絵のない絵本

観劇レポ、ミュージカルの話を書いています

【感想】『サーシャと魔法のワンダーランド』2014年

Amazon Primeで『サーシャと魔法のワンダーランド』という映画を見た。原題はСтрана хороших деточек(良い子たちの国)。

ロシアの子供向け映画である。字幕版もあるようだがAmazon Primeでは吹き替え版しか無料になっていなかったので、吹き替え版を見た。

いつもはネタバレを書いていますが、この作品は展開の予想外さが良い味を出していると思うので、今回はネタバレなしで感想を書きます。

 

あらすじ

主人公サーシャはいたずら好きの女の子。大晦日の日、いたずらをして怒られてしまったサーシャは自分の部屋に閉じこもる。家族たちが「来年は良い子に来て欲しい」と願うと、「良い子」の女の子が現れ、家族はサーシャのことを忘れてしまった。

一方、サーシャは「大使」と名乗る謎の男に、「良い子の国」という不思議な世界に連れて行かれてしまう。「良い子の国」では、子供たちは遊んだりお菓子を食べたりせず、一日中労働に従事していた。さらに、これまでの記憶も消されてしまうという。逃げ出そうと奮闘するサーシャだが・・・

 

感想

「子供は厳しく躾けるよりもノビノビ育てた方が良いよね」という、子供に寄り添った映画。「良い子の国」は、記憶を消された子供たちが「役に立つ」ことだけをしているディスとピアだ。監視社会、労働賛美、国家主義(国家なのか不明だが)などはソ連を思わせるが、異常な健康・清潔志向は現代の風潮に対する風刺なのかなと思った。

ストーリーは意外な展開に独特の魅力があり、結構楽しく見られる。ただし、子供向け映画にしても、さすがにプロットが雑すぎじゃないだろうか。終盤、ご都合主義と因果関係が謎な展開でどんどん意味不明になり、いろいろな疑問点が解消されないまま慌しく終わる。全体で100分と短いが、最後の方はもうちょっと丁寧にやった方がいいと思った。ツッコミどころ満載なので、そういうのが好きな人には良い。

犬に比べて猫が露骨に贔屓されている展開には笑った。ロシアには猫が好きな人が多い気がする。

 

他の方の感想にCGがひどいとあったが、技術的にはそれなりにちゃんとしているように感じた。少なくとも、ソ連時代に比べるとマシ(当然だ)。ちょっとセンスは古いし、ハリウッド的な派手さはないけど、レトロで味がある。あと、カメラアングルとカットの移り変わりの間が独特で面白い。

子供が変な男にCGの国に連れて行かれるというストーリーは『チャーリーとチョコレート工場』を露骨に髣髴とさせるが、『チャーリーとチョコレート工場』ほど気持ち悪くはないので、良かった。

 

ミュージカル映画」と冒頭に書いたが、曲は少なめで5曲くらい。子供たちのダンスは、あんまり上手くなくて、近所の小学生が踊っているような感じだが、この作品のテーマに合っている。大使役のВячеслав Манучаров氏は歌手やミュージカル俳優ではなくストレートプレイの俳優さんのようだが、歌はけっこう上手かった。

 

吹き替え版でも、歌はロシア語のままである。この映画に吹き替えをつける必要はあっただろうか。この映画を子供に見せる人はあまり日本にはいないのでは・・・

吹き替えは、英米風(?)の典型的な洋画の吹き替えの喋り方なので、ロシア人がこういう喋り方になっていると違和感がある。

 

See Also:

こちらはマジでCGがやばいので見てほしい(見なくても良い)。

iceisland.hatenablog.com

ロシアのミュージカルに関心のある方はこちらもどうぞ。

iceisland.hatenablog.com

自己紹介&観劇遍歴

このブログについて

ブログを見てくださってありがとうございます。

このブログのメインコンテンツは観劇や映画の感想です。主に自分用の備忘録ですが、観劇の感想をまとまとまった文章で記録している人は意外と少ないので、後世の人のためにもなるかもしれないと思って書いています。読んで面白く思ってもらえると嬉しいです。

日本未公開のミュージカルの布教も少々あります。

 

自己紹介

修士(工学)。電気機器メーカーの設計開発者 兼 労働組合員です。左翼(共産主義者・共和主義者・フェミニスト)のため、観劇や映画の感想にもそういった視点からの感想が含まれます。

ロシア・旧ソ連贔屓です。ロシア語を勉強していますが永遠の初心者になりそうな予感です。

首都圏に住んでいるので主に東京の劇場に出没します。

 

Twitterはこちらです。

 

好きなもの

歴史・宗教・政治運動・1対1の人間関係(恋愛・非恋愛含む)などの題材を好みます。

 

