ミュージカル座の『東京ミュージカル』を見ました。
ミュージカル座の公演は、2021年に『ひめゆり』を見て、2年ぶり2回目の観劇です。今回の『東京ミュージカル』は今回初演の作品とのこと。
このブログを読んでくださっている方はもはやお察しかもしれませんが、俳優の山科諒馬さんが出演されると聞いて行ってきました。しかも左翼の活動家役って・・・私の趣味に合わせてくれているのかと思って怖くなってきた。
1幕はとっても楽しく、2幕はあれ?という感じでした。
基本情報
3月8日(水)ソワレ@IMAホール
キャスト
染谷茜(音大生)/伊藤はるか(歌手):小林風花
染谷成美(水泳選手)/伊藤かえで(水泳選手):長谷川ゆうり
染谷上史郎(役人)/伊藤昌義(役人): 森田浩平
染谷鶴(妻)/伊藤美奈代(妻):川田真由美
竹宮清(作曲家)/霧島登(作曲家):石井雅登
竹宮すみ子(清の母)/霧島春子(登の母):鈴木莉菜
竹宮百合(清の妹)/霧島みち(登の妹):光岡あかり
藤田一行(活動家)/岡崎一太(国連職員):山科諒馬
藤田清閑(僧侶)/岡崎真澄(大学教授):古澤利人
藤田絹子(一行の母)/岡崎ふみ(一太の母):藤澤知佳
藤田桃子(一行の妹)/岡崎弓絵(一太の妹):田辺椰紗
松尾一利(教員)/加藤隼雄(医者):高野絹也
松尾文子(妻)/加藤真梨子(妻):小川 希
松尾栄一(長男)/加藤充(受験生):七尾亮耶
松尾千代(長女)/加藤綾子(高校生):副島花香
松尾正二(次男)/加藤猛(次男):小高裕紀子
松尾緑(次女)/加藤和(次女):鳥羽瀬璃音花
感想
1幕は戦中の東京、2幕は現代の東京を舞台として、歌手と水泳選手の姉妹を中心とした4家族の物語が描かれる。1幕で様々な悲惨な出来事を経験した登場人物たちが、2幕では現代の東京に生まれ変わり、前世の不幸を克服するというストーリー。
あらすじは公式サイトにとても詳しく載っているので、気になる方はこちらを読んでください。
楽しい1幕
1幕は、戦中の社会の批判的な描写がすごく楽しかった。
戦争に向かっていく日本の全体主義を全力で風刺していて、めちゃくちゃ面白い。「神風」伝説を皮肉る高天原の神々ダンスは爆笑したし、モンペ女子3人組や、戦勝音頭も楽しい。劇団四季『李香蘭』の五族協和ダンスで興奮する人(私です)は絶対好きなやつです。
『ひめゆり』を見たときも、悲惨なストーリーの中に楽しいシーンを自然に入れ込むバランス感覚が巧いな~と思ったけど、今回もハマナカトオル氏のセンスが炸裂していた。
2幕はちょっと・・・
一方、2幕は正直違和感を感じる場面が多かった。これが、「リベラル」のオジサン(すみません)に見えている世界なんだ・・・!って感じ。
2幕では、現代の日本は基本的には良い世の中だよね、という描写をされているので、めちゃくちゃ違和感がある。そりゃ、戦中に比べればいいんだろうけどさ。
なんといっても女性の描写がひどい。登場人物の表を見ると分かると思いますが、主人公姉妹以外の女性登場人物は、全部「母」「妻」「妹」。せいぜい、戦中パートで息子が死んで悲しむくらいの役割しか与えられておらず、現代パートに至っては息子が死なないのでほぼ存在するだけになっている。「家」単位で物語を構成しているからこうなるんでしょうね。うーん家父長制。
主人公姉妹と母の描写もそれに負けず劣らずすごい。
・主人公の姉:戦中はオリンピックが中止になり、戦争で足を失い、アスリートとしての道を諦めたが、現代に生まれ変わってパラリンピックで金メダルをとった→まあ、良かったね
・主人公:戦中は赤い服を着たりジャズを歌ったりするのが禁止されていたが、現代で赤い服(ヒラヒラでダサいやつ)を着て歌謡曲を歌うアイドルになった→ん!?(ジャズはどうした)
・主人公の母:戦中、女の子しか生まなかったために役立たずと言われていたが、現代では娘たちの活躍を見られて幸せ→あの・・・?(あなたの自己実現は?)
