RED & BLACK

観劇日記

脚本が分かりづらい|ミュージカル『えんとつ町のプペル』2021年(配信)

急に思い立って、YouTubeで無料公開されている『プペミュ』を見た。↓これ。

www.youtube.com

 

プペルといえば、お笑い芸人の西野亮廣氏の絵本が原作。オンラインサロンでねずみ講まがいの商売をしているという評判で、インターネットでは蛇蝎のように嫌われている。ミュージカル化が発表された当初も、役者のファンの方々から悲鳴が上がっていた。今私も大阪公演のキャストを見て狼狽しているところですが。

公演前は(悪い意味で)話題になっていたものの、結局誰も見に行かなかったのか、感想を見かけることはなかった。無料配信しているというので、どんなもんかなと思って見てみた。

 

キャスト

プペル/ブルーノ:吉原光夫

ルビッチ:笠井日向

スコップ:藤森慎吾

ベラール:岡幸二郎

ローラ:知念里奈

ダン:宮川浩

スーさん:乾直樹

レベッカ田野優花

アントニオ:竹下瑠花

 

感想

役者さんは上手いし、曲もキャッチーだし子供向けのギャグもなかなか楽しくて飽きない。ただ脚本が説明不足なところがあまりにも多く、よく分からなかった・・・というのが正直な感想。

 

実力派のキャストを集めているので、歌と演技は素晴らしかった。主人公の父ブルーノとゴミ人間「プペル」役は吉原光夫さん、主人公の母は知念里奈さん、そして悪役は岡幸二郎さん。これもうレミゼじゃん。特に知念さんはファンチーヌにしか見えないシーンもあってちょっと笑ってしまった。また、真面目なイメージの強い吉原さんだが、本作ではギャグシーンが多く、なじみっぷりにも驚いた。

主人公のルビッチを演じる笠井日向さんはかなり若い方だが、歌に気持ちが込められているし、少年っぽい演技も上手い。

狂言回しのスコップ役はお笑い芸人の藤森慎吾さん。さすがに喋りが上手くて長台詞も聞き取りやすい。ラップ調の曲は必要ないと思ったけど。配信を見ている人に向けて喋っていたから、配信用の公演だったんだろうか?ミュージカルの配信は撮影がそんなに綺麗じゃないことも多いが、この動画は綺麗だしカメラワークも上手いのでさすがだ。

 

作曲家はKo Tanakaさんという方。覚えやすくて楽しく、歌を聞かせるような曲が多くて良かった。

公演前からMVがYouTubeで公開されていたが、これはいい試みだと思うし、他の国産ミュージカルでもやってほしい。曲を予習してから見に行けるようになると嬉しい。現状、新作だとそもそも曲が好きか分からない状態でチケットを取らないといけないので、結構困るし、せっかく作った曲を舞台でしか聞けないのはもったいなんじゃないかと思っていた。『北斗の拳』もサントラ出しませんか?

子供向けの作品にしては歌詞に英語が多いのは気になった。英語歌詞が日本語歌詞より先にクレジットされているところを見ると、英語歌詞を先に作って後から翻訳するデスノ方式なのかな。

生オケで、しかも舞台上にオケがいるのは嬉しい。あとパーカッションの使い方も面白い。わざわざ「パーカッション指導・Tap振付」がクレジットされているだけある。

 

で、肝心のプロットについて。前半は笑いどころを入れつつ丁寧に進んでいる印象だったのだが、後半はいろいろな疑問が解消されないまま終わってしまった。西野氏の思想以前の問題として、ストーリーや設定がよく分からなかった。尺が90分しかない上に子供向けということを差し引いても、ちょっとお粗末だと思った。

ブルーノとプペルは同一人物なのかと思ったが、ウィキペディアで調べたところ、ブルーノの心臓がゴミ山に落ちて形成されたのがプペルらしい。そういえば冒頭で心臓が降ってくるとか言ってたが、それ以降全く言及されないし、完全に忘れていた。煙突の町という舞台と、空から故人の心臓が降ってくるという設定(怖すぎる)の関係も謎すぎる。

プペルが最後どうなったのかもよく分からない。成仏したのかな。なにしろ、クライマックスの場面と曲が合ってなくて、全然情報量のない歌詞しかないので、意味が分からない。ここに入れるべきは親子の2重唱(それか3重唱)じゃないのか?その曲はカーテンコールで歌えば?と思ったら、この曲は映画版の主題歌らしい。そういうことか・・・

