RED & BLACK

観劇日記

演出・振付の大幅アップデート|ミュージカル『えんとつ町のプペル』2022年(配信)

『プペミュ』大阪公演の配信を見ました。

初演の映像を見たときあんなに脚本をディスっていたのになぜ見たんだと思われるでしょうが、キャスト陣につられました・・・初演も、吉原光夫さん、岡幸二郎さん、知念里奈さんなど目玉が飛び出るような豪華キャストだったけど、今回もこれまた豪華。ちょっとキャスト表みてほしい。近藤真行さん・阿部よしつぐさん・下村青さん・谷口あかりさんが元劇団四季、山科諒馬さんも劇団四季に客演で出演経験あり。前回は東宝関係者?だったのが、今回は別方面から集めてきたのもすごい。

 

キャスト

プペル&ブルーノ:近藤真行

ルビッチ:末谷玲乃

スコップ:阿部よしつぐ

ベラール:下村青 

ローラ:谷口あかり 

ダン:松原剛志

スーさん:山科諒馬

アントニオ:黒川賢也

レベッカ:伊藤稚菜 

 

感想

まず、演出と振付が初演から大幅に変わっていて、これがかなり良かった。

演出は、初演では原作者の西野氏自ら手掛けていたのが、今回は⾼橋伊久磨さんに。振付は、初演ではSHOJINさんだったのが、今回は加藤敬⼆さんに。(キャスト陣だけじゃなくて⾼橋伊久磨さんも加藤敬⼆さんも元劇団四季ですね・・・)

 

振付は完全に書き直したらしく、全く違うものになっていた。加藤敬二さんは劇団四季のオリジナルミュージカルのほとんどを手掛けた大御所らしく、初演のSHOJINさんがちょっと気の毒になってしまった・・・

ダンスについては完全に素人なので大したことは言えないんですが、初演に比べて派手でアクロバティックな動きが増えてカッコいいし、初演でダンスしてなかったシーンにもダンスが入っていて全体的に華やか。すごく難しくて疲れるんだろうと思うけど、全員踊りこなしていてレベルの高さを感じた。

 

そして演出。初演の感想に「脚本が分かりづらい」とさんざん書いたが、指摘した部分のいくつかは分かりやすく変更されていた。

冒頭の心臓がゴミ山に落ちてプペルが発生する場面は、振付が変わり、心臓がプペルに変化する瞬間が丁寧に描かれるようになった。これなら原作を知らない人でも伝わりそう。

そして一番大きな変更はラストシーン。なんと結末が変わっている。初演では、「プペルがルビッチにお父さんのペンダントを渡し、プペルは消えてしまう」という結末だったが、今回は「プペルは消えず、お父さんの姿に戻って生きていく」という結末になっていた(ように見えた)。

この改変は個人的には良いと思った。初演では「星を見るという夢を叶える代償としてプペル=ブルーノ(父)を失う」という、父殺しの物語(というと言い過ぎかもしれないが、父を乗り越えて成長する)の構造になっていた。そのため、「夢」が非常に重要な位置を占めており、西野氏の思想が強く表れていたように思う。一方、今回は「父の夢を叶える行為を通じて父を取り戻すことができた」という結末で、夢は目的ではなく家族を結びつける手段として扱われている。より西野氏の思想が軽減マイルドで子供向けになっており、私は今回の方が好みだった。

 

あと、ラストシーンの演出の変更で良かったのは、悪役たちの改悛がちゃんと描かれていて、より深みのある人物描写になっていたこと。

初演の岡幸二郎さんベラールはかなり怖い悪役だったけど、今回の下村さんベラールは愛嬌があった。岡さんベラールは、最後まで思想が揺らいでいないように見えたが、今回の下村さんベラールは、「お前の愛する者たちの守り方を変える時が来た」と言われてすごく動揺してたし、「揺らぐな~!」も部下たちじゃなくて自分に向けて言っている感じ。しまいには親子の感動的な再会シーンを見てすごく感動してしまっていて、根はいい人で、本当に正義だと思って行動していたんだな・・・と思った。

