RED & BLACK

観劇日記

丁寧な正統派フランス革命もの|宝塚歌劇『1789-バスティーユの恋人たち-』2023年(配信)

宝塚の『1789』を配信で見ました。できれば生で見たいと思っていたけど、到底チケットが取れそうにないので諦め、配信にすることに。

フランス革命を描いたフレンチ・ミュージカルの宝塚版。非常に良かったです。

 

キャスト

ロナン:礼真琴

オランプ:舞空瞳

デムーラン:暁千星

ロベスピエール:極美慎

ダントン:天華えま

ソレーヌ:小桜ほのか

マリー・アントワネット有沙瞳

ペイロール:輝月ゆうま

アルトワ伯:瀬央ゆりあ

ラマール:碧海さりお

ルイ16世:ひろ香祐

 

感想

農村からあぶれた青年ロナンが、パリでデムーラン、ロベスピエール、ダントンといった革命家たちと出会い、自由・平等という思想に目覚める。バスティーユ襲撃に参加して亡くなってしまうが、尊い犠牲のもとに人々は人権を手に入れる・・・という、ストレートなフランス革命ストーリー。

 

貧しい農民であるロナンと、ブルジョワ家庭のボンボンであるデムーランたちの立場の違いが描かれていることに関心した。フランス革命の間、第三身分の中でも資本家層と労働者層では異なる要求があったこと。ブルジョワが革命であったといっても、バスティーユ牢獄襲撃などの場面で実際に行動を起こして歴史を変えたのは、貧しい人々だったこと。フランス革命ブルジョワ革命であり、封建的な身分制度を打倒したものの、資本主義社会となって経済的な格差はなくならなかったという歴史に丁寧に向き合っている。この点は、フランス版よりも掘り下げて描かれているらしく、良い改変だと思う。

また、田舎から出てきたロナンに、デムーランたちが自由・平等とは何たるかを語るシーン「革命の兄弟」も、日本オリジナルらしい。ロナンとデムーランたちのやりとりを聞き、現代の日本でも自由・平等は到底達成されていないよなあと思わされる。フランスの観客に対しては自由・平等とはなんぞやなどと解説する必要ないのだろうが、日本ではこういうシーンが必要だと感じる。また、このシーンで「身分が違っても兄弟だ」というストレートな理想が描かれることで、後に出てくるブルジョワと労働者の対立が印象に残る。こちらの改変も良いローカライズだと思う。

主人公のロナン役の礼真琴さんがとても良かった。女性が演じているからか、少年らしい純粋さが現れていて、革命的な考え方に目覚めていく様子も自然だった。そして、歌が非常にうまい!フランス版よりもロナンの出番が多く、歌の場面もとても多いけど、歌いこなしていた。

 

ストーリーの中では恋愛要素が結構な割合を占めている。ふだんあまり恋愛の話に関心が持てないのだが、本作は身分を超えた恋愛について、身分制度の打倒という観点から語られているので、不自然に付け足されているという感じもせずに見られた。

ただし、女性キャラクターの意志が可視化されたシーンがあまりなかったのは残念。

ヒロインのオランプは、貴族側でありながら革命側のロナンと恋愛することになるというキャラクターだが、革命に対してどう思っているのかがイマイチ分からなかった。

フランス版では、ロナンの妹のソレーヌと女たちが街頭に繰り出す曲"Je veux le monde"があるが、今回の演出ではカットされていた。この曲は、フランス人権宣言において女性の権利が保障されていなかったという残念な歴史的事実に対し、補足する役割を持っていると思うので、この曲をカットしてしまったのは良くなかった。ソレーヌ役の小桜ほのかさんは、"La nuit m'appelle"「夜のプリンセス」の歌と演技が素晴らしかったので、なおさらカットが残念だった。

宝塚では男性(役)のカッコいい姿を目立たせる演出が求められているという風潮があるのだと思うが、大人しくて従順な女性表象を再生産することになってしまっていないかも気にしてほしい。

 

フランス革命ものと宝塚はやっぱり相性がいい。舞台装置や衣装が豪華だし、アンサンブルの人数が多いので、民衆や兵士が登場するシーンの迫力がすごい。

あと、ロベスピエールやデムーランやダントンが美青年でとても嬉しい。彼らをアイドルだと思っているので・・・

 

宝塚のショーというものを初めて見たけれど、なかなか新鮮だった。3色旗のどでかい羽をつけた方々が1789の曲で歌ったり踊ったりして、革命を称える祭典みたいで嬉しい。

 

See also:

こちらの作品はフランス革命を冒涜しすぎだし反省してほしい。

iceisland.hatenablog.com

 

宝塚xフランス革命ものということで。『1789』と『ひかりふる路』を交互に見ると、登場人物がかなり被っているので混乱します。

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「しなやか」じゃない女性の労働運動|ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』2023年

『FACTORY GIRLS』見てきました。女性の労働運動がテーマということで、一応労働運動にとりくんでいる女である自分としては、絶対見ないとイカンと思っていた作品。

