RED & BLACK

観劇日記

LGBTQコミュニティ内の分断を直視する|ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』2022年(配信)

『The View Upstairs』の配信を見た。見たいと思っていたけど、スケジュールの関係で行けなかった作品なので、配信をやってくれてありがたい。

辛い話だが、70年代のLGBTQに対する差別と、コミュニティ内での分断をリアルに描いていて、とても良い作品だった。辛い話だが・・・

 

キャスト

ウェス:平間壮一

パトリック:小関裕太

バディ:畠中 洋

デール:東山義久

ウィリー:岡幸二郎

イネズ:JKim

フレディ:阪本奨悟

ヘンリ:関谷春子

リチャード:大村俊介(SHUN)

警官・不動産業者 ほか:大嶺 巧

 

感想

1973年に起こったゲイクラブへの放火事件を題材にした作品。70年代のLGBTQへの激しい差別と暴力、それとの「多様な」闘い方をリアルに描いている。

まずは、この作品を日本に持ってきてくれたことが素晴らしい。すごい。

 

観客は、主人公ウェスとともに、1973年のゲイクラブ「アップステアーズ・ラウンジ」に迷い込み、アップステアーズに集う人たちと交流し、そして悲劇を追体験する。こういう、共感力の力で観客を舞台の世界に引きずりこんで、ぐちゃぐちゃにするタイプの作品は好きだ。

ウェスはSNS中毒の現代の若者。いまどき出会いなんてアプリでできるし、ゲイクラブなんてオワコン(死語)でしょ、って感じ。アップステアーズのメンバーと交流していくうちに、自分が受け入れられる居場所の大切さを実感していく。そして、放火事件によって仲間たちを失うという体験をする。

この日本版の演出ではセットはシンプルだけど、オリジナル演出では、舞台だけではなく劇場全体がゲイクラブになっていて、開演前にはゲイバーの店員に扮した役者さんが話してかけてくれるなど、観客をアップステアーズの世界に没入させるための仕掛けが施されていたらしい。

1973年のGAY BARにタイムスリップしてしまうミュージカルmegdon.wordpress.com

今回のシンプルなセットも良かった。窓の使い方がうまい。何で皆が「窓の裏」にいるのか気づいたとき精神がやばかった・・・

セットはシンプルだが、衣装は70年代ぽい華やかなレトロでとてもかわいい。と思ったら、安定の前田文子さんだった。

 

LGBTQを理想化せず、分断をリアルに描いているのが良かった。

70年代の差別と暴力の激しさを目の当たりにしたウェスは、差別と闘うために立ち上がろうと呼びかける。アップステアーズのメンバーの中には、それに共感する者もいるが、そうでない者もいる。

若いゲイのパトリックやフレディ、デールはウェスの考え方に結構共感しているようだ。特に、デールは、空気が読めないトラブルメーカーで嫌われているが、実は考え方は一番ラディカルで現代的。「俺には守るものは何もない!」\失う物は鉄鎖のみ!/「何でいつも俺たちが我慢しなきゃいけないんだ!」\そうだー!/

でも、妻子がいるクローゼットゲイのバディや、店主のヘンリは、LGBTQだとばれたら生きていけない、コミュニティを守るには暴力にもじっと耐えるしかない、と考えている。そして、1973年当時の激しい差別の中では、それが現実的なやり方なのも確かだ。激しい差別の中では、生存することだけで差別との闘争なのだ。

しかし、居場所を守りたいという思いのあまり、デールを排除することになってしまい、結果的にコミュニティの崩壊を招いてしまう。デールみたいな、集団の「和」を乱すヤツが煙たがられるのは、よくあることだけど、多様性を受け入れる「はず」のLGBTQコミュニティの物語だからこそ、つらい。

でも、LGBTQを理想化せず、70年代を生きるリアルな人間として描いているのは、偉いと思った。被差別コミュニティの中で、差別と闘う上での運動方針の違いで対立してしまうというストーリーは、『アリージャンス』を思い出した。

こんな「日和見主義」と「冒険主義」の対立を繋ぐのは宗教的な博愛精神、という結論は、どうなんだろう。それで良いのか、という気はするけれど。逆に新鮮ではあった。

 

全体的に、台詞が分かりづらいと感じることが多かったのは残念。

特に、訳詞は、回りくどかったり、直訳すぎたり、口語的でない表現だったりして、かなり不自然だと感じた。指示代名詞が何を指しているかがスッと入ってこない台詞も多かった。

また、台詞の文章と文章の間に全然間がないのも妙な感じだった。笑うところなのかそうじゃないのかも分かりづらい。日本のお客さんは笑う場面を分かりやすく伝えないと笑えない人が多いから、もうちょっとハッキリ提示した方が良いと思う。

 

音楽は、ベースの音ゴリゴリのロックで好き。凝ったメロディラインが多くてオシャレだけど、歌うのはかなり難しそう。歌いこなせていないキャストが多かったのは残念だった。

ウィリー役の岡幸二郎さんとイネズ役のJKimさんが上手い、と思ったら2人とも四季出身。流石だ。ヘンリ役は明らかに黒人女性向けに曲が書かれているが、関谷春子さんはかなりそれっぽく歌えていて良かった。

 

ところで、今週末は『ロッキーホラーショー』を見に行くんですよね。『ロッキーホラーショー』の初演は1973年。つまりTVUと同時代の話なんですよね。こんなゴリゴリの差別の中であんなぶっとんだ舞台作ったのはやっぱりすごいんだな。とはいえ、気持ちを切り替えて行くの無理な気がする。

 

See also:

iceisland.hatenablog.com

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