ミュージカル:

観劇遍歴(後述)を見ればお察しですが、Andrew Lloyd Webber, Sylvester Levay, Frank Wildhornあたりの作曲家が好きなミーハーです。

役者さんに対する関心は薄い方ですが、推しはパク・ウンテ(박은태)さんです。

 

オペラ:

学生のときにアマチュアオペラサークルに入っていたので、オペラもたまに見ます。好きな作曲家はGiuseppe Verdiです。

 

漫画:

萩尾望都, 竹宮惠子, 山岸凉子, 木原敏江, 三原順, 成田美名子, 佐々木倫子などの名作がバイブルです。ちなみに漫画はKindleで読みます。

 

観劇遍歴

これまで観劇したもののまとめです(ミュージカルだけ)。

自分ルールは、

・同じ演目・同じ演出では1シーズンに複数回見ない

・平均して月1回程度以内にする

です。

 

2012年

10月28日(金)マチネ@自由劇場 『ジーザス・クライスト=スーパースター(エルサレム)』

12月12日(水)ソワレ@自由劇場 『ジーザス・クライスト=スーパースター(ジャポネスク)』

 

2014年

8月22日(金)ソワレ@Prince Edward Theatre ”Miss Saigon”

8月23日(土)マチネ@Prince of Wales Theatre "The Book of Mormon"

 

2016年

7月5日(火)ソワレ@帝国劇場 『エリザベート

8月25日(木)マチネ@帝国劇場 『王家の紋章

 

2017年

9月22日(金)ソワレ@新国立劇場中劇場 『デスノート THE MUSICAL』

 

2018年

8月12日(日)ソワレ@シアターオーブ 『RENT』

11月25日(日)マチネ@シャルロッテシアター 『ジキル&ハイド』

11月25日(日)ソワレ@ブルースクエアシアター『エリザベート』

 

2019年

1月12日(土)ソワレ@日本青年館ホール『あんさんぶるスターズ!エクストラ・ステージ』

8月9日(金)マチネ@自由劇場  『李香蘭』

8月25日(金)マチネ@相模女子グリーンホール『エビータ』

9月23日(月)マチネ@東京ドームシティホール  『テニスの王子様 3rd season 全国大会 青学vs.立海 前編』

 

2020年

1月10日(金)ソワレ@トゥサンアートセンター『ファンレター(팬레터)』

1月11日(土)ソワレ@シャルロッテシアター 『スウィーニー・トッド』

1月12日(月)マチネ@忠武アートセンター 『レベッカ』

1月12日(月)ソワレ@ブルースクエアシアター 『アイーダ』

2月10日(月)ソワレ@東京ドームシティホール『テニスの王子様 3rd season 全国大会 青学vs.立海 後編』

3月21日(土)マチネ@シアターオーブ 『アナスタシア』

9月12日(土)マチネ@キャッツシアター 『キャッツ』

12月5日(土)マチネ @シアターオーブ 『プロデューサーズ』

 

2021年

2月7日(日)ソワレ@日本青年館ホール 『新テニスの王子様 The First Stage』

2月21日(日)ソワレ @シアターオーブ  『マリー・アントワネット』

3月27日(土)マチネ@東京国際フォーラムCホール  『アリージャンス~忠誠』

6月6日(日)マチネ@自由劇場 『夢から醒めた夢』

6月25日(金)ソワレ@帝国劇場 『レ・ミゼラブル』

7月10日(土)マチネ@戸田市文化会館大ホール  『ひめゆり』

8月1日(日)マチネ@フェスティバルホール 『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』

 

【感想】ミュージカル『カム・フロム・アウェイ』2021年(配信)

Apple TVで『カム・フロム・アウェイ』(Come From Away)の配信を見た。2017年にトニー賞の候補になった作品である。今回の配信は、映画の形式ではあるが、今まさにブロードウェイで上演中の舞台の映像化だそうだ。

 

あらすじ

2001年9月11日、ニューヨークの同時多発テロにより、アメリカ全土の空港が封鎖され、アメリカに向かっていた飛行機は行き先変更を余儀なくされた。カナダのニューファンドランド島にあるガンダー国際空港では、カナダ最大の38機の飛行機を受け入れた結果、7000人の乗客と乗務員がやって来ることに。

空港に隣接する人口9000人の小さな町ガンダーでは、乗客達の受け入れのため、避難所や必要物資の調達に大忙し。非常事態で不安な思いを抱えていた乗客たちも、ガンダーの住人に暖かく迎え入れられ、交流するなかで心を開いていく。

