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観劇日記

【感想】『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』2020年

三島由紀夫vs東大全共闘』がアマゾンプライムで見られるようになっていたので、見た。

1969年に東大で行われた三島由紀夫と東大全共闘の討論会についてのドキュメンタリー映画である。当時、討論会をTBSが取材しており、映像を発掘したので制作されたらしい。

 

テレビ局が制作したとあって、全体的に、映画というよりもテレビ特番のような作りになっている。タイトルは「50年目の真実」とセンセーショナルだが、劇中で何かが明らかになったりはしない。

討論会の内容の難しい部分に対して、随所で現代の論客などが出てきて解説してくれるのは親切である。特に小説家の平野啓一郎は分かりやすい。また、討論会の映像の合間に「三島と若者」などのトピックが挿入され、観客を飽きさせない工夫がある。

 

監督は東大教養学部卒の方らしいが、左翼運動史にはあまり詳しくないようで、全共闘運動に対する説明はかなり怪しい。

例えば、全共闘のことを「セクト主導ではない運動」と説明しているが、流れている映像は革マル派だったりする(革マルとか中核とかの名前を出したくなかったのかもしれない)。また、解放区の例として、安田講堂事件での安田講堂を挙げているのも謎である。解説に小熊英二を呼んでいるのにどうしてこうなってしまったのか。

はたまた、「900番講堂はいまだに存在している」という一文など(あったらいけないみたいだ)、文章力じたいを疑わせるような部分もある。

 

制作の意図としては、「1000人の左翼(=敵)の中に単身飛び込んで男らしく戦ったカッコいい三島由紀夫」像を描きたかったと思われる。

しかし、予想に反して、討論は激論という感じではない。三島の話はユーモアがあって面白いし(さすがだ)、学生側もそれに笑っていて、和やかな雰囲気である。三島が学生たちに対して「一言天皇といってくれれば共闘する」「楯の会に入らないか」と言ってみたり、三島を間違えて「先生」と言ってしまった学生が「そこらの東大教授よりはよほど先生と呼ぶに値する」と発言したり、馴れ合い的ですらある。内田樹は「三島は学生たちを本気で説得しようとしている」と解説しているが的外れで、こういう態度は明らかにポーズである。

この馴れ合い的な雰囲気は、芥という演劇学生と三島の間で頂点に達する。討論会の途中で登場した芥は三島と芸術論を戦わせる。そこで、別の学生が、芥と三島の議論が観念論にすぎないと言って壇上に上がってくるのだが(この学生が正しいと思う)、芥は三島と一緒に煙草を吸ってその学生を茶化す。討論会なんだからちゃんと議論するべきなのに、三島と芥は俺たち芸術家同士とばかりにベタベタと親密さアピールをしていて、かなり嫌な気持ちになる。

 

多くの人が指摘しているように、この作品はめちゃくちゃ「男らしい」映画である。子1000人の男たち(女子学生もいたが本当に少しだけ)の中に、1人のマッチョな男が乗り込んで戦う構図だから、当然ではある。まあ、そういう「男の戦い」のストーリーを貫いてくれるならば、それはそれで爽快でいいが、実際は上述の通り、三島と学生たちはイチャイチャ馴れ合いをやっており、あんまりカッコよくない。

それを打ち消すかのように、瀬戸内寂聴楯の会メンバー(だった人たち)が、三島はカッコよかったという証言をする。が、そのカッコいいエピソードと言えば、三島が飲み会に美人の「スッチー」をたくさん呼んでくれて一緒に遊んで楽しかった、とか、かなりしょうもない。また、瀬戸内寂聴は、この映画に唯一登場する女性だが、情報量皆無の単なる持ち上げ発言しかないのも、最悪である。

「男らしく正々堂々と言論で戦う」という筋立てじたいが、三島がパフォーマンスによって作りあげた自己イメージに乗せられていることに、制作側が全く気づいていないらしいのも残念な感じがする。「男の戦い」なるものが実際はイチャイチャベタベタ馴れ合いをやっているだけ、ということが明らかになっているのは、結果的には良いのかもしれないが・・・