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観劇日記

クズを応援する映画|『ディア・エヴァン・ハンセン』2021年

”Dear Evan Hansen”映画版がAmazon Primeに入ったので早速見てみた。先日”Be More Chill”日本版を見たので、個人的にティーン向けミュージカルの波が来ている。次は”Everybody's Talking About Jamie”も見たい。 

 

DEHは2017年のトニー賞を獲ったこともあり、この時期流行ったティーン向けミュージカルの中では一番有名な作品かもしれない。

というわけで、DEHについては、あらすじや有名曲は知っているけど、舞台版を全編見てはいないという微妙な状態で映画版を見た。

 

感想

社交不安障害を抱える主人公エヴァンを演じるベン・プラットの演技が凄い。コミュニケーションに苦労している場面は見ていて辛いし、がんばって苦手なスピーチをしている場面は応援したくなる。ベン・プラットが年取りすぎ(27歳)で高校生に見えないとか、変顔とか言われていたけど、別にそんなことはないと思ったけどな。変顔、気持ちが伝わってきていいじゃねえか。何が悪い。

 

「何が感涙ミュージカルだ、単なるクズじゃねえか」という意見もあるけど、自分も比較的コミュ障のクズの部類だし、周囲にもわりとクズ的な人が多いので、結構共感しながら見られたし、しっかり泣いてしまった。エヴァンはたしかにダメなやつかもしれないが、自分がクズでダメなやつで自業自得なのを自覚してるからこそ辛いんだよな。エヴァンは嘘ついたけど、自分でごめんなさいできて偉いよ。舞台版ではごめんなさいしないらしいけど・・・

 

エヴァンがどんどん嘘に嘘を塗り固めていく様子は見ててキツい。「もう言っちゃえよ!言って楽になれよ!」と突っ込みを入れながら見たけど、残念ながらエヴァンはなかなか嘘を告白してくれない。映画自体が2時間半近くあるので、めちゃくちゃ長く感じた。自宅で見たから適宜休憩してTwitterに叫びを放出できたので良かったけど(すみません)、映画館で見た人は辛かっただろうな。

舞台版では友達のジャレッド君がツッコミを入れてくるらしく、そういう息抜きがあった方がいいなと思った。正直、映画版のジャレッド君は何のためにいるのかよく分からなかった。唯一の癒しは"Sincerely, Me"のシーンで、生前はキレてばかりだったコナー君が笑顔で踊りまくるのがめちゃくちゃ笑える。30分に1回くらい"Sincerely, Me"的な楽しいシーンがほしかった。

 

フォロワーさんが「DEHを題材にしたメンタルヘルス映画」と言っていたけど、たしかに"next to normal"を思わせる部分がある。薬の名前列挙シーンあり、兄のせいで透明化された妹の苦しみあり、死んだ兄の幻想あり(こちらは幻想というか捏造だが・・・)。

また、これはnext to normalだけではなくBe More Chillとも共通しているが、「皆不完全で苦しんでいるけどケアしあいながらやっていこう」というメッセージ。このメッセージが万人に必要とされているって現代人つらい。DEHの作中では、エヴァンのスピーチがバズるのを描くことで、現代社会では皆がそれぞれ孤独や苦しみを抱えていることをメタ的に表現しているのが上手い。

Be More Chillはパートナーも獲得できてお気楽ハッピーエンドなのに対して、DEHの方がシリアスだしそんなにハッピーな終わり方でもない。ゾーイはエヴァンに「兄の友達だから好きなんじゃない」って言ってくれていたのに、嘘を告白したら別れちゃうんだ・・・とちょっと寂しかった。とはいえ、エヴァンの症状もお母さんとの関係も、物語の冒頭と比べるとだいぶ改善したから良い終わり方なのかな。

 

エヴァンが一見「完璧」なマーフィー家に憧れる描写は上手いなと思った。広い家にスーツを着こなしたお父さんに専業主婦のお母さんにグルテンフリーでサステナブルなマーフィー家に対して、フルタイムで働くシングルマザーで水道水そのまま飲むハンセン家の対比。

自分は学費に困ったりはしなかったけど、どちらかというと水道水そのまま系のわりと雑な家で育ったので、「完璧」系の家にちょっとコンプレックスがあったのを思い出した。子供のときお金持ちの友達の家に遊びに行ったら、専業主婦のお母さんがケーキ焼いてくれたりして驚いたな。でも、「完璧」系の家の子に、「君の家が羨ましい」と言われたりしてね。どの家もいろいろあるけど、子供にとって世界のほとんどを家が占めているから、他の家に憧れたりもするよね。

コナーがグレて自殺してしまった理由については作品の中で触れられていないので、家庭環境に起因しているのかしていないのかは分からない。家庭環境を相対化する意味では、マーフィー家の辛い事情ももうちょっと描写してほしかった。

 

See also:

同時期のティーン向けミュージカルつながりで。

iceisland.hatenablog.com

思えば2008年にこの内容をやったnext to normalってめちゃくちゃ先進的だったんだな。

iceisland.hatenablog.com

フェミコメディ映画。ゾーイ役のケイトリン・デヴァーがレズビアンの役をやっています。

iceisland.hatenablog.com