RED & BLACK

観劇日記

日本未公演のミュージカルを紹介しようのページ

日本未公開のミュージカルを紹介して布教しよう企画のまとめページです。

別に現地で見たわけじゃなくて、YouTubeで見て好きになって、頑張って調べただけです。間違っているところがあったら教えてください。

 

ミュージカル『ヘザース』(Heathers: The Musical)

同名の映画が原作の、高校が舞台のブラックコメディ。メンヘラ男がとても良い

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ミュージカル『ビー・モア・チル』(Be More Chill)

こちらも高校が舞台のコメディ。主人公がオタクなので共感できる(できない)。BL(ではない)。

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→日本未公開じゃなくなりました。

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ミュージカル『カム・フロム・アウェイ』(Come From Away)

紹介というか配信の感想です。9・11をテーマにした作品。めちゃくちゃ感動するので注意。

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ミュージカル『スポンジ・ボブ ミュージカル』(SpongeBob SquarePants)

これも、紹介というか配信の感想です。アニメのスポンジ・ボブのミュージカル化。

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随時追加予定です

 

【海外ミュージカル紹介】ミュージカル『ビー・モア・チル』(Be More Chill)

 

日本未公演のミュージカルを布教する企画第2回は"Be More Chill"をやります。

iceisland.hatenablog.com

 

Be More Chillとは

”Be More Chill"は2015年にニュージャージーで初演されて以来、若者の間で人気が出て、ブロードウェイやウェストエンド公演もやっている作品。

これもハイスクールが舞台のお話。主人公はジェレミーというモテないオタク高校生で、彼が人気者になるために何やかんややるストーリー。原作は同名の小説らしいけど翻訳は出ていないので読めない・・・

 

全体的に思春期の心理にスポットが当たった作品。特に、主人公のジェレミーと親友マイケルはオタクなのでめっちゃ共感できる。パーティで居場所なくてトイレで「帰りたい・・・生まれてこなければよかった・・・」って思っているシーンとか、聞いているだけで辛くなってくるけど良い。あと、マイケルが、高校では俺らみたいなオタクはスクールカーストの下だけど、大学に行けば人気者になれると主張する部分が好き。何の根拠で?と思うけど、その感覚は分かる。

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また、ジェレミーとマイケルの友情が超かわいい。2人セットでかばんに「Boy Frirend」と落書きされてからかわれているけど満更ではなさそうだったり、ジェレミーがマイケルに「一番好きな友達」とか「これ以上の友情はない」とか言ったりします。Deviant ArtにたくさんBLなファンアートがあったので、そういう話なのかと思ったけど、腐女子の妄想だった。

 

音楽はロックの中にちょっとゲーム音楽風の部分もあり、キャッチーな曲ばっかりでハマる。ストーリーの中にも、マイケルがパックマンのタトゥーを入れてたり(ダサい)、コナミコマンドが登場したり、ちょっとしたゲームネタもあるので、分かる人には楽しい。冒頭いきない主人公がAVをダウンロードしているところからはじまる(テレビの映像みたらここは歌詞が変わっていて笑っちゃった)など、下ネタも少しあるし、全体的に歌詞は飾らない言葉で親しみが持てる。

 

 登場人物

ジェレミー(Jeremy):主人公の男子高校生。オタク。

マイケル(Michael):ジェレミーの親友。オタク。

クリスティーン(Christine):ジェレミーが好きな女の子。演劇が好き。

SQUIP:謎の薬の擬人化。マトリックス風の派手な格好の男性。

リッチー(Rich):いじめっ子。

クロエ(Chloe)、ブルック(Brook):リア充女子。

ジェイク(Jake):クリスティーンと付き合っている男子。

 

あらすじ

第一幕

ジェレミーはイケてない高校生。親友マイケルは俺たち負け犬だけど別にいいじゃんと言うが、ジェレミーはただ生きているだけの状態を変えてくれる出来事がないかなあと思っている。ジェレミーは好きな女の子クリスティーンが演劇の公演に参加すると聞いて、自分も参加することを決める。("More Than Survive") 

クリスティーンは、演劇に対する愛を語る。ADD傾向がある彼女は、常に何を言えばいいかが分かっていて、色々な役を演じることが楽しいという。("I Love Play Rehearsal")

 

いじめっ子の同級生リッチーは、昔は俺もお前みたいにイケてなかったけど「SQUIP」を手に入れてから変わったという。「SQUIP」はナノテクノロジーを応用した薬で、飲むと量子コンピュータが脳に入り込んで、すべきことを教えてくれるそうだ(ちなみに日本製)。お前もこれを飲めば人気者になれるぞと勧める。("The SQUIP Song")

ジェレミーはマイケルと一緒にゲームをしながら、SQUIPについて話す。マイケルは何があっても2人はチームだと言う。("Two-Player Game")

 

2人はショッピングモールにSQUIPを買いに行くことにする。SQUIPはマウンテン・デュー(緑色のジュースらしい)と一緒に飲むことで効果を発揮するらしい。ジェレミーがSQUIPを飲むと、SQUIPの精霊?らしき謎の人物が現れた。 ("The Squip Enters") 