3日間の滞在の後、空域封鎖が解除され、乗客達は去っていった。事件によって失われてしまった命や、壊れてしまった人間関係もあれば、新しい出会いもあった。

乗客達はガンダーの住民に感謝し、寄付を募って奨学金を設立。事件から20年経った今でも、住民と乗客の交流は続いている。

 

感想

悲惨な事件の裏のほっこりいい話、と思って見始めたけれども、単純なハッピーエンドにはではなく、事件で失われた命や表出した差別がきっちり描かれている骨太な作品だった。

ただし、事件の具体的な描写は全くない。やはり、フラッシュバックを起こしてしまったり、辛い記憶が蘇ってしまう人が多いだろうから、配慮されているなと感じた。

自分は日本に住んでいる子供だったので別に知り合いが関係あったりはしないが、東日本大震災のときの体験を思い出した。状況がよく分からないまま学校に泊まって、次の日の朝テレビを見て愕然としたんですよね・・・だから、乗客たちが事件のことを知らされないまま飛行機の中で一夜を過ごし、避難所でテレビを見る場面はすごく共感してしまった。

 

一番感動したのは、宗教の扱い方で、9.11が宗教に由来する事件だけに、宗教に関係するエピソードがいくつも挿入されている。争いを生んだのは(直接的には)宗教だが、人と人をつなぎ、平和を求めるのも宗教だというメッセージに希望が持てた。

1つ目は、言葉の通じない乗客を受け入れた救世軍の兵士が、聖書のページを指差して、安心してと伝えるエピソード。

何事も思い煩ってはならない。ただ、事ごとに、感謝をもって祈と願いとをささげ、あなたがたの求めるところを神に申し上げるがよい。

ピリピ人への手紙(口語訳) - Wikisource

この場面、短いけど言葉の違いを信仰がつなぐという、すごくいいエピソードですよね。あと、聖書の文句を覚えている救世軍の人がえらい。まあ、イスラームであればみんなアラビア語がある程度分かるので、言葉が通じないという自体はそもそもないわけですが。

2つ目は、ほとんどプロテスタントばかりのガンダーの町で、様々な宗教の乗客たちを受け入れるのに苦心する場面。カトリックの教会を求める人、お祈りの場所を求めるムスリムユダヤ教のラビなど、いろいろな宗教の乗客たち。彼らがそれぞれの言葉でお祈りの言葉を唱える。ここ、英語以外は字幕になっていないので、調べました。(イスラーム以外は)全部平和への祈りなんですよね・・・

英語の部分は「聖フランシスコの平和の祈り」。カトリックでもプロテスタントでも使われる祈祷文とのこと。しかも歌うのがゲイのケビンという。

Make me a channel of your peace:
Where there is hatred
Let me bring your love
Where there is injury
Your pardon, Lord
And where there's doubt
True faith in you

Make me a channel of your peace
Where there's despair in life
Let me bring hope
Where there is darkness, only light

And where there's sadness, every joy

O master, grant that
I may never seek
So much to be consoled
As to console
To be understood
As to understand
To be loved
As to love with all my soul

主よ、わたしをあなたの平和の道具としてください。

憎しみのある所に、愛を置かせてください。

侮辱のある所に、許しを置かせてください。

分裂のある所に、和合を置かせてください。

誤りのある所に、真実を置かせてください。

疑いのある所に、信頼を置かせてください。

絶望のある所に、希望を置かせてください。

闇のある所に、あなたの光を置かせてください。

悲しみのある所に、喜びを置かせてください。

主よ、慰められるよりも慰め、理解されるより理解し、愛されるよりも愛することを求めさせてください。

(訳はWikipediaより引用しました。フランシスコの平和の祈り - Wikipedia

ヘブライ語の部分のOseh Shalomはイスラエル民謡とのこと。この場面はメロディーもイスラエル風ですごく素敵ですね。イスラエル民謡好きなんですよね。

Oseh shalom bim’romav
Hu ya'aseh shalom aleinu
V'al kol yisrael
V’imru, v’imru amen

Ya'aseh shalom
Ya'aseh shalom
Shalom aleinu v'al kol yisrael
Ya'aseh shalom
Ya'aseh shalom

Shalom aleinu v'al kol yisrael

高きところより平和をもたらされる主よ

主はわれらに平和をもたらされる

全てのイスラエルの民に

アーメン

主はわれらに平和をもたらされる

全てのイスラエルの民に

(日本語訳が見つからなかったので英語への翻訳を参考にしました)

アラビア語の部分はイスラームのお祈りの文句から抜粋しているようです。イスラームのお祈りでは音楽は使わないので、ここは歌ではなく台詞になっています。

Allahu Akbar
Subbhaan Rabbi al Azeem
Allahu Akbar
Subhaan Rabbia Al-Aala’a
Allahu Akbar
Alhamdulilah