いや、ひどくないですか?(笑)もしかして、これがオジサンから見た「女性活躍」なのか!と衝撃を受けた。男の立場を脅かさない方面の「活躍」しかない。戦中パートで、国家の都合によって個人の行動が称揚されたり禁止されたりすることが批判されていたけど、現代でもあんまり変わってないじゃん。現実世界でも実際変わってないんだけけど。オジサンたちにはこの構造が全然見えてないんだなーと妙に感心してしまった。(アイドルやアスリートやケア労働を軽んじているわけではありません。念のため)
それに対して、男性キャラクターたちの職業といえば「官僚」「国連職員」「大学教授」「医者」「作曲家」と、ご立派なインテリがお揃いですこと。(あと、お笑い芸人もいるけど)
しかも、オジサンが若者を教え諭すシーンが妙に多いのも気になった。しかも教え諭される若者は女の子が多い(これは女性の劇団員さんが多いからだろうけど)。戦争に加担しないためにはどうするかという話題で、「自分の頭で考えよう」という大学教授に、学生たちが「はーい、そうします!」という場面はギャグかと思った。自分の頭で考えてないじゃん・・・パンフの出演者コメントに「ハマナカ先生」に対する言及がめちゃくちゃ多くて、普段から若者に「先生、先生」と言われているんだなーと想像してしまった。
オリンピック、パラリンピック、ワールドカップといった国際スポーツ大会に対して無批判というか妙に称揚してくるのも、うーんという感じ。1幕では国家主義を批判してたのにね。ワールドカップやDJポリスのシーンはストーリーに一切関係ないので、よっぽど入れたかったんだなと思った。
ただし、2幕にも現代社会の悪いところを指摘している部分もあった。ウクライナの戦争と、森友問題だ。森友・加計問題については、「森友」「加計」と名前こそ出てこないが、めちゃくちゃ具体的に描写されていた。戦中に戦果を偽装した登場人物が、生まれ変わって森友学園の公文書偽造をさせられるという展開も、日本という国家に嘘や改竄が染みついていることを指摘していて面白い。改竄を唆される曲はJesus Christ Superstarの"Damned for All Time"のパロディで(違うかな?)、面白いし、JCS好きなので嬉しかった。
役者さん・スタッフさんについて
お目当ての山科諒馬さんは、1幕はソロナンバーがなく左翼の活動家らしさを発揮する場面もあまりなかったのは残念だった(死に様は小林多喜二だったけど)。2幕冒頭のタップダンスでは大活躍で、久しぶりに山科さんの生のダンスを堪能出来てよかった。多分会場にいた全員の脳内に山科さんのダンスが叩きこまれたと思う。歌も良かったですが、ホールの音響があんまりよろしくないのか、近いのに近い感じがしなかったのは残念。合唱でも山科さんの声がバリバリに聞こえてくるのは流石だった。
主人公の夫役の石井雅登さんは、歌が素晴らしいし、特に特攻シーンの熱演がすごい迫力だった。ただ、死ぬシーン(?)が2つあるなら1つ山科さんにあげてほしかった(冗談です)。
主人公姉妹の小林風花さん、長谷川ゆうりさんも、1幕は少し硬い感じがしたけど、2幕はのびのびとしていて良かった。メイン4人の歌をもっと聞きたいから登場人物を減らしたらいいんじゃないかと思ってしまったけど、そうはいかないんでしょうね・・・(4人とも客演だし)
作曲の石渡裕貴さんは若い方のようですが、曲はキャッチーだし、何より本格的なサングスルー形式のミュージカルになっているのがすごい。今の日本でサングスルーのミュージカルが作れる劇団ってミュージカル座しかないのではないかという気がする。