『生きる』行ってきました。
黒澤明監督の映画のミュージカル化で、ホリプロによる日本オリジナル作品。2015年に初演、2020年に再演で、今回は再再演となる。
原作映画は見たことない。というか黒澤明作品じたい実は一つも見たことない。という状況で楽しめるのか?と心配でしたが、非常に良かった。
基本情報
2023年9月9日(土)ソワレ
キャスト
渡辺勘治:鹿賀丈史
小田切とよ:彩橋みゆ
小説家:上原理生
渡辺光男:村井良大
渡辺一枝:実咲凜音
助役:鶴見辰吾
組長:福井晶一
感想
日本オリジナルミュージカルに求めているものはこれだよ、という感じ。日本語の率直な歌詞が違和感なくスッと入ってきて、ちゃんと芝居と一体化している。舞台を見てこんなに泣いたのは久しぶりというくらいボロ泣きしてしまい、本当に素晴らしい観劇体験ができた。もしかして英語が母国語の人ってこんな体験をいつもしているのか、羨ましい・・・
作曲はジェイソン・ハウランドで、すごくキャッチーというわけではないけれど芝居を引き立てていてよかった。
あらすじとしては、癌で余命半年であることが分かった役人の勘治が、残りの人生を公園建設のために費やすという話。
あらすじを読んで暗い話なのかなあと思っていたけど、全くそんなことはなく、ギャグ的な部分も多くて楽しい舞台だった。
勘治が癌を告知される(されない)シーンは、シリアスなシーンのはずなのにめちゃくちゃ笑えるし、日本の典型的サラリーマンのつまらない労働の曲は『プロデューサーズ』を思わせる。
原作映画もこのくらい愉快なんだろうか。きっと違う気がする。
また、勘治が生きがいを見出すきっかけとなる若い女性「とよ」は、本役の方がお休みのため代役で彩橋みゆさんが演じていたのだが、素晴らしかった!明るくて素直、というと手垢がついた表現なのだが、フィクショナルな男性向けに作られた女性キャラクターという感じがなぜかしなかった。とよが勘治のことをちゃんとうざがったり気持ち悪がるのも良かった。
「小説家」が勘治に提供する楽しみは、酒や女と全て消費行動だけれど、とよの場合は日常をクリエイティブに楽しむというもので、この対比も見事。見出した「生きがい」が公共のためというのも直球でいい。
鹿賀丈史さん演じる勘治は、朴訥な語るような歌い方が、お堅いお役人のおじさんのイメージに合っていた。初めはめちゃくちゃお堅くて無表情だけど、とよと過ごすシーンで初めて笑顔を見せて、こちらまで嬉しくなった。
物語のクライマックスでは、人間の醜悪さをさんざん見せられた後に美しいシーンで幕となり、美と醜の対比が見事。ラストの公園の場面は、雪の表現はもちろん、背景の舞台美術も本当に綺麗だった。背景が非常にリアルだったのはプロジェクションマッピング?少し前まではプロジェクションマッピングの背景って安っぽいなと思っていたけど、めちゃくちゃ進化していますね。
See also:
日本オリジナルミュージカルで一番いいのは夢醒めだと思っている。
暗い話かと思ったら結構楽しかった、というのは『ひめゆり』に近い。