アッラーは偉大なり

偉大なるわが主の栄光をたたえ奉る

アッラーは偉大なり

荘厳崇高なわが主の栄光をたたえ奉る

アッラーは偉大なり

アッラーよ栄光あれ

(訳はIslamic Cente Japanを参考にさせていただきました)

ヒンドゥー教のお祈りの部分は、Asato Maaというマントラだそうです。サンスクリット語なのかヒンドゥー教なのか分かりませんでした・・・ヒンドゥー教ではああやってお祈りするんですね。見たことがないので知らなかった。

Asato maa
Sad-gamaya
Tamaso maa
Jyotire-gamaya
Tamaso maa
Jyotire-gamaya
Mrityor-maamritan
Gamaya
Om shaantih
Shaantih shaantih

おお神よ

どうか真ならざるものから真なるものへと我を導きたまえ

闇から光へと我を導きたまえ

死から不死へと我を導きたまえ

おお、平和あれ、平和あれ、平和あれ

(訳はこちらのブログを参考にさせていただきました)

あと、ムスリムの乗客、アリに対する差別の描き方もちゃんと描かれていて、良かった。乗客たちだけではなく航空会社も彼に対して差別的な扱いをしてしまうわけですが、実話に基づいておりモデルになった人や会社もいるにも関わらず、過去の過ちをきちんと描けるのはやはり偉いなあと思う。事件から10年以上経ったからこそ描けるのかもしれませんね。

 

群像劇ですが、一番主人公的な立場なのは、機長のビバリーアメリカン航空初の女性機長でもあり、彼女が半生を歌うMe and the Skyは曲もカッコいいし、ビバリーを演じるJenn Colellaさんの歌い方もすごいカッコいい。"They can get their own drinks"(飲み物は自分で準備しろ!)の笑い方とか超クールでスカッとする。女性解放の歌ってミュージカルに無数にあって、ファンタジー世界で活躍して女の子をエンカレッジするような曲ももちろん好きですが、同時代を生きる先輩の歌ってやっぱり感動しますね。

ゲイのケビンとケビンのカップルが別れてしまうのは悲しいなあ。別れもあれば出会いもあるということなんだろうけど・・・非常事態のちょっとしたすれ違いで別れなくってもいいじゃん!仲直りしてよ~と思いながら見ていたが、復縁してくれなくて悲しい。

労働組合員としては、ストライキ中のバス運転手たちが、「緊急事態」だからといって簡単にバスを動かしてくれないのが良かった。日本だと、「緊急事態」に国家に従わないなんて「非国民」ということになりがちなので、こういう気骨はすごいなあと思う。

 

たくさんのガンダーの住民や乗客たちを、10人強のキャストで演じる。当然、衣装や話し方で演じ分けるのだが、非常に上手くて、最後まで同じ役者さんだと気づかなかった部分まであった。今年は、配信ばかり見ているせいなのか、コロナ禍でコンパクトなカンパニーの演目が人気なのか、一人の役者さんが複数の役を演じるミュージカルをいくつも見ているのだが(国内の『ダブル・トラブル』、韓国の『ジェントルマンズ・ガイド』『キム・ジョンウク探し』『伝説のリトルバスケ団』、全部配信だけど)、やはりブロードウェイはレベルが違うと思わされた。それに、早着替えを頑張るというよりは、ジャケットや帽子などの小物で素早く役を変えていて、スマートだった。

舞台セットも非常にシンプルで、椅子と机だけ。並べ替えることで、飛行機の中や酒場を作っているのだが、照明や撮影の工夫によって並べ替えているところに視線がいかないようになっているし、並べ替えの動作も最小化されていて、非常にスピーディな場面転換が実現されていて驚いた。

あと、観客に向かって「そのとき私は○○した」と回想するような台詞が多かった。ドキュメンタリー番組みたいにするためだと思うのだが、ユニークな演出で面白い。

 

音楽は、ニューファンドランドの文化に対するリスペクトが感じられてとても好きだ。民族音楽の楽器がいくつも使われていて、ケルト音楽に似ている。カーテンコールでもバンドの見せ場が多くて嬉しかった。

ニューファンドランド島は、現在はカナダに属しているが、第二次世界大戦までは英連邦の自治領としてほとんど独立国家のような感じだったらしい。(Wikipedia参照)島民であることを誇りに思っている人たちだから、"I am an Islander"という歌詞になるんだなと納得。

ちなみに、劇中で、「何もない」だの「岩場」だの言われていて気になったので調べてみたところ、ニューファンドランド島は、面積は北海道よりも少し大きく、人口は北海道の10分の1くらいだそうだ。たしかに結構な田舎のようだ。

 

劇中に"the middle of nowhere"という歌詞がたびたび出てくるので、The Band’s Visitを連想してしまった(Welcome to Nowhereという曲がある)。The Band’s VisitはCome From Awayの次の年のトニー賞受賞作だが、プロットは大体同じで、異文化からの客を田舎の人たちが暖かくもてなして交流するというもの。民族音楽が使われているのも共通点だし。

The Band’s Visitはホリプロが上映権を獲得したという噂を聞いた気がするが、その後音沙汰がなくて寂しい。上演待ってます!