 

基本情報

2023年6月11日(土)マチネ@東京国際フォーラムCホール

 

キャスト

サラ・バグリー:柚希礼音

ハリエット・ファーリー:ソニン

ルーシー・ラーコム:清水くるみ

ラーコム夫人/オールドルーシー:春風ひとみ

アビゲイル:実咲凜音

グレイディーズ:谷口ゆうな

マーシャ:平野 綾

フローリア:能條愛未

ヘプサベス:松原凜子

ウィリアム・スクーラー:戸井勝海

アボット・ローレンス:原田優一

ベンジャミン・カーティス:水田航生

シェイマス:寺西拓人


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感想

産業革命下のアメリカの紡績工場が舞台。そこで働く「ファクトリー・ガールズ」たちは、女性労働者のための文芸誌「ローウェル・オファリング」での表現活動にも取り組むなど、世間的には先進的な女性と見なされていた。

新たにやってきた従業員サラは、実際は女性労働者たちが劣悪な労働条件のもとで搾取されていることに驚くが、「ローウェル・オファリング」の編集長ハリエットとの交流の中で自分を表現することを学んでいく。

サラは労働条件の悪化を食い止めるため組合を結成して会社とたたかおうとするが、経営者に迎合してでも「ローウェル・オファリング」を守りたいハリエットと対立してしまう。

 

サラの「断固たたかう」派とハリエットの「うまいことやっていく」派の対立。古今東西、労働運動でも、フェミニズムでも、それ以外の社会運動でもよく見る構図だ。そして、現代の社会ではハリエットの道が「賢い」とされがち。特に、女性の場合、「しなやか」に現状を受け入れながら、男性たちを不快にしない範囲で活動することを求められる。だから、この作品が、ハリエットの道はダメだとはっきりと表現していることに驚いたし、嬉しかった。

ハリエットは、「ローウェル・オファリング」を守るために、経営者や政治家の男性たちに利用されていることに気づきつつ、サラが警告しても、心身を壊しても、一人で活動を続ける。しかし、利用価値がなくなり経営者たちに切り捨てられ、ようやく自分の活動方針が間違っていたことに気づく。

ハリエットのような運動は、結局権力者に利用されるだけだし、自分の心身にも良くない。サラのように、仲間と助け合いながら、自分の意志をはっきりと表明した方が気持ちがいいし、たとえ今は当たって砕けて負けたとしても、立ち上がることには意味がある。それをはっきりと表現してくれたこの作品はすごい。

ハリエットのような人に、周りが「あなた搾取されてますよ」と指摘しても説得できなくて、本人が傷つくことになったとしても自分で気づくのを待つしかない、というのもリアルだ。

 

声をあげた人(特に女性やマイノリティ)が必ず経験する「あるある」が、次から次へと登場する。

声をあげても、「冷静になりましょう」「話し合いましょう」と、こちらが非論理的かのように扱われる。もしくは「ハハハ、賢いお嬢さんだ」と、優位な立場からジャッジされ、ごまかされる。

他にも、壮大な理想を語る男の横で女がシラーっとなっている場面や、搾取されている女性たちが少ない収入を使ってオシャレやパーティに夢中になっている場面。あまりにも「あるある」な場面が多すぎて、しょっちゅう自分が経験してきたあれやこれやのことをつい考えてしまい、ストーリーに集中できないくらいだった。

脚本は板垣恭一という方で、きっと一生を男性として生きてきた方だと思うのだが(違ったらごめんなさい)、なぜ、こんなにリアリティに溢れた描写ができるのか、そもそもなぜ女性の労働運動という題材を選んでくれたのか不思議だ。

この作品は、日本社会に必要だと感じるし、今後もレパートリーとして定着させてほしい。これを見た人が一人でも、自分の周囲や社会を変えるための行動を起こしてくれると嬉しい。

 

登場人物が多いので、最初は全員覚えられないんじゃないかと思ったが、みんな親しみやすいキャラづくりで、終わるころには自然に覚えることができた。コメディっぽい場面が多いが、ギャグがつまらなかったりしつこかったりせず、絶妙な塩梅。唯一、原田優一の工場長はちょっとふざけすぎで、暴力のシリアスなシーンにおふざけを入れられると矮小化されたような感じがして好きではなかった。上手いし好きな役者さんではありますけどね。

 

全体の構成としては、主人公たちが「立ち上がる」シーンがたくさんあり、ラストシーンでも労働争議としては勝利で終わるわけではないので、盛り上がりがイマイチな気がした。

音楽もロックで好きなのだが(ロックならわりと何でも好き)、一番キャッチーな「機械のように」が、非人間的な工場労働の曲だというのがちょっと残念。また、音響のせいか、歌詞がほぼ聞きとれなかったのが残念だった。

 

ソニンさんは、『マリー・アントワネット』のマルグリット役でたたかう女の印象があったので、サラではなくハリエットを演じているのが新鮮だった。

 

See also:

