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観劇日記

【感想】"By Jeeves"(ミュージカル『天才執事ジーヴス』)2001年テレビ版(配信)

今週もアンドリュー・ロイド・ウェーバー作品の配信を見た。先週は50歳記念コンサートだったから、ミュージカル作品は2週間ぶりだ。

 

今週の"By Jeeves"は、小説「ジーヴスシリーズ」をもとにしたコメディミュージカルだ。2001年にテレビ放映用に撮影されたものとのこと。

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あらすじ

あまり日本では上演されたことのない作品なので、あらすじから。

物語の舞台は、貴族の青年バーティ・ウースター氏のバンジョーコンサート。上機嫌で演奏を始めたバーティだが、その手にあったのはバンジョーではなく何とフライパン。バーティはあわてて執事のジーヴスを呼ぶ。

ジーヴス、ジーヴス、なんだいこれは!フライパンでございます、サー。私のバンジョーは?盗まれたのではないかと、サー。盗まれただって?新しいバンジョーを手配しましたが、届くまで2時間かかるとのことです、サー。2時間も!集まってくださったバンジョー大好きな皆さまをどうやって楽しませたらいいんだ?昔話をしたらどうでしょうか?例えばこんなふうに・・・

 

というわけで、バーティが過去に経験した騒動をもとにした即興劇が始まる。

騒動は、バーティが裁判で有罪判決を受けた際、とっさに友人ガッシーの名前を名乗ってしまったことからはじまる。ある日、ガッシーは恋人マデリーンの家に挨拶に行きたいという。しかし、マデリーンの父親はバーティに有罪判決を下した裁判官バセット氏。これはマズいというので、逆にガッシーはバーティの名前を使うことにする。

バーティが新聞を読んでいると、女友達のスティッフィと自分の婚約が発表されているのを見つける。スティッフィはバセット氏の姪。身に覚えがないバーティは、スティッフィの真意を確かめるために、バセット氏の屋敷に向かう。

バセット氏の屋敷に向かう途中、友達のビンゴとその恋人オノリアに遭遇する。この2人もチャリティー・ウォークのイベントでバセット氏の家に向かっていた。

バセット邸には登場人物が集合する。バセット氏に会ったバーティは、とっさにビンゴと名乗ってしまい、登場人物の名前はさらに混乱を極める。

スティッフィの発表した婚約の意図は、バーティを呼び出し、本当の婚約者ビンカー氏との結婚を叔父のバセット氏に認めさせる手伝いをさせることだった。スティッフィの考えた筋書きは、バーティが強盗のフリをし、ビンカー氏が強盗を捕まえることで、ビンカー氏はバセット氏の信頼を得るというもの。バーティは抗議するが、バセット氏が新聞を見てしまうと、娘と姪の両方がバーティと婚約していると思って怒るだろうと脅され、しぶしぶ計画を実行することに。

間違えてオノリアの部屋に忍び込んでしまうというトラブルはあったものの、ジーヴスの機転でとりあえず事件は解決。3組のカップルも無事結ばれ、大団円となる。

ここでちょうどバーティのバンジョーも到着、登場人物みんなで合唱しながらの演奏会となり、ハッピーエンド。

 

感想

オペラ形式の多いアンドリュー・ロイド・ウェーバー作品には珍しく、台詞メインでストーリーが進行し、要所で歌が入る形式。歌の分量はあまり多くはないので、多くの人がアンドリュー・ロイド・ウェーバー作品に求めているものとは違うと思うが、これはこれで楽しい。メインキャラのジーヴスに一切歌がないのも珍しい。脚本と歌詞を担当したアラン・エイクボーンは(私は存じ上げなかったが)有名な劇作家らしいので、こういう形式になったのだろう。

 

グダグダ感が楽しい作品。劇中劇を上演する間でも、バーティは始終ジーヴスを呼びつけ、この時どうしたんだっけ?とか、この後どういう展開にしたらいい?とか相談し、ときには現実に起こったことを改変させていく。そのため、劇と劇中劇との境界はかなり曖昧になっている。

劇中劇は即興なので、大道具や小道具も急ごしらえで、それがギャグにもなっている。登場人物たちを演じるのも、バーティ以外は本人ではなく、コンサートのスタッフたちである。

ミュージカルなので当然歌やダンスのシーンがある。即興劇なのに、完璧に歌ったり踊ったりしているのは変ではないか?いや、即興劇が始まる前のシーンで既にバーティが歌っているのだから、ミュージカルなのはバーティが演じる即興劇ではなく、"By Jeeves"それ自体であることになる。つまり、「バーティという人物が即興劇を演じる」というプロットが、舞台になって(今回はビデオだが)われわれの前に現れる過程で、歌やダンスが発生しているのだ。

ミュージカル嫌いの人がよく言うのが、ミュージカルはいきなり歌ったり踊ったりするから変だ、という主張である(タモリが言ったと聞いたことがあるが、違うかもしれない)。ミュージカルの歌やダンスっていったい何なのか?別に、ミュージカルの中の世界の住人は、常に歌ったり踊ったりしているというわけではない。われわれが物語を観測する際に、ミュージカルになって「見えている」だけだ。これは、映画の中の世界では常にBGMが鳴っている、とか、漫画やアニメの世界では登場人物の心情に合わせて天気が変わる、と理解するのが不合理であるのと同じことだ。

・・・というのが基本的な考えなのだが、結構メタ的な描写もあり、これを曖昧にしてくる。スティッフィがバーティを説得する"Love's Maze"のシーンでは、バーティの頭がダンサーの持った小道具に当たりそうになって顔をしかめたりする。まあ、そもそも即興劇を演じているスタッフたちが知りもしない過去の出来事を演じられるのは何故なのか、という疑問もあり、そのあたりはワザと曖昧にされている。

スティッフィ役のエミリー・レッサーは歌も上手いし可愛らしくてよかった。『ガイズ&ドールズ』の作曲家フランク・レッサーの娘とのこと。

 

ラストのバンジョーボーイのシーンでは、劇中劇の役者みんなで合唱するのだが、ここでオズの魔法使いのコスプレをしているのはどういうわけなんだろう?アンドリュー・ロイド・ウェーバーの次の作品がオズの魔法使いなのかな?と思ったけど、別にそんなことはなかった。

 

私はあまり英語が得意ではないので、こういった台詞が面白いタイプのコメディは日本語で見たほうが面白いだろうなと思った。そのせいか分からないが、140分もあり、歌もあまり多くないので、途中ちょっと飽きてしまった。

 

アンドリュー・ロイド・ウェーバーの配信の、他の作品の感想は下のリンクから見られます。

iceisland.hatenablog.com