 

See Also:

ファン層が被っていそうな(?)ボブミュの感想を貼っておきます。

iceisland.hatenablog.com

 

【感想】ミュージカル『伝説のリトルバスケ団』(配信)

韓国のオリジナルミュージカル『伝説のリトルバスケ団』(전설의 리틀 농구단)を配信で見た。

ウェルカム大学路という、大学路の演劇やミュージカルを配信してくれるというイベントで、しかも無料!『ファンレター』や『キム・ジョンウク探し』も無料配信で見せていただいたが、韓国観光公社は気前が良すぎて毎回不安になってしまう。

 

キャスト

ジョンウ:ユ・スンヒョン

スヒョン:イム・ジンソプ

サンテ:キム・スンヨン

スンウ:ク・ジュンモ 

ダイン:クァク・ダイン

ジフン:キム・チャン

 

あらすじ

スヒョンはいじめられっ子の高校生。教室の窓から身を投げようとするが、失敗して目を覚ますと、スンウ、ダイン、ジフンという3人の男の子に囲まれていた。なんと、3人は15年前に死んだ幽霊。自分たちを見ることができたのはスヒョンがはじめてで、成仏するのを手助けしてほしいという。

幽霊たちはスヒョンに憑依して高校生活を楽しみ、彼を地域のバスケットボール団に連れて行く。そこにはスヒョンのクラスメイトのサンテがいた。ちょうど団員が足りず困っていたコーチのジョンウは、スヒョンを団にスカウト。サンテ以外の団員たちは全くやる気がないが、次の大会で成果を出さなければ解散と告げられたジョンウ先生は、猛練習を始める。

海沿いの町のチームとの練習試合が決まり、喜ぶバスケ団員たち。始めは海には行かないと言っていたジョンウ先生だったが、結局海に連れて行ってくれる。海で練習していると、海で亡くなったダインのためにお供えものをしにきたダインの父親と出会う。

猛練習のかいあって、練習試合に勝利したバスケ団。スヒョンはキャプテンに任命され、ジョンウ先生からホイッスルを託される。喜ぶスヒョンだったが、学校のいじめっ子にホイッスルを壊されてしまう。落ち込むスヒョンに、ジョンウ先生は学生時代の思い出話をする。ダンクシュートが大好きなスンウ、海で子供を助けようとして亡くなった3人のチームメイト、最期に託されたホイッスル・・・3人の幽霊はジョンウ先生の昔の仲間だった。ジョンウ先生の前に姿を現す3人の幽霊。昔のようにバスケをして満足し、去っていった。

3人が成仏したことを知らないスヒョンは不思議がる。ついに大会の日、試合の結果はボロ負け。解散かと悲しむ団員たちだったが、ジョンウ先生にチームは存続できると告げられ、これからも共にプレイできることを喜ぶのだった。

 

感想

感動的なストーリーで、役者さんの演技がすごく上手いので、当然泣いてしまった。特に、ダインの役者さん(ご本人もダインさん)の表情の演技がすごいし、カメラワークもちょうど良く表情を映してくれる。

 

とくかく男子高校生たちが超可愛い。「海に行きた~い」の曲とか海で遊んでる曲とか、ダンスが可愛すぎる。小道具の使い方もあざとすぎる。ダイン(と同じ人が演じているモブ団員)の足ひれパタパタとか、サンテの浮き輪とか、「練習だ!」と言われてるのに水鉄砲とか。スヒョンやサンテが、ダインのお父さんにお菓子をもらうときに「知らない人から食べ物を貰っちゃダメって・・・」と躊躇するシーンは、子供かい!となったけど。全体的に高校生のわりにはちょっと幼く描かれていて、完全に可愛い路線なんですよね。韓国や日本は男の子を可愛く見せる文化が発達している。

とにかく幽霊3人組が魅力的なので、もっと見ていたい・・・なんなら3人がスヒョンと一緒に2度目の学生生活楽しむだけのスピンオフがほしい。そういうコメディ漫画ありそう。『シャーマンキング』の始めの方がそういう感じだった気がする(うろ覚え)。幽霊3人組の中で、ダインは勉強を教えてくれるシーンとお父さんのシーン、スンウはバスケをするシーンと見せ場があるので、ジフンにも見せ場をあげてほしかった。折角イケメンさんなのに。