労働運動ミュージカルといえば。

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工場労働者の話(?)ということで。

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舞台が見えなかった|ミュージカル『マチルダ』2023年

ミュージカル『マチルダ』見てきました。日本初演ということで気合入れて、ネトフリで映画版も見て予習万全で行ってきました。

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基本情報

2023年4月22日(土)ソワレ@シアターオーブ

キャスト

チルダ:三上野乃花

ミス・ハニー:昆夏美

ミス・トランチブル:大貫勇輔

ミセス・ワームウッド:大塚千弘

ミスター・ワームウッド:斎藤司

アマンダ:熊野みのり

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感想

舞台が 見えない

今回、席が7列目16番でした。7列目なんて前の方の席、シアターオーブでは初めてだ~ワーイ!と席に来ました。

ところが、7列目までは床に傾斜がない・・・!?嫌な予感がした。

予感は的中し、舞台が全く見えませんでした・・・。

サブセンターなので、前列の方の頭が舞台の真ん中にちょうど被るんですよね・・・マチルダが舞台の真ん中にいると、前列の方の頭にスッポリ隠れてしまい、なんも見えない。大人だったら頭がかろうじて見えるくらい。もう、ずっとブランコや机の上にいてほしいと思ってしまったが当然叶わない。

前列の方は特に座高も高くなく、前のめりにもならず、ふつうに座っていらっしゃいました。私も日本の女性の平均身長だし。これで見えないってどういうことなんだろう。この席は見切れ席として売るべきだと思う。ウィーンの劇場で「目の前に柱があるよ」と言われたうえで買った席と同じくらい見えなかった。

見切れ席として買ったなら納得できたと思うのですが、7列目でこの見え方は全く予想外だったので動揺してしまい、最後まで立ち直れず。完全に諦めて目をつぶって見られれば良かったかもしれないのですが・・・

 

 

せめてもの感想

ネトフリ版と違ってマチルダの両親にソロ曲が1曲ずつあり、どちらも両親の反知性主義ぶりを描写する曲なので、皮肉度マシマシの印象だった。

チルダ父の「テレビを見ていれば本なんて読まなくていいんだよ」という曲はすごくリアル。こういう人って実際に結構いるし、観客の中にもいそうで、そんなにバカにして大丈夫だろうかと心配になってしまった。現代だとテレビじゃなくてYouTubeかもしれない。マチルダ父役の斎藤司さんは芸人さんらしく、客いじりのキレも良かった。

チルダ母の「女は勉強よりオシャレよ!」という態度も、昔の価値観という感じだが、それを反知性主義の一形態として提示してくるのはなかなか手厳しいと思った。

この2曲はなぜネトフリ版ではカットしちゃったんだろうか。すごく楽しいのに。

 

チルダに兄がいるところもネトフリ版と設定が違っている。

ミセス・ワームウッドの方は、マチルダを嫌う理由として「子供は既に一人いるからもういらない」というもので、ネトフリ版よりも納得できる。一方、ミスター・ワームウッドは、既に一人男の子がいるのにマチルダを男の子だと思い込もうとしているので、かなり謎。原作では説明されているのかな?

 

また、ミス・トランチブルの撃退の仕方も少し違っていた。ネトフリ版を見たときには「天才のマチルダが超能力を使って校長を倒すという展開は、ちょっとチートすぎるような気がするし、凡人が団結しても意味ないのか・・・と感じてしまって」と書いたが、舞台版ではマチルダのスーパーパワーの存在感が小さく、生徒たちがみんなで闘った結果に見えて、こちらの方が好みだった。

 

キャストの中では、ミス・ハニー役の昆さんが良かった。歌はもちろん、演技もうまい!ミス・トランチブルに怯えている演技のリアリティがすごかった。

ミス・トランチブル役の大貫さんも、ダイナミックな体の動かし方で迫力があった。リボンで体操をするシーンがめちゃくちゃ上手くてびっくりしてしまった。

 

See also:

昆さんつながりで。

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大貫さんつながりで。

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歌詞が良すぎる|『マチルダ・ザ・ミュージカル』2022年

Netflixで『マチルダ・ザ・ミュージカル』を見ました。ミュージカル『マチルダ』の映画版。今度、舞台版の上演を見に行くので、その予習として見た。

 

ギフテッドの少女マチルダが、ネグレクト親や体罰教師とたたかう物語。

飽きさせなくて一気に見られた。展開が気になって目が離せない。配信の映画ではなかなかこんなことは起きないので、これはすごいと思った。

 

歌詞、良すぎる

"Jesus Chirist Superstar"アリーナツアー版でユダ役を演じたTim Minchin氏が作詞作曲を手掛けており、曲と歌詞がめちゃくちゃカッコいい。

特に"Naughty"の歌詞は本当に素晴らしい。素晴らしすぎるので特に素晴らしい部分を引用します。

Cause if you're little you can do a lot, you

Mustn't let a little thing like little stop you

If you sit around and let them get on top, you

Won't change a thing

Just because you find that life's not fair

It doesn't mean that you just have to grin and bear it

If you always take it on the chin and wear it

You might as well be saying you think that's it's okay

And that's not right

And if it's not right

You have to put it right...

