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観劇日記

【感想】ミュージカル『レベッカ』2020年ソウル公演

韓国観劇旅行3本目はミュージカル『レベッカ』でした。

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2020年1月12日(月)マチネ@忠武アートセンター

 

キャスト

ダンヴァース夫人:チャン・ウナ

「わたし」:パク・ジヨン

マキシム・ド・ウィンター:リュ・ジョンハン

ジャック・ファベル:イ・チャンミン

ヴァン・ホッパー夫人:ムン・ヒギョン

ベアトリス:イ・ソユ

ジャイルズ:チェ・ビョングァン

フランク・クロウリー:パク・ジヌ

ベン:キム・ジウク

ジュリアン大佐:イ・ジョンムンf:id:iceisland:20200222185046j:image

 

感想(ネタバレあります)

ダフネ・デュ・モーリアの小説が原作。小説は中高生のときに学校の図書室の司書さんに「あなた絶対これ好きだから」と言われて読んだのだけど、だいぶ忘れました。再読したらまた感想変わるかも。

登場当初の主人公「わたし」は、ヴァン・ホッパー夫人というお金持ちの付き人をしている若い女性である。結構どうしようもないドジのコミュ障女である。花瓶を倒して「アッアッスミマセン」となってる様子なんか親近感がわくというよりも共感性羞恥を感じる。少女漫画の主人公で典型的な平凡な女の子のような、ミュージカルを見てるような観客が共感するのもこのタイプなんだろうな。それはお金持ちの男性マキシムと結婚しても変わらない。相変わらずおどおどした態度なので屋敷の使用人にも馬鹿にされる。服も結婚前と変わらない平凡なやつを着続けている(マキシム、買ってやれよ...)。

それが一変するのは、夫が「前妻を殺したのは僕なんだ」と告白したとき。マキシムの姉ベアトリスに好きな男を守るために強くなれ!と言われて、これ以降の「わたし」の変化はすごい。動きがシャッキリして別人みたいだった。「わたし」役のパク・ジヨンさんの演技力すごい。この話は、労働ではパッとしなかった女性が家庭に居場所を見つける話なのだが、この点は同じシルヴェスター・リーヴァイ&ミヒャエル・クンツェコンビの「エリザベート」とは対照的である。ただし、エリザベートも「わたし」も封建的なイエに馴染めず苦しむという点は同様で、このへんがわれわれ日本や韓国の女性にウケるポイントじゃないかと思っている。どうでもいいですが、ド・ウィンター邸の使用人たちが、「エリザベート」のごもっとも隊(エリザベートの姑であるゾフィー太后エリザベートはなっとらんというシーンで同調する女官たち)と同じ、かかとを上げ下げする動作をしていて笑っちゃった。

演出としては、「わたし」が海の絵を描いているシーンで、モブが時間停止して幕(中割幕っていうんだっけ?)の上から「わたし」が描いた絵が重なっていくのが素敵だった。こういう舞台ならではの演出ってとても好き。

 

裏の主役であるダンヴァース夫人は、前妻レベッカを盲目的に信仰している使用人さんである。彼女がレズビアンかどうかはハッキリとした言及はないが、彼女がレベッカに抱いている絆はホモソーシャル的である。彼女の語るところによると、レベッカは生前多数の愛人がいたが、心の中では彼らを見下していたという。ダンヴァース夫人は最終的に気が狂って死んでしまう。「クレイジーサイコレズ・メイド」なんてオタクにウケる要素の特盛だが、ウケている様子はない。フィクション上のセクシャルマイノリティ(特にレズビアン)がやたらにサイコパス的性格だったり不幸になったりする展開は「サイコレズビアン」「レズビアン死亡症候群」として批判の対象となっている。個人的には、サイコレズビアンキャラ結構好きではあるけど。山岸凉子先生の「アラベスク」二部のカリンとか。「レベッカ」の原作小説は1938年発表なので、仕方ない感は強い。

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ダンヴァース夫人役はオク・チュヒョンさんが有名なので見たかったけれども、チケット発売日の夜には既に完売していて取れなかった...チャン・ウナさんのダンヴァース夫人もパワフルで怖くはあったけど、あんまりレベッカへの愛情が感じられなかった(私が韓国語が分からないために情緒的な表現が十分読み取れなかったのかもしれないが)。

 

ダンヴァース夫人はレベッカの部屋を生前と同じに維持しているのだが、この部屋がかなり悪趣味だった。ベッドとかガウンが真っ赤で、蘭が飾ってある。質素な「わたし」との対比なんだろうけどものすごい。レベッカは貴族としての体面を保つ点では完璧な妻だったそうだ。マキシムは、イエを守るという役割の一部を「わたし」と分かち合うことで貴族としての重圧から解放された。結局、「わたし」は名前がないままで「ド・ウィンター夫人」になって終わってしまったのがちょっとモヤる。ド・ウィンター邸が消失したので夫婦を縛っていたものも白紙に戻ったのかもしれない。

 

↓ロビーに飾ってあったダンヴァース夫人が「わたし」を窓から付き落とそうとする場面のレゴ作品。舞台が回るのと同じようにレゴも回っていた。すごい。
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