字幕が一部なかった(アドリブの部分?)せいなのかもしれないが、はじめ、スンウだけがバスケをやっていて、他の2人は別にバスケをやっていなかったのかと思ってしまった。

 

キャスト6人でコンパクトな舞台。幽霊の3人は、スヒョンとサンテ以外の3人のバスケ団員や、いじめっ子も演じるので忙しい。ただ、髪形がそのままなので、ちょっと混乱してしまった。それに、チームメイトとの友情がテーマのストーリーなのに、モブ団員たちには個性も名前もないままなのでちょっと寂しい。かわいいだけに・・・しかし、モブ団員たちはあんなにやる気ないのになぜバスケ団に所属しているのだろうか。スポーツをやっていると大学に入りやすいとかの事情があるのだろうか。

日本や韓国の学生ものだと、全員が同じ制服やユニフォームなのでキャラの見分けが難しいことが結構あるが、ヘッドホンやヘッドバンド、眼鏡でうまく見た目の違いを出してくれていた。

 

バスケの演出が気合が入っていて、舞台上でボールを使って本当にバスケをしている。全然バスケが出来ないので分からないが、狙ったときにゴールしないといけなかったり、ダンクシュートが出来ないといけないので、すごくバスケが上手い人じゃないと出来ないんじゃないかと思う。

他のバスケもののミュージカルを見たことがないので、どんなふうにやっているのか調べてみた。『17 Again』はエアバスケだが、漫画原作の『黒子のバスケ』や『DEAR BOYS』は実際にボールを使ってシュートもやっているみたいだ。2.5次元は原作らしさが重視される文化だからかもしれない。

 

See Also:

大学路ミュージカルの『ファンレター』(これは現地で見たときの)と『キム・ジョンウク探し』のレポも貼っておきます。

iceisland.hatenablog.com

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【感想】『シュミガドーン!』2021年

『シュミガドーン!』(Schmigadoon!)を見た。Apple TVという配信サービスのオリジナルドラマ。30分×6話しかないので、気軽に見られる。

黄金期(1940~50年代)のミュージカルのパロディがたくさんあるコメディドラマだが、その時代のミュージカルに詳しくない自分でも楽しめる、キュートな作品だった。

youtu.be

 

あらすじ

医師のメリッサとジョシュはつきあって数年のカップル。倦怠期を乗り越えるため、関係改善プログラムのキャンプに参加するが、山の中で迷子になり「シュミガドーン」という町に迷い込んでしまう。シュミガドーンは、黄金期のミュージカルの世界だった。住人たちは、突然歌って踊りだすだけでなく、価値観も1940~50年代の超保守的。現代のリベラルなカップルであるメリッサとジョシュはウンザリ。しかしシュミガドーンから出るには「真実の愛」を見つける必要があるという。

メリッサとジョシュは、別れてそれぞれ「真実の愛」を探すことに。2人はシュミガドーンで暮らすうちに、未婚の母やゲイなど古い価値観の中で抑圧されている人たちを助け、保守的だった住民たちも変えていく。それと同時に、自分たちも変われることを実感する2人。互いへの愛を確認して仲直りし、ハッピーエンド。

 

感想

個人的な好みとしては、クラシックなミュージカルは価値観が合わないのであまり得意じゃないが、この作品では保守的な価値観も含めてネタにされており、現代人のメリッサやジョシュがツッコミを入れてくれるので楽しく見られた。男性のジョシュが医者なのは喜ばれるのにメリッサは女性なので嫌がられるとか、差別がちゃんと描かれているので安心。ジョシュもうっかり女性(とのデート)を買うオークションに参加してしまったりはするが、手を出そうとした相手が未成年だと知って慌てるなど、最低限、現代人としての常識はある(現代のアメリカの作品だから当然?)。

とはいえ、メリッサが性的同意にやたらにこだわるなど、リベラル過ぎ(?)なのも多少ネタにされていて、バランス感覚が良くて感心した。

 

プロットは、現代人が異世界転生(?)して現代の価値観で無双(?)するという王道。悪役も最後には改心するハッピーエンドで、キャラクターみんなに対する愛が感じられるストーリーなのが嬉しい。はじめはミュージカル世界の住民でしかなかったシュミガドーンの人々が、話が進むにつれてキュートになってくる。ゲイカップルの2人のラブシーンが特に好き。ゲイのキャラクターがLet It Goするシーンなんて見飽きたような気もするが、この作品だと世界が想像を絶する保守なので逆に新鮮。