小さくても何かできる

諦めたらそこで終わり

黙って好きにさせてたら

変わらない

人生は不公平なの

笑顔で耐えてちゃダメなの

我慢をしてたら

認めてるのと同じことよ

そんなのヘン!

おかしいなら

直さなくちゃ

すごくないですか?現代の日本社会に不足しているものが完璧に過不足なくここに書かれている。大音量で街中で流すか、歌詞を印刷してそこいら中に貼りまくり、日本中の人間の脳髄に叩き込むべきだと思う。

 

"Revolting Children"はトニー賞のパフォーマンス動画などで見て、子どもたちが団結して悪い大人を倒す歌だと思っていたので、ちょっと期待していた展開とは違って面食らった。

天才のマチルダが超能力を使って校長を倒すという展開は、ちょっとチートすぎるような気がするし、凡人が団結しても意味ないのか・・・と感じてしまって、あんまり好きになれなかった。超能力の表現は、舞台版ではどうやって表現してなっているのか楽しみではある。

あと、校長を追い出した途端、それまで校長に反抗せずむしろ規範を強化する方向に行動していた上級生たちまで"We are revoluting children"といって踊りだしたので、お前らは違うだろ!とツッコんでしまった。 

 

歌詞がABCになっている曲があるとTLで話題になっていたので楽しみにしていた。日本語版の歌詞はだいたい字幕と一緒で、歌えるようにするのが大変だっただろうな。舞台版はおそらく違う歌詞だと思うので、そちらも楽しみ。

あと、子供たちの合唱のシーンではベレー帽の上級生の子が妙に目立っていただけど、有名な俳優さんなんだろうか?

 

児童虐待について

虐待のシーンがすごく怖くて、反応に困った。

子どものとき、同じ原作者の『チャーリーとチョコレート工場』の映画を見てめちゃくちゃ怖かったのを思い出した。子供への虐待に対するフェチでもあるんだろうか?多分、ギャグなんだろうけど、怖すぎて笑えないし、どんな気持ちで見ればいいのかイマイチ分からなかった。「笑えない事態だけど笑える」系のギャグは、政治的なやつは非常に好きなんだけど、これはあんまり合わなかった。

 

本が好きなマチルダと無教養な大人たちの関係には、結構共感してしまった。本好きの子供には、反知性的な大人に人生を邪魔される経験の一度や二度はあるものだ。父親が図書館の本を破くシーンは、一番そういったカスの大人をリアルに表現していて、心に刺さった。

 

ネグレクト母や体罰校長は、子供が嫌いな女性であるという設定。特に理由なく子供が嫌いな女性キャラが登場するのが何だか嬉しかった。現実には子供が嫌いだからといって虐待するわけではないので、この描き方はちょっとひどいんじゃないかとも思うけど、子供が嫌いな女性は、存在しないことにされたり、何か理由があるに違いないと思われたりしがちなので、悪役であっても存在が無視されていないだけでちょっと嬉しかった。

出産シーンでは、異常に明るい医者や看護師たちが「子供は宝」といってわざとらしく歌って踊るが、子供を産めと押しつけがましい世間を皮肉っていて面白い。

 

舞台版では再現できないような、CGを使ったシーンが結構多かったので、舞台版ではどのように表現されているのか楽しみ。

 

See also:

Tim Minchin氏つながりでJCS。これも反体制運動の話だしね!?

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神話の時代の世界観|ミュージカル『キング・アーサー』2023年(配信)

キング・アーサー』を配信で見た。フレンチミュージカルの日本初演

歌唱披露動画を見て気になっていたけど、結局行けなかったので、配信をやってくれてありがたい。

 

キャスト

アーサー:浦井健治

グィネヴィア:宮澤佐江

ランスロット太田基裕

メレアガン:伊礼彼方

モルガン:安蘭けい

マーリン:石川禅

ガウェイン:小林亮太

ケイ:東山光明


感想

変なストーリー

ストーリーは以下のような感じ。

先代の王は魔法使いマーリンの魔法を使って、部下の妻をレイプする。レイプされた女性の娘モルガンは、復讐のため、レイプによって生まれた弟アーサーをレイプし返す。一方アーサーの婚約者グィネヴィアは、アーサーの部下ランスロットと浮気。

なんだかんだあってランスロットは死に、アーサーはモルガンとグィネヴィアを国から追放し、家庭的な幸せは諦めて国のために生きていくことを決意する。

 

なんだこれは・・・?登場人物全員クズすぎるのでは!?

