RED & BLACK

観劇日記

時代の空気を描いた作品|ミュージカル『ラグタイム』2023年

とても遅くなりましたが、『ラグタイム』感想を簡単に。すごかったです。

 

基本情報

2023年9月30日(土)マチネ(千秋楽)@日生劇場

キャスト

ターテ:石丸幹二

コールハウス・ウォーカー・Jr.:井上芳雄

マザー:安蘭けい

サラ:遥海

ヤンガーブラザー:東啓介

エマ・ゴールドマン:土井ケイト

ファーザー:川口竜也

イヴリン・ネズビット:綺咲愛里

ハリー・フーディーニ:舘形比呂一

ヘンリー・フォード&グランドファーザー:畠中 洋

ブッカー・T・ワシントン:EXILE NESMITH


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感想

20世紀初頭のアメリカを舞台に、白人・黒人・ユダヤ人の3つのコミュニティに属する人々を通じて、人種差別、貧富の格差、女性差別といった問題を描く群像劇。

私がミュージカルに求める全ての要素が詰まった作品だった。

 

登場人物に起きる出来事よりも、時代の空気を表現することに主眼を置いた作品だと感じた。他には『エリザベート』や『李香蘭』がこの類の作品だと思うが、こういうのは大好き!

タイトルの「ラグタイム」は当時新しかった黒人音楽のことで、白人社会においてマイノリティたちの存在感が徐々に大きくなってきていた「時代の空気」を表現している。

個人的には、フォーディズム(資本主義下において工場で分業により効率化を押し進めること)を褒め殺しにした皮肉な曲"Henry Ford"が気に入った。

 

『蜘蛛女のキス』『アナスタシア』とテレンス・マクナリー脚本を見てきて思うが、この人は登場人物や歴史のなかを生きた人々に対して、突き放した冷徹な態度で描写する。

見ていて辛くなるほど苛烈な差別と貧困が描かれているので、観劇するのにめちゃくちゃ体力が奪われた。言論や暴力、あらゆる手段で差別を訴えようとして、結局は権力によって殺されていく黒人たち。資本主義と自由の国に夢を抱いてアメリカにやってきたが、資本主義で使いつぶされて貧困にあえぐ移民たち。

差別の解消に向かって少しずつ動き始めた時代についていけない白人男性や、「アメリカンドリーム」を達成したら昔の貧困を忘れ社会を肯定するようになる移民の姿も、リアルだが皮肉な描き方だ。登場人物たちが地の文のように三人称で語る台詞回しも、歴史から距離を取った描き方を際立たせていた。

作品を通じて絶え間なく、アメリカという国の欺瞞が批判され続けるのが壮絶だった。たまに登場する星条旗がいい味を出している。

カーテンコールでも言及されていたが、日本でこんなに政治的な作品(まああらゆる作品が政治的なのですが)をやってくれたのは素晴らしいし、見られて良かったと心から思う。ただ、アメリカという国を批判する作品だからこそ、いつかアメリカでも見てみたいとも感じた。

 

舞台美術がオシャレで、多用されている切り絵風の背景はかわいいし、分断を表現する光る棒も面白かった。

訳詞も良く、韻の踏み方が尋常じゃなかった。

 

See also:

テレンス・マクナリー脚本作品2つ。

iceisland.hatenablog.com

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