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観劇日記

アップデートしてもやっぱりホモソ|ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳』2021年

今年最後の観劇は、『フィスト・オブ・ノーススター』だった。いうまでもなく原作は漫画『北斗の拳』で、今回が初演なのでかなり話題になっている。一言で言うと、超豪華版2.5次元ミュージカルだった。

クオリティが高く楽しい作品だが、後半はホモソすぎてちょっとついていけなかった。

 

基本情報

2021年12月19日(日)マチネ@日生劇場

キャスト

ケンシロウ:大貫勇輔

ユリア:May’n

ラオウ宮尾俊太郎

マミヤ:松原凜子

バット:渡邉蒼

リン:山﨑玲奈

トキ:小野田龍之介

レイ:上原理生

シン:植原卓也

ジュウザ:伊礼彼方

リュウケン他:川口竜也

トウ・トヨ:白羽ゆり


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感想

2.5次元舞台でやれたらいいと皆が思っていたことを、費用をかけてでも全部実現してやろうという気概を感じた。ミュージカルとしても、漫画の再現度も、どちらもクオリティが追求されている。

複数のイケメンキャラが登場するストーリーや、再現度の高い衣装やプロジェクターの多用によって原作漫画を表現しているところは、いかにも2.5次元舞台っぽい。この作品はそれに加えてワイヤーアクションまで投入しているのがすごい。ワイヤーアクションが出てくるミュージカル作品は他にあるのだろうか。

2.5次元舞台ではスポーツやアクションが題材になることが多いから、身体表現能力が高い役者さんが多いが、ケンシロウ役の大貫勇輔さんの身体能力は半端ではない。もともとダンサーさんらしいが、こんなに踊れて、歌でもメインを張れる役者さんがいたのかと驚いた。

2.5次元舞台だとキャストの歌唱力は玉石混交なことが多く、同じホリプロ制作の『デスノート』もその傾向があったが、この作品ではトップレベルのキャストを揃えてきた。小野田龍之介さんのトキ、上原理生さんのレイ、伊礼彼方さんのジュウザ、宮尾俊太郎さんのラオウ、全員歌うまで幸せ。しかも、ほとんど生オケ!これは嬉しい驚きだった。

 

作曲はワイルドホーンで、キャッチーな曲がたくさん。特に合唱曲は盛り上がってすごく好み。ただし、「心の叫び」という曲が、あまりにも聞き覚えがある・・・"Let It Go"や、同じワイルドホーン作曲の「Death Note」(下の動画の0:40くらいからのところ)にすごく似ている。ケンシロウのテーマ曲として何度もリプライズされるため、そのたびにすごく気になってしまった。誰か指摘しなかったんだろうか・・・もしかして、有名な作曲家だから指摘できなかったんじゃないかと勘ぐってしまう。

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1幕は、暴力による支配を拒否して隣人愛を取り戻そうという話で、楽しく見ることができた。一方、2幕では、同じ女を愛した男たちが拳で語りあう話になり、登場人物たちのホモソな行動原理についていけなくなってしまった・・・

ただし、原作のホモソな雰囲気を減少させようという意志は伝わった。

まず、絶対にアウトなシーンはちゃんと全部なくなっていた。原作ははるか昔に一度読んだだけなのでほぼ忘れたのだが、Wikipediaを見たところ、女性の観客に総スカンを食らうであろう描写が無数にある。レイがマミヤを公衆の面前で裸にすることで戦うのを止めさせようとするところとか(マミヤは性暴力サバイバーだぞ・・・)。こういったアウトな描写が全部カットされていることだけでも凄いことだと思う。おそらく男性の脚本家だと無理だったのでは。

 

また、女性キャラを強い女として描写しようという意識もみられた。ユリア役のMay’nさんも、マミヤ役の松原凜子さんも、強くてカッコいい歌い方の役者さんだ。しかし、彼女らが劇中でかっこよく戦ったりするわけではないので、キャラの印象とミスマッチな印象を受けた。マミヤは、登場シーンはすごくカッコイイが、実際に戦うシーンは一回もなく、男たちにずっと守られている。どうせなら、レイと並んで強姦魔をやっつけるとか、活躍してほしかった。ユリアも、「最後の将」として兜を被って登場したから男たちと戦うのかと思ったら、そんなことはなく、自己犠牲的な行動に終始した印象だった。シンなんかぶん殴って南斗の軍勢を率いてラオウに戦いを挑んでほしかった。こんなに改変するわけにはいかないだろうから、仕方ないが・・・

また、女性同士の連帯も描かれていないのは残念だ。ベクデル・テストはパスしない(さえぼう先生リスペクト)。女性同士の会話はユリアとトウがあるが、見事に男の話しかしてないので。マミヤやリンがケンシロウを好きという設定がなくなっていたのは良かった。

女性キャラの中で一番強い女として描かれているのは、実はリンかもしれない。リンに率いられた村の人たちが軍隊に立ち向かうシーンは一番好きだ。リンとバットの心情を掘り下げたシーンは、脚本も良いし、リン役の山崎玲奈さんとバット役の渡邉蒼さんの歌と演技力も素晴らしかった。山崎玲奈さんは、中止になってしまった『スクール・オブ・ロック』にサマー役で出演予定だったらしい。再演やったら絶対見に行くぞ。

 

See also:

レミゼとキャスト被りすぎ問題。

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デスミュの輸出はあまり思ったようには行かなかったと思うが、この作品はどうなるだろうか。

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