全部だいたいマーリンが悪い。モルガンが復讐するべきなのはマーリンだと思う。グネヴィアが浮気して国が大変なことになるのが分かっているはずなのに、自分の呪いが解けたからって妖精の国に帰っちゃうし、無責任すぎるやつだ。

現代人的な感覚としては、適役のメレアガンが一番共感できるかもしれない。決闘大会で勝ったのに王になれなくて、結局先代の王の息子が即位するとか、ひどすぎる。じゃあなんで決闘大会をやったんだよ。

 

終盤でやっと「あ~、この世界はそういう世界観なのね」と分かった。要するに、神話の世界の価値観だ。

王一人の性的逸脱のせいで、国全体が罰を受ける。運命(=神の意志)を軽視する者は滅び、運命に従う者は徳が高いとされる。

私はアーサー王伝説のこと全然分からなくて、FGO(ゲーム)しか知らないレベルなんだけど、たぶんアーサー王伝説より昔の時代の価値観なんじゃないかな。異教の神話っぽい。イリアスとか。

 

パフォーマンスについて

ストーリーはあまり共感度が高くないので、ショーとして楽しむ演目なのかな?曲もノリノリの曲が多いし。シリアスな場面なのに何故かノリノリの曲が多いの、楽しくて好き。ケルト風なのも雰囲気があってよい。

フランス版は舞台美術や衣装が豪華だったり、韓国版はアイドルのコンサート風でメインキャストまでゴリゴリに踊ってたりと、ショーとして派手だったのに比べると、日本版はスタイリッシュにまとまってはいるけど、ちょっと地味めかな?と思ってしまった。せめて、高いキャストを揃えてほしかったかな。もちろんうまい方もいましたが(後述)。

 

韓国版と同じル・オピナさんによる演出なので、てっきり韓国版のコピー演出なのかと思ったけど、そうではなくて、振付や衣装は結構違っていた。

衣装は前田文子さんで、韓国版のアイドルっぽい衣装よりも時代物寄りの衣装。ランスロットの袖に鱗があるのがかわいかった。配信だとこういう細かい部分まで見られるのが良い。

舞台美術には、ガラスに見立てたスクリーンが使われていて、オシャレだった。これは元のフランス版を踏襲しているものみたい。ケルト文様が発光する円卓も素敵。

 

キャストの中では、マーリン役の石川禅さんが素晴らしかった。石川禅さんは『アナスタシア』のヴラド役で拝見して「芸達者な役者さんだな~」とは思っていたけど、全方位に上手い!演技力が高く、ケイとの掛け合いも面白い。歌もめちゃくちゃうまいし声も渋くて良い。マーリンはクズだが(笑)、不思議な魅力があった。

伊礼彼方さんのメレアガンは歌が圧倒的。この高音が出せる方はあまりいないんじゃないだろうか。

ランスロット役の太田基裕さんも、演技上手くて驚いた。普段クールなのに死に際だけ甘えん坊になる演技がめちゃくちゃぐっと来た。

 

See also:

石川禅さんつながりで。

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早すぎたミュージカル化|ミュージカル『SPY×FAMILY』2023年

ミュージカル『SPY×FAMILY』見てきました。

言わずもがなですが漫画原作のミュージカル。歌や楽曲のクオリティは非常に高かったですが、それだけに、原作が連載中の今ミュージカル化してしまったことが本当にもったいなく感じた。

 

基本情報

2023年3月20日(月)マチネ@帝国劇場

キャスト

ロイド・フォージャー:森崎ウィン

ヨル・フォージャー:唯月ふうか

アーニャ・フォージャー:増田梨沙

ヘンリー・ヘンダーソン:鈴木壮麻

シルヴィア・シャーウッド:朝夏まなと

ユーリ・ブライア:瀧澤翼

フランキー・フランクリン:木内健人

フィオナ・フロスト:山口乃々華


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感想

鉄のカーテン」により東西に分断された架空の国「東国」「西国」が舞台。「西国」のスパイであるロイドは、任務のため「東国」に潜入し偽装家族を作ることになる。しかし、偽の娘となったアーニャは人の心が読める超能力者、偽の妻となったヨルは暗殺者、その弟のユーリは「東国」の秘密警察だった。偽装家族がお互いの正体を隠しながらも絆を深めていくというコメディ。

 

なぜ今この原作で・・・

これまで、東宝ホリプロといった大手ミュージカル会社が手掛けてきた漫画原作のミュージカルは、『デスノート』『王家の紋章』『北斗の拳』『四月は君の嘘』といった、既に原作が完結した作品たちだった。(『王家の紋章』は完結していないけど、完結を期待する読者はもはやいないと思うので完結したも同然ということにしても良いように思う・・・)一方、『SPY×FAMILY』は連載中、しかも2019年に連載開始してまだ10巻しか出ておらず、まだまだ終わる気配の見えていない作品だ。

所謂「2.5次元舞台」であれば、続編が制作されることがよくあるから、連載途中の作品が原作でも良いが、東宝ではそうもいかないだろう。原作の連載が終わった後にアップデートされる可能性もないではないが、あまり期待できない。(東宝の制作する)ミュージカル『SPY×FAMILY』は今回のバージョンが決定版になる可能性が高く、非常にもったいない。