メイクと髪型もちょっと変わっていた。岡さんベラールは髪型が単なるオカッパだったけど、下村さんベラールは初めは前髪が半分顔を隠していて、改心すると顔が全部見えるようになる。本心を隠さなくて良くなったということなのかな。メイクも岡さんベラールほど怖くなっていた。

あと、初演ではローラに直接的な暴力をふるう場面があったけど、これがなくなったのは良かった。子供向けだからね。

そして、もう一人の悪役のスーさん。初演だと単なる小悪党のオジサンという感じのキャラで、裏切ってからは登場もしなかったけど、今回は心理描写の掘り下げがすごい。山科さんスーさんはルビッチのお兄さん的立場の少年っぽい感じで可愛いし、上司のダンさんのことを本当に尊敬してるのが動きから伝わってくる。裏切ってダンさんを撃つとき、普段東北弁なのが関東弁になるんだよね。本心を隠すためにわざと普段使わない言葉を使ったのかな・・・

そしてラストシーンでは、仲間の異端審問官たちやベラールが改心していく中で、一人だけ迷ってて、星が輝く中でついに頭巾を外すという・・・この外したときの表情がね・・・山科さんは、弱い人間の心の動きを繊細に表現するお芝居が本当に上手い。『夢醒め』のメソを思い出しますね。そして、このめっちゃ良いシーンをカーテンコールでも再現してくれるサービス精神よ。

 

今回はカメラワークが凝っていたのも良かった。配信用の映像は、お客さんを入れずに撮影したとのことで、そのおかげでカメラが舞台上にあがったり、普通の舞台配信では見られないような視点の映像があって面白かった。あと、ミシンのタップダンスのシーンとか、プペルがブルーノに変身するシーンとか、カッコいいシーンがはっきり見えたのも嬉しい。

 

追記

毒を食らわば皿までということで、映画版も見てみた。腐る貨幣のくだりはいらないだろとか、ジェンダー規範強すぎでキツイとか、他のアニメ映画で見たことがあるようなキャラクターばっかじゃんとか、いろいろ言いたいことはあるが、ミュージカル版だけを見ても設定が伝わらなかった点を指摘しておく。

まず、プペルの名前の由来。ブルーノの紙芝居の主人公がプペルという名前で、そのプペルに見た目が似ているから、ルビッチはゴミ人間をプペルと名付けたんですね。つまり、ブルーノは自分自身をモデルに創作したキャラクターの姿をとって現世に復活したということ。ミュージカル版だと観客は紙芝居を見てないので、分かるはずがない・・・ブルーノが紙芝居を見せるシーンは何度もあるんだから、プロジェクターで映すとかすればいいと思う。

2点目は、プペルの心臓が星だということ。死んで星になったブルーノが落ちてきて、生前ゆかりのあったモノたちを引き寄せてプペルが形成されたということかな。心臓が落ちてくるって気持ち悪すぎるだろと思ったけど、星ならファンタジックでいいね。落ちてきた星が心臓になるって、ハウルの動く城そのまんまの設定だけど・・・

文句ばかり言うのもアレなので最後に褒めておくと、絵がきれいだし、スコップがミュージカル版よりもはっきりとレジスタンスとして描かれているのが好みだった。大阪公演の演出では悪役も改心する優しい世界になっているが、映画版は民衆が体制に叛乱し打倒する物語という側面が強く、これを軸に構成するのもアリかもと思った。

 

See also:

初演の映像を見た感想。だいぶ辛口なので注意。

iceisland.hatenablog.com

今回のキャスト&スタッフから、山科諒馬さん、近藤真行さん、加藤敬二さんの3名が出演していた、2021年の夢醒め。夢醒めは本当に好きなのでまたやってほしい。iceisland.hatenablog.com