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観劇日記

【感想】ミュージカル『ひめゆり』2021年

ひめゆり』見てきました。先月の『夢から醒めた夢』でファンになってしまった、ピコ役の四宮吏桜さん、メソ役の山科諒馬さんが出演ということで、衝動的にチケットを取って行ってしまった。

ミュージカル座ははじめてだったけど、とても良かった。

 

基本情報

2021年7月10日マチネ@戸田市文化会館大ホール

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キャスト(星組

キミ:社家あや乃

ふみ:松崎莉沙

はる: 四宮吏桜

ちよ:松崎梨央

ゆき: しらたまな

上原婦長: 吉沢梨絵

檜山上等兵: 山科諒馬

滝軍曹: 戸井勝海

 

感想

凄惨な沖縄戦を描いた作品だが、戦争の悲惨さをアピールするだけでなく、エンターテイメントになっている。

 

話の筋としては、主人公であるひめゆり学徒”キヨ"の成長譚である。

若いときって、理想を唱える大人がすごくかっこよく見えて、憧れたりしますよね。キヨは、先生の言う「お国のために戦う」という理想や、上原婦長の看護師として人を救うという理想に憧れる。しかし、その理想はことごとく戦争の現実の前に敗北する。それでも、キヨは、理想と現実の間を何度も往復しながら成長していく。

自分はもちろん戦争という劇的な体験はしていないけれど、現実の前に敗北しつつも少しずつ成長して大人になっていく、という人間として普遍的なあり方が描かれていて、共感した。

キヨは、理想を語るシーンが多いので、ともすればイヤな感じになってしまいそうだが、キヨ役の社家あや乃さんの熱烈な演技でとても共感できるキャラクターになっていた。

 

特に、女子学生だったことのある人間としてはかなり共感できるようにできている作品だと思った。特に1幕途中で”ちよ”が亡くなるシーンはやばかった。このシーンでグワーっと泣いてしまい、その後ずっと泣いていた。だって友達と一緒に甘いもの食べたり、かっこいい先輩のおっかけをしたり、したことあるじゃん(川で溺れたことはないが・・・)。

 

ひめゆり学徒隊について詳しいわけではないが、物語が進むにつれて史実からは離れてフィクションになっていく。主人公たちが生き延びるストーリーには多少ご都合主義的な部分はあるが、物語としてのカタルシスが大きいのであまり気にならなかった。

クライマックスでの、キヨと滝軍曹が、米軍に投降するかどうかで争うシーン、銃と白旗で戦うのはかっこよすぎる。やっぱり、ミュージカルのクライマックスには、信念と信念のぶつかり合いの二重唱があると最高なんですよね。そういえば私の好きな舞台ってみんなそういうシーンがあるかも(『レ・ミゼラブル』『アナスタシア』『マリー・アントワネット』・・・)。

また、ラストで亡くなったキャラクターたちが集合する演出もお約束だけど、大好きなので良い。

 

序盤、主人公たちひめゆり学徒の見分けがつきづらいのは困った。

戦前に限らず、日本の学生は、同じ制服に同じ髪型で、個性を消すようになっている。これは舞台とは相性が悪い。舞台上では同じ服装だと見分けがつかないので困るし、メインキャラらしくなくて「大衆」になってしまうので、難しい。

この作品のひめゆり学徒たちも、序盤では、表向きは「臣民」として集団的な存在だが、本心では、家に帰りたかったり任務が怖かったりといった個々の心情がある。物語が進むにつれて、本心の部分がクローズアップされてきて、行動にも現れてくるので、見分けがつくようになってくる。

 

四宮吏桜さんが演じる”はる”はコミックリリーフ的な役。コミックリリーフと言っても、歌っている内容は「死んじまえ鬼軍曹」「捕虜になったら犯されて戦車で潰される」なので迫力がある。『李香蘭』を見たときも思ったが、悲惨な歴史ものにお笑いシーンを入れるには絶妙なセンスが必要だが、この作品は嫌な感じにならず、うまくいっていると思った。

最後の方は壮絶な展開が続くので、はるちゃんず3人組が唯一の癒しになり、はるちゃんずの曲が流れるとホッとするようになってしまっていた。

四宮吏桜さんはピコに引き続き親しみやすい演技で、見ていて非常に気持ちが良い。

 

日本兵の滝軍曹と檜山上等兵は、対照的なキャラクター。山科諒馬さんが演じる檜山上等兵は、日本軍の侵略と蛮行に批判的で、それを気に病んで自殺しようとする。『夢醒め』のメソは自殺したし、ユタはいじめられているし、山科さんはどうもシリアスな役柄が多いらしい。山科さんはバレエダンサーということで、メソのダンスナンバーはすごく良かったけど、今回の檜山上等兵はダンスシーンがないのでちょっと残念だった。まあずっと怪我してるから仕方ない。

一方、滝軍曹は典型的な日本兵で、沖縄の住民に不信感を持っているため、壕で沖縄女性と赤ちゃんを殺してしまうのだが、シマッタという顔をするので少し救いがある。滝軍曹も生い立ち?を語るナンバーがあるのだが、設定がよく分からず。

 

国産ミュージカルにはよくあることだが、この作品も、一部を除いて音源が手に入らないので予習していくことができなかった。

曲を知らないで見に行ったので不安だったが、キャッチーな曲が多いし、ちゃんと(というと失礼だが)、同じメロディーが繰りかえし使われるので杞憂だった。帰ってきてから3日くらいずっと脳内で「小鳥の歌」が再生されている。それに、日本語ミュージカルだから歌詞も分かりやすいし、聞き取りやすい発音の俳優さんばかりで良かった。

 

今回、5列目のセンターブロックという自分史上最高の良席で見た。オペラグラスが要らないどころではなかった。DVDみたいだな~とアホなことを思いながら見ていた。

 

ミュージカル座の舞台は初めてだったのだけど、歌のレベルとしては東宝や四季と同程度ではないだろうか。

しかし、観客の相当な割合がおそらく出演者の身内であろう雰囲気だったので驚いた。こんなにクオリティの高いものになぜ人が集まらないんだろうか。

埼玉だから?戸田というところも、はじめて行ったけど、都心から1時間かからずに行けるところとしては結構な田舎だった。

 

See also:

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国産ミュージカル×昭和の歴史が最強説。

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