 

今回のミュージカル版では、物語のごく序盤だけを採用しているので、単なるほのぼのホームコメディになってしまっている。それはそれでいいのかもしれないが、原作は今後もっと面白くなるポテンシャルがありそうだし、登場人物たちの設定も明かされていくだろうと思うので、それを反映できないのは本当にもったいなく感じた。

 

オープニングナンバーでは、家族にも見せない裏の顔(=スパイ・殺し屋・秘密警察・超能力者)によって世界の平和が保たれていることが歌われる。(これは、原作冒頭のモノローグに由来している。)この曲は1幕ラストやクライマックスでも歌われ、この作品全体を貫いている認識である。

この認識は、ミュージカルの中ではたしかに登場人物たちの共通認識だ。しかし、おそらく原作が完結するときには変化が生じているだろう。

まず、家族の裏の顔が露呈する展開にならないと面白くないので、いつか家族の本当の姿を知ることになるだろう。また、そうなった場合、ロイドとヨル(とユーリ)の組織は敵対関係にあるので、国際情勢が安定して敵対関係が解消されるか、2人のどちらかが組織を抜けるかしかない。実際、最近の原作の展開では、ヨルは暗殺稼業に疑問を感じ始めている描写がある。原作のラストがどのようになるかは全く分からないが、おそらく、お互いの「裏の顔」を知り、本当の家族になるという展開になるだろうと思う。

それを踏まえると、オープニングナンバーとクライマックスの曲が同じというのは非常に不自然な感じがする。物語の最初と最後で、主人公の認識が変わっていない、(=成長していない)ということになってしまうから。原作が完結する前にミュージカルを作ってしまうからこういうことになってしまったんだと思う。

 

また、おそらく原作ではこれから登場人物たちの掘り下げが行われていくと思われるが、それを反映できないせいで、登場人物の描写が薄っぺらくなってしまっていた。そして、このストーリーの中では、スパイ・殺し屋・秘密警察といった、法の支配の外の存在が「いい人たち」として描かれているが、それを正当化する描写もほとんどないので、非常にナイーブな印象になってしまっている。

原作では、ロイドが対峙する敵の描写がもう少し丁寧だし、スパイになったきっかけとなった戦争についても描写されるので、「スパイ活動は東西平和を守るため」というロイドの認識に一定の説得力がある。しかし、ミュージカルでは小物っぽい敵としか対峙しないのであまり説得力がなく、ロイドの思い込みという可能性も捨てきれない感じになってしまっている。

また、ヨルの暗殺組織や、ユーリが所属する秘密警察も、法治主義の外で国民に苛烈な暴力をふるっていることが示唆され、かなりヤバい組織だろうと思うが、ヨルもユーリも、それが良いことと信じて働いているようだ。そんなヨルとユーリが、良い人としてそのままほのぼのファミリーの日常に接続されているので怖い。ブラック・コメディならいいんだけど・・・

特に秘密警察は、軍服のせいもあり、かなりスタイリッシュでカッコよく描写されてしまっているが、市民を拷問するような組織を何のエクスキューズもなくこんなにカッコよく描いちゃイカンだろうと思った。このあたり、日本版『プロデューサーズ』を見たときの感覚とほぼ同じだ。

こういう感じなので、ロイド、ヨル、ユーリは市民を「守っている」と信じているが、それを観客が手放しで信じられる状態になっていない。そのため、市民(アンサンブル)がたくさん登場することにも違和感が生じてしまっていた。

 

あと、2時間半を持たせようとしているからなのか、尺が余っているのも気になってしまった。2幕の大半(シルヴィアの曲とか、古城でスパイごっこをするシーンとか、フィオナ登場の曲とか)は、いらなかったと思う。1幕まではテンポよくまとまっていたので、残念だった。

 

なぜ帝劇で・・・

脚本のG2さんが「家族というミニマムの世界を帝国劇場という大空間でミュージカルとして成立させる・・・実はこれ、かなりの至難の業です」とプログラムに書いているように、正直、ホーム・コメディというストーリーと、帝国劇場という大きいハコは全くマッチしていない。「この至難の業」を解決するために、アンサンブルと舞台美術を豪華にして舞台面を埋めるという方法をとったようだが、無理矢理感は否めなかった。

アンサンブルは20人以上もいて、たしかに非常に華やかだった。15000円のチケット代も、アンサンブルさんのギャラになると思えば許容できる気がする。しかし、アンサンブルがいなくてもいいような場面にもアンサンブルがいて過剰な感じがしたし、人数も多すぎる。学校の先生あんなにいないでしょ。また、そもそも、前述したように、この作品に「市民」が登場するのは不自然なようにも思える。

舞台美術は、3つの回転盆がフル活用されており、ほとんど常にどこかが動いていて、これまた賑やかな雰囲気に貢献している。ただ、「表の顔と裏の顔」という舞台美術のデザイン意図はいまいち伝わってこなかった。劇場ロビーに舞台美術の模型が飾ってあるのは良かったし、これからもやってほしい。

