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観劇日記

【感想】二月大歌舞伎『羽衣・人情噺文七元結』を一幕見席で見る

友達に誘われて1年ぶりに歌舞伎を見に行きました。

今回は、一幕見席で気軽に坂東玉三郎さんの「羽衣」を見ようという趣旨だったが、前に見て好きになってしまった菊五郎さんの「人情噺文七元結」も続けて見ることにした。

↓前回の感想

iceisland.hatenablog.com

 

2月15日(土)夜の部@歌舞伎座

www.kabuki-bito.jp

 

一幕見席について

一幕見席というのは、当日自由席で、通常3~4つある演目を一つから見られる席だ。

友達も私も一幕見席は初めてだったので、うまくチケットが買えるか不安だった。一幕見席は演目ごとに発売時間が違い、われわれは「羽衣」の発売の1時間くらい前に行って並んだ。この時点で前に並んでいたのは10人くらいだったが、最終的には50~60人くらいになっていたと思う。20人くらいまでは椅子に座って待つことが出来た。発売時間になると、順番にチケット売り場に呼ばれる。「羽衣」と「人情噺文七元結」の二つの演目を買って、2400円くらい。安い。ちなみに、ある演目の発売時間にその後の演目の券も買うことができるが、連続していないといけないようだ。一つ目の演目から続けて見た人がいるため、「羽衣」は40番くらい、「人情噺文七元結」は10番くらいだった。チケットを買うと4階に上がり、チケットの番号順に並んで開場を待つ。見る演目の20分前になると開場し、番号順に席を確保する。

はじめ、4階席の一番前列に席を取ったのだが、「羽衣」の演目がはじまってみると良くなかったことに気がついた。一番前の列は、背もたれに背中をつけると、前にある棒が舞台と被ってしまって結構見づらい。そこで「人情噺文七元結」は二列目にしてみたら、4階は傾斜が大きいのでかなり見やすかった。また、立ち見の人がいなければ姿勢にあまり気を使わずに見ることができるのは良かった。4階はさすがに舞台面からは遠いが、オペラグラスを使えばそこまで支障なく見られた。

 

感想

「羽衣」

この演目は能の漫画「花よりも花の如く」で主人公が演じていたので話の筋を知っていた。羽衣伝説に似た伝説は世界各地にあるそうで、北欧神話にもワルキューレが白鳥の羽衣を脱いで水浴びをしているところを男に奪われて妻になるという話がある(古エッダの「ヴェルンドの歌」)。

坂東玉三郎さんの天女は、日本舞踊の素養ゼロの私でも分かるくらいに非常に動きが綺麗でびびった。羽衣の衣装はめちゃくちゃ綺麗だった。能の漫画「花よりも花の如く」では、羽衣を返してもらう前の天女は裸だという設定で白い着物だと書いてあったけど、歌舞伎の「羽衣」ではちゃんと服着てるな・・・と思った(裸が見たかったわけじゃない)。古典的な演目なのと、4階席で少し声が聞こえづらいのとで、何を言っているか分からないところがあったのは残念だった。漁んが天女に返したのとは別の羽衣が舞台袖に既に用意されているんだろうななどとどうでもいいことを考えてしまった。

最後、天女が飛んでいくのを表現するのに、天女が花道を通っていくのと同時に漁師がセリ下がっていく(というのかな?)のが面白かった。前述の通り見にくい席を取ってしまったので、花道が見えなかったのが残念。

 

「人情噺文七元結

この演目は有名な落語をもとにしているそうで、私のようなものでもなんとなく聞いたことがあった。

尾上菊五郎さんは前回見た「暗闇の丑松」と同様に駄目男の役で、今回は賭博大好きなおじさん長兵衛だった。前回と違いコメディなので笑わせるための間の取り方の上手さが際立っていた。

娘のお久を演じていた中村莟玉(かんぎょく)さんは台詞は少ないのだがめちゃくちゃ可愛かった。調べてみたら96年生まれの年下で少しショック・・・文七役の中村梅枝さんも大層な美男子だった。文七とお久は勝手に結婚が決まるのだが、お互い喜んでいる演技が上手いので、まぁいいかな・・・という気持ちになりハッピーエンドを比較的素直に受け入れることができた。

娘がどうしようもない父親のために売春をしたり、奉公人が仕事でした失敗を償うために自殺しようとしたりするのが美談として語られている。下の者が上の者のために自ら犠牲になるのが「良い」というこの価値観は、現代人としてはウゲッという感じだが、確実にまだ日本社会に生き残って蔓延っているので、断固として滅ぼすという気持ちになった。

娘が吉原で売春するにあたって長兵衛が心配するのが「悪い病にかかる」ことだけなのも疑問だった。妊娠・出産・中絶とか、客に暴力を振るわれるとか、そもそも知らない男とセックスすることとか、「傷物になって嫁にいけなくなる」とか、他にもいろいろあるのでは・・・。