 

敵役である異端審問官も全てが謎。外の世界が存在することを住民たちに隠すために殺人までやってのける集団のようだが、何でそんなことをするのか、「秩序を守るため」しか説明がない。衣装がペストマスクなのも、KKKっぽい白い頭巾も多分深い意味はないんだろう。異端審問官の親玉であるベラールのキャラデザインはカッコいいと思うけど。(映画版の悪役とは違うらしく、岡さんのためにこの悪役が作られたんだろうか。それはそれでグッジョブだ。)

それに、星の存在を知ることは外界の存在を知ることに直接は結びつかないと思うのだが・・・飛行機が飛んでいるのかもしれないが、住民に科学の知識はないのだからどうとでもごまかせる気がする。

このストーリーの中で、「星」は夢や真実を象徴している。諦めずに夢を追い真実を語ることは素晴らしいというテーマはまあいい。しかし、夢や真実を象徴するモノがファンタジーな何かではなく(例えばラピュタとか)、現実世界では誰でも存在を知っている「星」であるという設定は、「科学的知識もなく権威に盲従する大衆と、真実を語っているのに迫害される自分」という脚本家の自己イメージがにじみ出ているように思われる。敵役の名前が「異端審問官」であることからも、宗教的な権威とそれに従う無知蒙昧な民衆に対して、科学的な知識を持つ主人公たちというガリレオ裁判の構図に当てはめようという意図が透けてみえる。

しかし、この構図は作品の中で自己矛盾を起こしているように思われる。ルビッチが星の存在を信じている根拠は、父が言っていたからでしかなく、科学的でもなんでもないからだ。社会の権力者に盲従するか、家庭内の権力者に盲従するかの違いしかなく、五十歩百歩にしか見えない。さらに父親はファンタジーな力で蘇ってしまうので、もはや科学も何もない。(ていうかこの設定ラピュタそのまんまだな・・・)

えんとつ町は環境汚染や児童労働などいろいろ問題を抱えていそうだし、そもそも異端審問官とかいう異常な暴力集団に支配されているわけだが、それに対して作中で何の批判もなされないのも不気味である。ラストシーンは星を見られて良かったねで何となく終わってしまう。外の世界を知った人々はどうなるんだろうか・・・

 

ブルーノだけ和風の衣装なので、移民だから外の世界を知っているのかと思ったけど、そういうわけでもないらしい。紙芝居屋だからテキ屋の親分さんみたいな格好なんだろうか。でも本職は仕立て屋なんですよね?何で仕立て屋が船で海に出るのかもよく分からん。

祭りに異形の者が入り込み、本物の異形であることがバレて民衆に罵られる曲とか、高所から町を見下ろして孤独を嘆く曲とか、煙突掃除屋の労働歌とか、妙に既存のミュージカルで見たことのあるシチュエーションの曲が多いのも気になった。いや、曲は似ていないからいいんだけどさ・・・

全体的に、どこかで見たことがあるような設定やイメージが詰め込まれていて、オリジナリティが感じられない。また、それらの余計な要素が中心的なテーマとイマイチ噛み合っておらず、ストーリーがぼやけてしまっている。自分の軸が定まっていない人が脚本を作っているような印象を受けた。自分を正当化するために色んな思想から都合良く概念を持ってくるネット論客みたいだなと思ってしまった。

 

ジェンダーの観点でも大いに問題ありで、女性のキャラクターはお母さんと意地悪な女の子(最終的には仲間になってくれるが)しかいない。これはおそらく男性キャラクターは全部西野氏が投影されていて(この点は「邦キチ!映子さん」で指摘されていた)、女性キャラクターはその補助でしかないからだろう。

 

ブロードウェイ(オフブロードウェイ?)公演を目指すのは誠に結構だけど、この脚本ではちょっと無理なんじゃないかと思った。あと、動画に「#broadway」 ってタグをつけるのはさすがにどうかと思う。嘘じゃん・・・

 

See also:

去年のレミゼの感想。ちょうど吉原さんバルジャンと知念さんファンチーヌの回を見たんだった。この後お2人ともプペミュに出たのか。

iceisland.hatenablog.com

こちらは岡さんつながりで。

iceisland.hatenablog.com