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観劇日記

「しなやか」じゃない女性の労働運動|ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』2023年

『FACTORY GIRLS』見てきました。女性の労働運動がテーマということで、一応労働運動にとりくんでいる女である自分としては、絶対見ないとイカンと思っていた作品。

 

基本情報

2023年6月11日(土)マチネ@東京国際フォーラムCホール

 

キャスト

サラ・バグリー:柚希礼音

ハリエット・ファーリー:ソニン

ルーシー・ラーコム:清水くるみ

ラーコム夫人/オールドルーシー:春風ひとみ

アビゲイル:実咲凜音

グレイディーズ:谷口ゆうな

マーシャ:平野 綾

フローリア:能條愛未

ヘプサベス:松原凜子

ウィリアム・スクーラー:戸井勝海

アボット・ローレンス:原田優一

ベンジャミン・カーティス:水田航生

シェイマス:寺西拓人


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感想

産業革命下のアメリカの紡績工場が舞台。そこで働く「ファクトリー・ガールズ」たちは、女性労働者のための文芸誌「ローウェル・オファリング」での表現活動にも取り組むなど、世間的には先進的な女性と見なされていた。

新たにやってきた従業員サラは、実際は女性労働者たちが劣悪な労働条件のもとで搾取されていることに驚くが、「ローウェル・オファリング」の編集長ハリエットとの交流の中で自分を表現することを学んでいく。

サラは労働条件の悪化を食い止めるため組合を結成して会社とたたかおうとするが、経営者に迎合してでも「ローウェル・オファリング」を守りたいハリエットと対立してしまう。

 

サラの「断固たたかう」派とハリエットの「うまいことやっていく」派の対立。古今東西、労働運動でも、フェミニズムでも、それ以外の社会運動でもよく見る構図だ。そして、現代の社会ではハリエットの道が「賢い」とされがち。特に、女性の場合、「しなやか」に現状を受け入れながら、男性たちを不快にしない範囲で活動することを求められる。だから、この作品が、ハリエットの道はダメだとはっきりと表現していることに驚いたし、嬉しかった。

ハリエットは、「ローウェル・オファリング」を守るために、経営者や政治家の男性たちに利用されていることに気づきつつ、サラが警告しても、心身を壊しても、一人で活動を続ける。しかし、利用価値がなくなり経営者たちに切り捨てられ、ようやく自分の活動方針が間違っていたことに気づく。

ハリエットのような運動は、結局権力者に利用されるだけだし、自分の心身にも良くない。サラのように、仲間と助け合いながら、自分の意志をはっきりと表明した方が気持ちがいいし、たとえ今は当たって砕けて負けたとしても、立ち上がることには意味がある。それをはっきりと表現してくれたこの作品はすごい。

ハリエットのような人に、周りが「あなた搾取されてますよ」と指摘しても説得できなくて、本人が傷つくことになったとしても自分で気づくのを待つしかない、というのもリアルだ。

 

声をあげた人(特に女性やマイノリティ)が必ず経験する「あるある」が、次から次へと登場する。

声をあげても、「冷静になりましょう」「話し合いましょう」と、こちらが非論理的かのように扱われる。もしくは「ハハハ、賢いお嬢さんだ」と、優位な立場からジャッジされ、ごまかされる。

他にも、壮大な理想を語る男の横で女がシラーっとなっている場面や、搾取されている女性たちが少ない収入を使ってオシャレやパーティに夢中になっている場面。あまりにも「あるある」な場面が多すぎて、しょっちゅう自分が経験してきたあれやこれやのことをつい考えてしまい、ストーリーに集中できないくらいだった。

脚本は板垣恭一という方で、きっと一生を男性として生きてきた方だと思うのだが(違ったらごめんなさい)、なぜ、こんなにリアリティに溢れた描写ができるのか、そもそもなぜ女性の労働運動という題材を選んでくれたのか不思議だ。

この作品は、日本社会に必要だと感じるし、今後もレパートリーとして定着させてほしい。これを見た人が一人でも、自分の周囲や社会を変えるための行動を起こしてくれると嬉しい。

 

登場人物が多いので、最初は全員覚えられないんじゃないかと思ったが、みんな親しみやすいキャラづくりで、終わるころには自然に覚えることができた。コメディっぽい場面が多いが、ギャグがつまらなかったりしつこかったりせず、絶妙な塩梅。唯一、原田優一の工場長はちょっとふざけすぎで、暴力のシリアスなシーンにおふざけを入れられると矮小化されたような感じがして好きではなかった。上手いし好きな役者さんではありますけどね。

 

全体の構成としては、主人公たちが「立ち上がる」シーンがたくさんあり、ラストシーンでも労働争議としては勝利で終わるわけではないので、盛り上がりがイマイチな気がした。

音楽もロックで好きなのだが(ロックならわりと何でも好き)、一番キャッチーな「機械のように」が、非人間的な工場労働の曲だというのがちょっと残念。また、音響のせいか、歌詞がほぼ聞きとれなかったのが残念だった。

 

ソニンさんは、『マリー・アントワネット』のマルグリット役でたたかう女の印象があったので、サラではなくハリエットを演じているのが新鮮だった。

 

See also:

労働運動ミュージカルといえば。

iceisland.hatenablog.com

 

工場労働者の話(?)ということで。

iceisland.hatenablog.com