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観劇日記

【感想】ミュージカル『スワッグエイジ:叫べ!朝鮮』(配信)

韓国オリジナルミュージカル『スワッグエイジ:叫べ!朝鮮』(스웨그에이지 : 외쳐, 조선!)を配信で見た。

先月見た『伝説のリトルバスケ団』と同じ、ウェルカム大学路プロジェクトの無料配信。日本語字幕もついているし、ありがたすぎる。

 

キャスト

ダン:ヤン・ヒジュン

ジン:キム・スハ

ホングク:イム・ヒョンス

シプチュ/チャモ:イ・ギョンス

ホロセ:チャン・ジェウン

キソン:チョン・ソンギ

スンス:チョン・アヨン

 

あらすじ

舞台は架空の時代の朝鮮。国家を乱すとして平民には「時調(朝鮮の定型詩)」を詠むことが禁止されている。

孤児として育った主人公ダン。ある日、地下組織「コルビンダン」と出会い、亡き父は時調の名人であり大臣の座にあったが、民衆の苦しみを時調に詠んだことで罪人とされ、追放されたことを知らされる。ダンは、父の遺志を受け継ぐためコルビンダンのメンバーとなる。

そんな折、朝鮮全土から時調の名人を決める大会が開かれることになる。コルビンダンは順調に勝ち上がっていくが、ダンの父を失脚させた大臣ホングクは、コルビンダンを国家を乱す罪人として収監する。

コルビンダンのメンバーかつホングクの娘であるジンの活躍で、一同は脱獄。必死の思いで決勝戦の場にたどり着き、王の前で民衆の苦しみを時調に詠む。

ホングクが先王を暗殺した陰謀が明らかになり、ホングクは逮捕される。王はコルビンダンの願いを受け入れ、民衆が自由に時調を詠むことを許すのだった。

 

感想

言論の自由がテーマの作品。韓国では軍事独裁政権の時代に、強い言論統制が行われていた。本作は時代劇の形をとってはいるが、明らかに民主化運動を意識して描かれている。

この作品のテーマは要するに、声を上げて社会を良くしていこうというもの。言論と法に基づいて社会を改善していこうという民主主義思想近代的な思想に基づいて描かれており、全く時代劇っぽくない。が、それがいい。

コルビンダンは、身分制度のもとで民衆が苦しんでいる現実を時調に詠んで王に伝えようとする。私のような共和主義者から見ると、身分制度をなくせばいいじゃん王制打倒しちゃおうぜと思うが、この作品はあくまでリベラル(現行の社会制度の中で社会を改善していこうという思想)なので、革命を起こしたりはしない。残念。

物語のラストでホングクが失脚する理由も、言論統制を強行したためではなく、先王を謀殺した罪による。法治主義だ・・・

表現規制を推進する悪役ホングクの思想も近代的だ。彼の主張としては、「朝鮮」は外敵からの侵略に晒されている国であり、言論統制で強い国にする必要があるというもの。いかにも現代の保守派の政治家がいいそう。

 

タイトルにあるとおり、作中では時調は「朝鮮」の文化であることが強調されている。日本では民族主義はすなわち国家主義であるのでちょっと違和感があるが、分断国家である韓国では、民族統一を唱える活動家が北朝鮮のスパイ扱いされて弾圧されてきた歴史がある。だから、コルビンダンは「朝鮮」の民衆よ叫べ!と呼びかけるのだろう。

それに、民族の文化を大事にするからといって他民族を排除するわけではない。時調は「倭国」からの移民も一緒に楽しく参加できるのだ。

 

コルビンダンは仮面をつけて時調を演じる。この仮面も伝統的な演劇から引用されているのではないだろうかと思って調べてみたところ、朝鮮には「タルチュム」という伝統的な仮面劇があり、踊りながら演劇を行うもので、支配階級への風刺がテーマの作品が多いそうだ。さらに1970年代の民主化運動の中ではタルチュム復興運動が起こり、広場で演じる「マダン劇」に発展したらしい。

タルチュムとは - コトバンク

これ、完全にコルビンダンじゃん・・・日本のテント芝居も左翼運動と関係が深いが、韓国でも、演劇が民主化運動と結びついていたらしい。

作中では、コルビンダンの時調が民衆ウケが悪く、それに対してダンが考案した両班を揶揄するダンスが大ブームになるという部分がある。この民衆のリアルな描写は、社会運動の経験に基づいているのでは?という感じがする。脚本家はパク・チャンミンという方らしいが、詳細な情報は見つけられなかった・・・情報求む。

 

演出に関しては、朝鮮の伝統的な芸術と、現代の芸術が融合されているのが新鮮で素晴らしかった。

時調とは日本でいうところの短歌や俳句のようなものらしいが、この作品内では歌とダンスで表現されている。しかも、ダンスはヒップホップ。衣装は時代劇なのに、ヒップホップを歌って踊っているのは、それだけで視覚的に新鮮で面白かった。そして、アンサンブルまで全員ダンスがすごい上手くて見ごたえがある。また、衣装は時代劇風ではあるが、Tシャツを着ていたりスニーカーを履いていたりして現代風にアレンジされているのも工夫されている。

詩がテーマなので、歌詞の韻律や言葉選びもそれらしいものになっているような気がしたが、いかんせん言語も分からないし無知なので、雰囲気しか感じられなかったのが残念・・・韓国の人たちはこういう作品を母国語で見られて羨ましい。

日本では、伝統芸能とミュージカルを融合させたミュージカルはほぼないと思う。歌舞伎や能だって音楽劇だから、ミュージカルと組み合わせたら面白いのではないか。

 

今まで私が見てきた大学路の作品『ファンレター』や『伝説のリトルバスケ団』とは違って、大きな劇場での上演を想定して作られた作品で、そういうのもあるのかと思った。上演時間も休憩時間を含まずに2時間半もある。ストーリーはそんなに複雑ではないので、2時間半はちょっと間延びした印象だった。

音楽も壮大だし、キャストもかなり歌える人を揃えている。特にジン役のキム・スハさんはウェストエンドの『ミス・サイゴン』でキム役を演じた経験もあるらしく、実力派。『ミス・サイゴン』はホン・ガンホさんもトゥイ役で出ていたし、韓国ミュージカル俳優の活躍の場になりつつあるのかもしれない。

 

See also:

大学路ミュージカルつながりの作品の感想を置いておきます。

iceisland.hatenablog.com

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