コロナ禍の中、ミュージカルを無料配信してくれている"The Shows Must Go On"プロジェクトだが、ここ最近は日本国内からは見られなかったりしたので見ていなかった。
今週は久々に日本国内から見られる演目だったので、見ることにした。これからはトニー賞特集とのこと、楽しみにしてもいいのかな?
『パリのアメリカ人』は日本でも劇団四季で上演されていたが、筆者は見たことがなかった。1951年の有名なミュージカル映画をもとに、2015年にリメイクされたミュージカル。
今回配信されていたのは、2017年のウエストエンド公演とのこと。
ストーリーとしては、第二次世界大戦終結直後のパリで、画家を目指すアメリカ人の青年とパリジェンヌの女性が恋をするというもの。ヒロインは実はユダヤ人で、占領中に自分をかくまってくれたレジスタンスの青年に恩義を感じていて婚約しているが、なんやかんやあって主人公とくっついてハッピーエンド。
ストーリーを楽しむというよりは、ダンスや舞台美術を楽しむミュージカルだった。
ダンスのシーンの割合が非常に多い。ヒロインであるリズはバレリーナという設定で、モダン・バレエ(たぶん・・・)が取り入れられていて、技術的にも非常にレベルが高い。ミュージカルというよりも、むしろ、台詞や歌があるバレエ作品と言ってもいいくらいで、クライマックスには、リズが出演する新作バレエという設定の20分くらいの劇中劇がある。主人公のジェリーもやたらに踊りまくるけど、こいつは設定上はダンサーではなく画家ワナビ。
逆に、ヒロインの婚約者のアンリはフランス人だが、アメリカでミュージカルスターになることを目指しているので、彼のナンバーはゴリゴリのブロードウェイスタイル。この点は逆転していて面白い。
劇中で唯一踊らないのは、作曲家のアダム。彼は足を引きずっていて、戦争中に怪我をしたと思われる。アダムは狂言回しの役割なので、彼が踊らないのは、現実の世界と劇中の芸術の世界の中間に位置しているからかなと感じた。
舞台装置もファイン・アート風で、画家を目指しているジェリーの領分になっている。
パリの街並みが大道具、スケッチ風のプロジェクションの両方で表現されている。風景をスケッチする様子を投影で表現する演出は、韓国の『レベッカ』でもあった演出だけど、素敵で好きだ。本作では、題材がパリの街並みなので尚更オシャレ。
物語の中盤、ジェリーが新作バレエの美術担当の職を得て、パトロンのマイロに誘惑され始めたあたりから、原色の抽象絵画みたいな背景や舞台装置が登場し始める。
クライマックスの劇中劇のシーンは、ジェリーの舞台美術・リズのバレエ・アダムの音楽が融合し、結実したという表現なのだろうか?(アンリは仲間はずれ?)
音楽はガーシュウィンなのだが、劇中では、劇中の曲はアダムが作ったと言う設定になっている。そのため、作中でアダムの曲が褒められていても、「いや、この曲作ったのアダムじゃなくてガーシュウィンだしな・・・」と思ってしまった。アダムは損なキャラだ。
このミュージカルがあまり好きになれないあたり、自分はガーシュウィン(というよりジャズ)が苦手だと気づいてしまった。もともと、題材は好きなはずの『ハミルトン』や『ヘイデスタウン』をどうも好きになれないのでラップが苦手なのは気づいていたのだが、どうもジャズもダメなようだ。最近、ラップやジャズのミュージカルが流行っているので、見られるものがなくなってしまって困る。アンドリュー・ロイド・ウェーバーに不老不死になってもらうしかないのかもしれない。
人物造形はあまり魅力的な感じはしなかった。全体的に、人物のステレオタイプがひどい。特に、ヒロインのリズは、フィクションに出てくる「パリジェンヌ」そのものという感じだった。パリ在住の女性は皆ああいう黒髪のボブカットなんかい。また、フランス語なまりやロシア語なまりもだいぶわざとらしく、結構鼻についた。
ただし、一見ブルジョワ坊ちゃんなアンリが実は戦中レジスタンスだったり、ステレオタイプから外そうという意識も若干見られた。
しかし、主人公のジェリーはかなりウザいキャラで、なぜリズがジェリーを好きになったのか全然分からなかった。リズが働いている店に来て営業妨害したり、リズをアメリカ風の「ライザ」と呼んだり、だいぶ押し付けがましい。アダムやアンリの方がいいやつじゃないか?
全体的に、ファイン・アートっぽいバレエや舞台芸術は素晴らしくて圧倒されたのだが、一方、わざとらしい「アートっぽさ」や「パリっぽさ」が若干違和感もあった。もしかすると、パリや「アート」っぽいものへの憧れに対するパロディかもしれない。
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