーンとあって、前から気になっていた作品だ。

そういえば宝塚は初体験だ。『かげきしょうじょ!』の漫画とアニメを見たので、すっかり自分が宝塚ファンであるかのような気持ちになっていた。『ポーの一族』の配信は見たけど、これは厳密には宝塚ではないし。

 

キャスト(雪組

ロベスピエール:望海風斗

マリー=アンヌ:真彩希帆

ダントン:彩風咲奈

デムーラン:沙央くらま

サン=ジュスト:朝美絢

タレーラン夏美よう

ロラン夫人:彩凪翔

 

あらすじ

1918年1月18日、ロベスピエールら率いるジャコバン派の主張により、国民公会ルイ16世の処刑が決定した。

革命により家族を亡くした貴族の女性マリー=アンヌは、ロベスピエールを暗殺するために彼に近づく。しかし、彼と接触するうちに、理想に共感し、恋人となる。

フランス革命に危機感を抱いたイギリスら諸外国は対仏同盟を結成し、戦争となる。革命政府は徴兵制を実施し対抗するが、徴兵制は人民の反発を招きヴァンデーの反乱が起きる。さらに、ジャコバン派の同志ダントンが汚職で失脚。

ロベスピエール、サン=ジュストは革命防衛のため、恐怖政治を開始。ロラン夫人らジロンド派をはじめ、反革命と目される者を次々と粛清していく。ダントンやデムーランは恐怖政治に反対し、ロベスピエールの説得を試みるが、サン=ジュストに告発され、粛清されてしまう。

独裁者となったロベスピエールは、最高存在の祭典を開催するが、友を処刑したことに思い悩む。そこに、マリー=アンヌが現れ、ロベスピエールを暗殺しようとするが、捕らえられる。

1794年7月テルミドールのクーデタでロベスピエールは失脚し、捕らえられる。牢で再会し、愛を確かめあうロベスピエールとマリー=アンヌ。ロベスピエールは出獄するマリー=アンヌを見送り、自らは断頭台へと向かうのだった。

 

参考:フランス革命

 

感想

ロベスピエールの半生を丁寧に描いた作品。かなり世界史の教科書的なので、勉強になる。宝塚の豊富な人員を生かして世界史上の人物が次々に登場するので、歴史オタク歓喜ではないか。ただ、登場人物が多すぎて若干とっちらかってしまっている印象だった。あと、配信だから配役がキャプションで出ていて分かりやすいが、生だと登場人物が誰が誰だか全然分からないんじゃないかと心配になった。

 

宝塚なので、話の軸は架空のヒロイン・マリー=アンヌとのロマンスのはずなのだが、サン=ジュストの存在感がすごくて、意識を全部持っていかれてしまった。サン=ジュスト役の朝美絢さん、お顔がめちゃくちゃ良いし、演技も歌もダンスも超うまくて、異彩を放っていた。

ワイルドホーン作曲なので派手な合唱曲が何回か入るのだが(好き)、なぜか全部センターでサン=ジュストが歌っている。冒頭の国王処刑演説は、演説の内容の素晴らしさもあるが、歌も上手すぎる。「国王であることこそが罪なのだ!!」「我々の上に王はもういらない!!」ロベスピエールを闇落ちさせる曲も、ヤンデレ美青年の感情が駄々漏れのニコニコダンスが良すぎる。

ロベスピエール役の望海風斗さんの演技も情感深く、特に、思い悩んだりニコニコしながら政敵を粛清しているところが特によい。影のある演技が上手いのってすごいと思った。しかし、宝塚ってこういう闇落ちバッドエンドでも主人公もアリなんだな。エリザベートがいいんだから、いいのかな?

 

ヒロインは革命の犠牲になった貴族の娘という凡庸な設定だが、作品全体は革命を否定するでもなく、共和国初期の混乱な政治の中の困難さを描いていて、中立的な立場である。革命は終わるのか?という問いに対してのタレーランの台詞「たしかに革命は人々の心に自由と、平等と、友愛とを目覚めさせた・・・生き残った我々はその中を生きていく・・・」は良かった。(某MAと違って、デマで革命を貶めようとしていないので、それだけで好印象なんですよね・・・)

タレーランは直接この時代に関わっていないはずだが、彼を悪役っぽく配するのは作劇上分かりやすいし、絶対嘘とは言い切れない微妙なラインなので良いアイディアだと思った。

 

いつもフランス革命ものにオランプ・ド・グージュを出せと騒いでいるオタクなので、マリー=アンヌが交流する女性活動家のリーダーが「オランプ」という名前で嬉しかった。ただし、処刑されるシーンは描かれておらず、オランプ・ド・グージュそのものではないらしい。まあ、オランプ・ド・グージュの処刑を描写してしまうとロベスピエール女性差別主義者になってしまい、宝塚の主人公としてはだいぶ相応しくない感じになってしまうので、仕方ないかもしれない。

とはいえ、女性活動家に対する弾圧が描かれていないのと、「女は自由にはなれない」と言ったマリー=アンヌを「頭の中身の古いお嬢さん」と呼ぶなど妙に言動が現代的なため、フランス革命では女性の権利も認められたかのような誤った印象を与えかねないのが気になった。

 

See also:

iceisland.hatenablog.com

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