 

ミュージカルのお約束(観客に状況説明してくれる子供とか、運転中に歌っても大丈夫とか)をめちゃくちゃネタにしているが、どれも愛がある。メリッサはミュージカル好きだがジョシュは嫌いというのもバランスがとれている。

元ネタの作品は、『オクラホマ!』『回転木馬』『サウンド・オブ・ミュージック』『王様と私』などなど。私はこのあたりの作品をあまり見てないのであんまり分からなかったが、性教育版「ドレミの歌」とか、あからさますぎるやつはさすがに分かった。あと、作中でメリッサが解説もしてくれるので親切。

基本的には元ネタと似たような曲調だが、ラストシーンや市長がLet It Goするシーンでは、現代的な曲になっているのも芸が細かくて好きだ。

↓の比較動画が分かりやすい。比較すると『オクラホマ!』も本当にそのまんまだな・・・

youtu.be

人種に関するネタも面白い。作中でメリッサが指摘しているように、シュミガドーンの住人の人種は多様であり、明らかに異人種のカップルもたくさんいる。それなのに、「異人種間の結婚」が非難されるシーンがある。ということは、設定上は白人で、カラーブラインドキャスティングされているということだ・・・メタすぎる。

あと、「多宗教」バザーなのに、長老派とメソジスト派しかいないとかも地味に好き。

 

ミュージカル部分のクオリティはすごく高い。曲は皆キャッチーで、パロディを抜きにしても楽しい。古風な衣装や背景もレトロでかわいい。

役者さんも当然ミュージカルで活躍している方々。ウィキッドのグリンダ役のクリスティン・チェノウェス、レミゼ映画版アンジョルラス役のアーロン・トヴェイト、アベニューQのクリスマス・イブ役のアン・ハラダなどなど。

6話という短いシリーズだからこのクオリティで作れたんじゃないかと思うけど、第2シーズンの噂もあるらしく、楽しみ。

 

【感想】『ミス・マルクス』2020年

渋谷のシアター・イメージフォーラムで『ミス・マルクス』を見てきた。

カール・マルクスの末娘エリノア・マルクスを主人公とした伝記映画だ。以下ネタバレがあるのでお気をつけください。

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エリノア・マルクスという優秀な女性が、家族との関係性の中で疲れ果ててしまうという、辛いストーリーである。

エリノア・マルクスは優秀で熱心な社会主義者だが、彼女の人生には、両親の介護、甥の育児、パートナーの病気の世話など、ケア労働がどんどんのしかかってくる。

しかし、一番エリノアを疲弊させるのは、父やパートナーの性的な不誠実さである。エリノアは、両親のことを愛し合う理想的な夫婦だったと思っており、そういう関係をカップルのあるべき姿と信じている。しかし、物語の中盤、実は、父は使用人に産ませた隠し子をエンゲルスに押し付けて育てさせていたことが明らかになり、大ショックを受ける。さらに、事実婚のパートナーであるエドワードも、エリノアが稼いだ金を使い込みつつも、若い愛人と浮気していたことが分かる。

現代人の感覚だと、浮気野郎の父親やパートナーなんて捨てちまえと思うが、エリノアは父やパートナーを愛し続ける。もちろん、この時代、現代よりも女性には貞節が求められたはずだ。しかし、エリノア自身は決して保守的な人間ではなく、女性の権利に関して非常に現代的な感覚をもったフェミニストである。性的関係についても、法律婚に囚われず、ポリアモリーという選択肢も存在すると理解したうえで、事実婚・モノガミーという道を選ぶ。エリノアが、父やパートナーを捨てなかたったのは、時代的にそうせざるを得なかったのではなく、たとえ報われなくても自分の信じる理想の愛の形に向かって「前進」したのではないかと感じた。

エリノア自身が語っているように、「理解がある」はずの男性でも、性的関係においてはパートナーの尊厳を傷つける行動をするというのは、現代でもよくあることだ。個人的には、活動家が自由な性愛と称してポリアモリーや婚外セックスを称揚する風潮は、男性に都合が良いばかりで嫌いなので、エリノアには結構共感した。

 

物語の中盤、エリノアとエドワードが『人形の家』を演じるシーンが象徴的に使われている。はじめ、演劇だということが示されず、本当にエリノアとエドワードが別れ話をしているのかと思わされるが、実は・・・という展開で、キレがある。何しろ、ノラの台詞はエリノアの境遇そのものだ。2人が『人形の家』を演じたのは史実だそうだが、何を思って演じたのだろうか。

