RED & BLACK

観劇日記

ホモフォビアな奴らを数で圧倒|『Everybody's Talking About Jamie ~ジェイミー~』2021年

Amazon Primeで『ジェイミー』を見た。

同名のミュージカルの映画化で、もともとはドキュメンタリーが原作らしい。2021年には日本公演もやっていたが、そちらは未見。

 

ドラァグクイーンになるのが夢の高校生、ジェイミー。家族や友人に応援されつつ、プロム(卒業パーティ)にドレスを着ていくことを決意するが、それを良く思わない人もいて・・・というストーリー。

ジェイミーを助けてくれるキャラクターも反対するキャラクターもたくさん登場しすぎて、渋滞している印象。また、反対する人たちとの関係性の落としどころが曖昧なまま終わってしまったのも残念だった。

 

ジェイミーを助けてくれるのは、母とその友達のレイ、ジェイミーの親友のプリティと学校の同級生たちの大半、ドラァグショップの店主のヒューゴとその仲間のドラァグクイーンの先輩たち。

ジェイミーはもともとゲイはカミングアウト済み。ジェイミーのドラァグショー・デビューを見に来た学校の同級生たちは、(好奇の目で見ているふしはありつつも)概ね好意的な反応。ジェイミー自身もそれを分かっているような振る舞いをしている。

また、特にジェイミーの母は非現実的なまでにジェイミーの夢に理解がある。シングルマザーで厳しい家計の中から、100ポンド以上もするハイヒールをプレゼントまでしてくれる。

LGBTQ+の物語で、こんなに周囲の人たちが好意的なのはすごい。イギリスではもはやそういう時代が来ているんだろうか?それともこの地域の特性なんだろうか。

 

ジェイミーの夢に否定的な人たちとしては、父、いじめっ子のディーン、学校のヘッジ先生が登場する。

父は伝統的男らしさの塊みたいな人で、結局ジェイミーのことを受け入れてくれないのだが、これは全力でぶつかりあった結果なので、まあ良い。伝統的男らしさ的父との関係性の落としどころは、『キンキーブーツ』のテーマでもあったが、今作では父との和解を諦めて理解ある母や友人たちと生きていくというのが新しい。

いじめっ子のディーンとは和解(?)するが、その和解の仕方はちょっとどうかなと思った。プリティが指摘して本人も認めているように、ディーンの家庭の社会階層は低めで、さらに父はアルコール依存の問題を抱えており、本人も将来は「何かの作業員」にしかなれないだろうと感じている。そういった劣等感が、ゲイのジェイミーや、人種的マイノリティのプリティへのいじめにつながってしまうのだろう。そんなディーンに対して、数の力で圧倒して勝利するという結末になっており、あまり気分が良くなかった。低階層でホモフォビアゼノフォビアな人に対して「もはや『こちら側』が主流派なんだぞ」と見せつけているような感じ。そうしたくなる気持ちは分かるが。現実にそういう分断が問題になっている現状においては、分断を広げているようで、カタルシスのある結末ではなかった。

先生のミス・ヘッジに至っては、なぜ彼女はジェイミーがドレスでプロムに出るのを拒むのか、よく分からなかった。成績不振なディーンの将来を心配したりと、彼女なりに真剣に生徒の将来に向かい合っている人のようなので、どういう訳でジェイミーに反対し、最後には納得した?のかをちゃんと描写してほしかった。

 

ジェイミーの親友のプリティは優等生のフェミニスト(尊敬する人物がサフラジェットのエメリン・パンクハースト)で、最初は共感してみていたのだが、無責任な言動が多くて違和感があった。自分は家父長制に逆らわずに生きていながら、ジェイミーにプロムでドラァグの恰好をしろとけし掛け、さらに後からやめろと言いだすのは・・・

 

ヒューゴからゲイコミュニティの闘いの歴史を聞かされるシーンは、ビデオ風の演出が感動的で、一番好きなシーン。舞台ではこの演出はできないだろうが、舞台でも見てみたくなった。

 

See also:

ジェイミーがプレゼントに貰うのが赤いハイヒールというのは『キンキーブーツ』のオマージュなのかな?と思ったので。

iceisland.hatenablog.com

 

プロムの話つながりで。優等生のフェミの女の子たちの話。

iceisland.hatenablog.com