 

歌は良かった

若手のキャストが多かったが、歌のレベルが高かったのは嬉しい誤算だった。

ロイド役の森崎ウィンさんは初めて生で拝見したのですが、想像以上に上手かった。去年『ピピン』が中止になって見られなかったのが本当に惜しまれる。日本語が母国語ではないにもかかわらず、早口で喋る場面でも活舌がよく聞き取りやすかった。

ヨル役の唯月ふうかさんもめちゃくちゃ歌が上手く、感情がよく伝わってきた。2017年に『デスノート』で拝見したのが最初だったと思うのですが、すごい成長。

ユーリ役の瀧澤翼さんも、かなり若い方ですが、ダンスがとても上手で存在感があった。ダンサーさんなのかな?全体主義ダンスかっこいいよ。かっこよくちゃいけないけどね。去年の浅草九劇の『春のめざめ』に出ていらっしゃったらしく、見たかった。今年も出てくれないかな。

そして、ヘンダーソン先生役の鈴木壮麻さんのダントツの存在感!声質が柔らかくて本当に聞きほれた。

フランキー役の木内健人さんにソロがなかったのは残念。なぜ!?

 

楽曲も良かった

作曲はかみむら周平さんという方で、これまで編曲や音楽監督としてミュージカルに携わってこられた方のようですが、非常に良かったです。

全ての曲が非常にキャッチーで親しみやすい。そして、普通の喋りから歌に、歌から喋りに、という移り変わりが非常に自然で、コメディの雰囲気を損なっていない。「いきなり歌いだす」みたいな違和感は全くないです。

日本にも、こんなにちゃんとしたミュージカルの曲を作れる作曲家さんがいたんじゃん!ミュージカル座の山口琇也さんもですが、ミュージカルの音楽監督を務めていらっしゃる方はすごいですね。リーヴァイやらワイルドホーンやら、海外の有名な作曲家を使うのもいいけど、日本発のミュージカルを輸出したいと思うなら、作曲家もちゃんと日本の人を起用してほしい(この作品を輸出する気があるのかは分かりませんが)。

 

異性愛規範とミソジニーがキツい

これは原作からなんですが。漫画だと、男性作者の作品でミソジニーが感じられないものはほとんどないので、そこまで気にしていられないのですが。ミュージカルになって眼前に登場すると結構キツイですね。ミュージカルはある程度私と一致した価値観が提示されるという期待感があるので・・・

まず、作品世界は、非常に異性愛規範がキツイ社会であり、ロイドもヨルもそのせいで偽装家族を作ることになる。冷戦期がモデルなのでそのせいかもしれない。アラサーで未婚だとスパイの疑いで連行されるらしく、怖すぎて全然笑えない。この異常な異性愛規範に対する批判的描写がほぼないので、「異性愛規範万歳!異性愛規範のおかげで家族を作れてよかったね!」という話に見えてしまう。疑似家族の話なので、描写の仕方によってはクィアみを出すこともできそうなものだが・・・

一応、ロイドは比較的リベラルな価値観であり、ヨルが料理ができないことや、セックスワークをしていたこと(本当はしていないのだが)も肯定的に受け止めている。まあ、ヨルの料理の下手さをネタにする描写がなくなっていたのは良かったかな。ただ、シルヴィアの年齢をネタにするのは残っていた。

また、女性キャラがほぼ全員おバカキャラなのも見ていてかなりキツい(例外はシルヴィア)。ヒロインのヨルの造形も、かわいいけど「天然」で自己肯定感が低く自己犠牲的という、ザ・日本の漫画アニメの戦闘美少女なものだし。フィオナは、今回のミュージカルでは、最後に付け足しのように登場して恋愛脳を発揮するだけで、登場させた意図が全く分からないし不快なだけだった。

一番キツイのはヨルの同僚のOLたちで、せめてここだけでもマシにできないもんかね・・・

 

See also:

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日本のエンタメ界、悪を悪として描けない問題。

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無駄のそぎ落とされた帝国主義批判|ミュージカル『太平洋序曲』2023年

『太平洋序曲』見てきました。

ティーブン・ソンドハイムによる、日本を舞台にした作品。今回の公演はイギリスの劇場との共同制作ということで気になっていた。

1幕であることが開幕直前に分かって炎上したりもしていたけど、蓋を開けてみたら非常に良かった。

 

基本情報

2023年3月12日(日)マチネ@日生劇場

キャスト

狂言回し:山本耕史

香山弥左衛門:海宝直人

ジョン万次郎:立石俊樹

将軍/女将:朝海ひかる

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感想

帝国主義と女性への暴力について

ストーリーは日本の開国をテーマにしており、帝国主義批判が軸となっている。西欧諸国による日本に対する搾取と、日本によるアジア諸国に対する搾取の両方が描かれていて、非常にバランスが取れている。しかも、女性への性暴力・性搾取と国家間の搾取とを重ねて合わせるように描くことによって観客を排外主義的な思想に誘導しつつ、最終的にはそういった排外主義にも批判の目を向けている。ものすごく高度な技で翻弄された気分だ。