ノラが夫を捨てずに家庭を修復するという翻案をしたエリノアに対して、エドワードはノラが自殺すればロマンチックだと語るのは、明らかに2人の結末の伏線である。このジョークを「面白くない」と言ってくれる女友達がいたのが救いだった。

 

エドワードとエリノアの恋が、エドワードがパーシー・シェリーについて講演するシーンから始まっているのもちょっと示唆的だと思った。パーシー・シェリーは詩人で、妻のメアリー・シェリーは『フランケンシュタイン』の作者として有名、メアリーの母は有名なフェミニストのメアリ・ウルストンクラフトであるが、パーシーの女性関係のカスさはエドワードと同程度である。同時代の男の多くがカスだっただけで、特に深い意味はないのかもしれないが・・・

 

劇中音楽はクラシックに加えて、ところどころパンクが使われている。面白いけど、パンクの場面が少ないし、ちょっと唐突な印象を受けた。パンクな場面をもっと増やしてくれたらいいのに。

エンゲルスが死んで「インターナショナル」パンクバージョンが流れるシーンはめちゃくちゃ盛り上がった。けど、何でここでパンクなのかはよく分からない。社会主義者の仲間たちはみんな教養があるから、ちゃんと「インターナショナル」をフランス語で歌えてすごい。

 

この時代の風俗に詳しくないが、衣装やセットは当時に忠実に作っているように感じられた。エリノア達は社会主義者といえども上流階級なので、けっこう良い暮らしをしているんだな。でかい天蓋つきのベッドにエンゲルスが寝ているシーンはなんか笑ってしまった。

衣装や壁紙に、ウィリアム・モリス風のものがたまに登場していて、とてもお洒落で好みだった。ウィリアム・モリス自身は映画には登場しないが、彼も社会主義者であり、エリノアと活動を共にした同志である。特に、冒頭のマルクスの葬式のシーンでエリノアが着ているストール(?)の柄は、ロゴにもなっているので、こだわりがあるんだろうか。

 

なぜか、エリノアが北村紗衣先生を彷彿とさせた。髪型が似ているのもあるが、物語の舞台はイギリスだし、フェミニストだし、演劇に造詣が深いのも似ている。

 

Heathers: the musical "Freeze Your Brain"

Heathers : The musicalの曲、"Freeze Your Brain"を紹介します。

概要

ベロニカはセブン・イレブンで転校生J.D.と遭遇する。J.D.は孤独な境遇と、悲しみを麻痺させる方法について語る。

www.youtube.com

 

歌詞

原語(英語)歌詞はこちらのサイトで見られます。

 

J.D.:

俺は10個も高校に行った

だから記憶は曖昧

すぐに去ってしまうから、根を生やそうとしても意味がない

父さんは荷物が入ったままの2つのスーツケースを書斎に置きっぱなし

だから問題は次はいつ去るかっていうことだけ

 

俺は他人の名前も顔も覚えない

信じられるのはこのコンクリートのオアシスだけ

絶望しそうになるたびに、そこにはセブンイレブンがある

ラスベガスからボストンまで、どこの店も同じ

リノリウムの通路に迷い込むのが好きさ

俺が祈るのはフローズンドリンクの祭壇

そう、俺はこの甘美で冷徹な奔流のために生きている

 

脳みそを凍らせよう

ストローを吸って

苦痛の中に迷い込もう

全てが麻痺すると幸福が訪れる

コカインなんて必要ない

脳みそを凍らせよう

脳みそを凍らせよう

 

J.D.:

いっぺんやってみる?

 

ベロニカ:

ママはあなたがこんなもの食べてるの知っているの?

 

J.D.:

もうできない

 

母さんが生きていたとき

俺たちは普通に暮らしてた

でも今は俺と父さんだけ

俺らは堅苦しくなくなった

パスタの作り方も、家賃の払い方も知った

世界は1セントも払っちゃくれないと知った

 

君には将来の計画があるんだろう、ベロニカ・ソーヤー

どこかの大学に行って弁護士と結婚するんだろう

でも、この世の終わりには傷つくだろう

だから壁を作り始めた方がいい

 

脳みそを凍らせよう

氷の中で泳いで

苦痛の中に迷い込もう

自分が視界から消えるまで、目をしっかり閉じて

何も残さないように

 

脳みそを凍らせよう

頭蓋骨を粉砕しよう

更なる苦痛をもって苦痛と戦おう

自分が誰かを忘れて、重荷を下ろそう

6週間でもとの道に戻るということを忘れよう

頭の中の声がお前は死んだ方がいいと言っても、死んじゃいけない

 

ただ脳みそを凍らせよう

脳みそを凍らせよう

脳みそを凍らせ続けよう

やってみて

 

 

Heathersのまとめ記事↓

iceisland.hatenablog.com