『バンズ・ヴィジット』を見てきました。
サントラを聞いて好きになり、原作映画も見て、いつか舞台で見るのを楽しみにしていた作品。トニー賞を取ったときには嬉しかったし、日本でもやってほしいなと思っていたので、上演すると聞いて嬉しかった。
実際に見た感想としては、音楽は素晴らしかったけど、全体的にはちょっとコレジャナイ感があった。
基本情報
2023年2月18日(土)マチネ@日生劇場
キャスト
ディナ:濱田めぐみ
トゥフィーク:風間杜夫
カーレド:新納慎也
シモン(クラリネット):中平良夫
カマール(バイオリン):太田惠資
警察音楽隊(チェロ):星衛
警察音楽隊(ウード):常味裕司
警察音楽隊(ダルブッカ):立岩潤三
パピ:永田崇人
イツィック:矢崎広
電話男:こがけん
アヴラム:岸祐二
イリス:エリアンナ
サミー:渡辺大輔
感想
音楽は文句なしに素晴らしかった
作曲のデヴィッド・ヤズベック氏はレバノン系のルーツを持つ方で、アラブ風でありつつキャッチーな音楽がユニーク。サントラで聞いてこの作品を知ったので、生でこの音楽を聞けるというだけでかなりテンションが上がった。作品の中では同じ曲が結構何回も出てくるのだが、またこの曲か~と思ったとたんにクラリネットや打楽器のめちゃくちゃカッコいいソロが入ったりして、飽きさせない工夫があった。
ウードやダルブッカといったアラブ音楽の楽器の演奏家の方々はもちろん、公演中止になってしまった回のロビーコンサートでイスラエル民謡の「ハバ・ナギラ」を(おそらく即興で)演奏されていたことからいっても、他の楽器の方々も中東の伝統音楽に造詣が深い方々なのだろう。そういう演奏家の方々を集めてくれたところに本気度を感じた。
シモン役の中平良夫さんも、本職の演奏家ではないのにクラリネットが吹けていて、ちゃんとクラリネットができる役者さんをキャスティングしてくれたことが嬉しかった。中学時代にクラリネットをやっていたそうだ。私も中高でクラリネットを吹いていたけど、今舞台で吹けと言われたら途方に暮れると思う。すごい。
カーレド役の新納慎也さんも、がんばってトランペットを練習したらしく、初心者としてはかなりちゃんと吹けていた。ただ、Twitterには吹き替えだったと言っている人が何人かいて、気になったのでアンケートも取ってみた。けど、結果が割れてしまい真実は分からず。
バンズヴィジット見た人教えてくだせえ
— たきがわ (@_ice_island) 2023年2月23日
カーレドのトランペットは
ディスコミュニケーション感が薄かった
ストーリーのテーマとしては、エジプト人とイスラエル人という異邦人が出会い、ディスコミュニケーションの中にわずかにコミュニケーションが生まれるというストーリー。
原作映画ではディスコミュニケーションによって発生してしまった気まずい沈黙を(観客が)笑うというシーンが多くて、シニカルな笑いで好きだった。今回の公演でも、気まずい笑いをちゃんと再現してくれて安心した。ミュージカルを見ていると、どんどんストーリーが先に進んでしまって「ちょっと一息つかせて~」と感じることが多いけど、今回の公演では間を大事にしてくれていて、ストレートプレイの演出家さんだからこそなのかなと思った。
ただ、今回の演出だとディスコミュニケーション感はあまりしなくて、結構すんなり仲良くなってしまっているのが違和感を感じた。エジプト人とイスラエル人というよりは、日本の田舎と都会みたいな・・・。そのせいで、コミュニケーションが生まれたときの感動が薄くなってしまっているように思った。
イツィックの家にシモンとカマールが泊まる場面は、原作映画だとあんなに仲良くならなくて、お互いに(やべえ何話そう・・・)(盛り上がらねえ・・・)となっているのが笑えるシーンだった。今回の演出では、男たちがワイワイと国境を越えたホモソーシャルを形成しているのを嫁のイリスがシラーっと見ているという、別のディスコミュニケーションが生じていて、それはそれで面白いけどストーリーのコアがぼけてしまっているような気がした。初めから仲良くなれているので、サラームとシャローム(どちらも「平和」の意)で別れる場面の感動もあんまりなかったのが残念。
あと、イスラエル人もエジプト人も、日本語(設定上は英語ですが)を流暢に話せすぎてるような気はした。ブロードウェイ版だとものすごく訛った英語を話していて、頑張ってコミュニケーションしている感を出していたと思うので、日本版でももっと思いっきり片言にしても良かったんじゃないかと思った。
役者さんについて
ディナ役の濱田めぐみさんは大好きですごく信頼している俳優さんで、今回も素晴らしい歌声だったのだが、いい人すぎてディナっぽくないというか・・・。ディナって、小さい村の中で不倫いて周囲の人からはアバズレ女だと思われているだろうし、その閉塞感を解消しようとして、異国から来た男にオリエンタリズムを押し付けて夢を見てワンナイトセックスという、ダメダメな女なわけで。濱田さんのディナは清潔すぎる感じがした。濱田さんはエルファバとかアイーダとかオカタイ女のイメージが強いのでそう思ってしまうのかもしれない(どっちも見たことないけど)。
キャスティングは、アヴラム役に岸祐二さん、イリス役にエリアンナさん、と、歌うまなお二人が歌う場面の多くない役が割り振られていてもったいなかった。
パピ役の永田崇人さんとイツィック役の矢崎広さんの若い二人は、Welcome to Nowhereのアホっぽい踊りがかわいかった。一番好きな曲なので、楽しい場面にしてもらって嬉しい。Welcome to Nowhereの歌詞はどうやって訳すのかなと思ってたけど、スマートで違和感なく、さすが信頼の高橋亜子さん。
盆がぐるぐる回る演出は、電話男がずーっと待ってるのが裏にチラッと見えるのが面白かった。直前に見た『チェーザレ』の配信も、盆がぐるぐる回る演出だったので、また盆回しかいなと思ってしまったけど。あとミラーボールは明るすぎて頭痛くなってしまったので、できればやめてほしい。
昨今チケット代の高騰が話題ですが、この作品に対しても、これで13000円か・・・と思ってしまった(手数料入れたら14000円くらい)。キャストも案外多いし、お金かかるのは分かるんだけどね・・・2時間足らずの舞台で、レミゼやミスサイゴンみたいな迫力ある舞台ってわけでもないのに、と思ってしまう。すみません。
See also:
濱めぐさんつながりで。
だいたい同じ話。これも日本でやってくれないかな。