"Welcome to Kanagawa"では来日したペリーらを「おもてなし」するためにセックスワーカーが集められ、"Pretty Lady"では外国の船員たちが日本の少女を強姦しようとする。"Please Hello"では、女性の俳優が演じる徳川将軍に対して、諸外国が寄ってたかって不平等条約を締結しようと迫ってくる。

女性への性暴力・性搾取と国家から国家に対する搾取が、わざと重なるように描写されている。こんな描写見せられたら、「西洋の奴らは悪い奴らだ!」って気持ちになっちゃいますよね?私は素直だからなっちゃったんですが(笑)。他の方もけっこうなったと思うんですよね、"Pretty Lady"の最後、強姦されそうになった少女の父親が船員たちの首を切るシーンで笑い声上がってたもん。"Pretty Lady"はめっちゃ怖いシーンだし、良かった殺された!って思っちゃうよ。

その流れのまま、「西洋列強と渡り合うためには奴らの文化や技術を学ばねば」という将軍や香山弥左衛門に共感する一方、攘夷思想にはしるジョン万次郎の気持ちも分かるよ・・・!となって。

そこに突如として明治天皇登場!(明治天皇は男性である狂言回しが演じる。)西洋から帝国主義仕草を学んだ日本が、今度はアジア諸国に同じように暴力をふるったことが語られる。そうだ・・・!やられた・・・私としたことが・・・

この話は、狂言回し=現代の日本人が、過去の日本の侵略を正当化するために作り出したストーリーだったんだ。排外主義を煽るために、「あいつらは俺たちの女を奪う奴らだ」という家父長制的な感情を喚起するための装置だった。共感し、同調してはいけなかったんだ・・・しまった・・・。

どうですが、ものすごく翻弄してくるでしょ。狙ってこんなことをできるの、人の心理に精通しすぎでしょ、恐ろしい。演劇の最も強力な(と私は思っている)パワーである「共感」という武器を、これでもかと使ってきて、ほんと脱帽です。

 

舞台美術すごすぎ

舞台装置が非常に洗練されているのも素晴らしかった。極限までシンプルな造形の富士山、日の丸、船、木だけで成立している舞台装置。見立てを利用しているのが日本庭園のようで、"Poem"の俳句を詠むシーンと非常にマッチしていて、本当に風景が見えるかのようだった。

そして、これを外国の演出家がやっているという事実よ。これが「日本っぽさ」でしょ?と提示されているような、オリエンタリズムのようにも思うけど、本質をついているような気もする。この作品全体に言えることでもあるが。

残念だけど、こんなにカッコいい舞台装置を日本のミュージカルで見たのは初めてだと思う。舶来物の演出最高!!私は外国(とつくに)の犬です。

個人的には、"Next"の背景の映像はよく分からなかった。日本のアート作品の曼陀羅?みたいなものなのは分かったけど、ストーリーにどう絡んでいるのかは分からず。誰か解説求む。プログラムに挟まっていた紙によれば、もともとは歴史的な写真資料を使う予定だったそうで、そちらの演出も見てみたかった。

あと、天皇が人形なのは面白いけど、せっかく人形遣いの方がいたのに、あんまり動いていなかったので、もったいないなと思ってしまった。しかし、いくら江戸時代の天皇とはいえ、天皇を人形にする(しかもものすごくアホっぽい)のは、日本の演出家にはなかなかできない表現という気がする。天皇の声を担当している方は太夫さんが女性の役をやるときのような喋り方だったので、将軍と同様、天皇も女性として描かれているようだった。

 

音楽のこと

ソンドハイム作品を見たのは、韓国で『スウィーニートッド』を見て以来、2度目。今まで、ソンドハイムの曲ってやたらに小難しいなあと思っていたのですが、今回、難しいのになぜか覚えやすいという事実に気づいて驚いた。前日に慌ててサウンドトラックを一周して、一度舞台を見ただけなのに、しかも舞台の中でリプライズがあるわけでもないのに、観劇後ずーっと頭にメロディがこびりついていて、ふとした瞬間に出てくる。これが巨匠と言われる作曲家の力か。

アンサンブルの方がソロを歌う場面がかなり多いのですが、その難しい曲を歌いこなせる役者さんが揃っていたのも良かった。唯一残念だったことは、逆にメインキャストのソロをあんまり堪能できなかったことくらいかな。

 

訳詞は市川洋二郎氏。『The View Upstairs』の訳詞や演出を手掛けていた方で、ちょっと訳が直訳調なところがあるのだが、今回はそれがうまく作品にマッチしていたように思う。ただ、明らかに日本人はそういう言い方をしないだろうという箇所は、もっと自然な訳にしてもいいのではないかと思った。

 

See also:

女性への暴力をテーマにした演出といえば、アレックス・オリエ!(語弊のある表現)

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