SQUIPはジェレミーに対して、見た目も性格も何もかもダメだから自分の指示に従えと言う(ひどい)。SQUIPがジェレミーに新しい服を買いに行かせると、学校の女子ブルックとクロエに会う。SQUIPの指示に従って、興味を引かせるような嘘をつくジェレミー。 ("Be More Chill, Pt. 1") ブルックは車で送ってあげると言い、SQUIPはその提案を受け入れるように指示するが、ジェレミーはマイケルのところに戻るといって断ってしまう。("Do You Wanna Ride?") SQUIPは、人気者になるために自分の指示に従えと説得する。 ("Be More Chill, Pt. 2")

 

次の日、ジェレミーが学校に行くと、SQUIPは、生徒たちが人間関係に対して潜在的に不安な気持ちを感じていることや、その心理を利用して社会的な強者になる方法を解説する。(Sync Up)

演劇の練習に行くと、クリスティーンが「最近夢中になっている人がいるの」と話す。ジェレミーは僕のこと?と思うが、それは別の男子ジェイクのことだった。(A Guy That I'd Kinda Be Into)

 

ブルックはジェレミーに興味を持って話しかけてくる。その横で、ジェイクはクリスティーンを自宅デートに誘っている。SQUIPは、ブルックとデートして社会的地位が向上してからクリスティーンに挑戦する作戦をジェレミーに指示する。ジェレミーは圧倒され、SQUIPに数分間停止するように言う。すると、近くにマイケルがいるのに気づく。ジェレミーはマイケルを見て喜ぶが、マイケルは1日中ジェレミーに無視されていたという。マイケルは以前のジェレミーと結びつきすぎているために、SQUIPが「神経遮断」を使ってマイケルを見えなくしていたのだった。ジェレミーは、もう「敗者」でいるのは嫌だと感じて、自ら「神経遮断」のスイッチを入れてしまう。("Upgrade")

 

第二幕

ジェイクが主催したハロウィーンパーティに、ジェレミーはブルックと一緒に参加する。クリスティーンはプリンセスのコスチュームで参加するが、ジェイクはクリスティーンを無視する。("Halloween")

ブルックに嫉妬したクロエはジェレミーを誘惑する。クロエがジェレミーとセックスしたように見せかけると、ブルックはショックを受けてしまう。( "Do You Wanna Hang?")

女の子たちから逃げ出したジェレミーがトイレに行くと、マイケルと遭遇する。マイケルはSQUIPの危険性を警告するが、ジェレミーはマイケルは僕に嫉妬していると非難する。マイケルは親友を失ったことを悲しんでトイレに閉じこもってしまう。("Michael in the Bathroom")

ジェレミーはSQUIPの助けを借りずにクリスティーンに話しかけて、デートに誘うが、ジェイクと別れて自信をなくしたクリスティーンに断られてしまう。(A Guy That I'd Kinda Be Into (Reprise))そこにSQUIPでおかしくなったリッチーが現れ、家に火をつけて燃やしてしまう。その事件はメールとツイッターで瞬時に学校中に広まる。(The Smartphone Hour (Rich Set a Fire))

 

ジェレミーは父親に最近変になったと心配されて、喧嘩してしまう。父親はマイケルに、息子と友達でいてほしいと頼む。("The Pants Song")

 

演劇の練習に行くと、クリスティーンはリッチーが起こした放火事件に動揺していた。ジェレミーはSQUIPに怒るが、SQUIPは事件が起きたのは「ヒューマンエラー」のせいだと一蹴する。さらに、生徒たちは不完全で苦しんでいると主張し、彼らを救うために全生徒にSQUIPを使用させる計画を明らかにする。("The Pitiful Children")

演劇クラブの先生も既にSQUIPに乗っ取られており、さらにSQUIPを溶かした液体を生徒たちにも飲ませてしまった。ジェレミーは、SQUIPでおかしくなったリッチーが赤色のマウンテン・デューを探していたことを思い出し、緑色のマウンテン・デューとは反対に、赤色があればSQUIPを停止できると気づく。そこに、客席にいたマイケルが赤色のマウンテン・デューを持って登場し、ジェレミーとマイケルは仲直りする。ジェレミーが生徒たちに赤色マウンテン・デューを飲ませようとするのを、SQUIPは、クリスティーンに「ジェレミーが好き」と言わせて止めようとする。しかし、ジェレミーはこれは自分が求めているものではないと気づいて、クリスティーンのSQUIPを停止させる。("The Play")

病院で目覚めたジェレミーは、マイケルや父親、クラスメイトと談笑する。心の中で聞こえてくる色々な声と共存して生きていくことを決める。ジェレミーは再びクリスティーンをデートに誘い、今度はクリスティーンもその思いを受け止める。("Voices in My Head")

 

See also:

Heathersも同じ学園モノでおすすめ!!!

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【感想】"Love Never Dies" メルボルン公演版(配信)

ちょっと遅くなりましたが、無料配信されていたLove Never Diesの感想です。

 

先週の『オペラ座の怪人』に続いて、Love Never Diesも初見だった。あらすじなど調べて、世間で「解釈違いの塊」だの「いっそLoveが死んでいたほうが良かった」だの、さんざんに言われているのを見て、心の準備をして臨んだ。

でも、いざ見てみると、「アレッ?『オペラ座の怪人』よりも、こっちの方が好きかも?」という感じだった。

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あらすじを読んで、前作では善人に見えた人たちが皆クズになってしまったのではないかと思って恐れていたのだけど、そうではなくて誰も悪くない話だった。メグがとにかくかわいそう。自分が売れなくても頑張ってきたところに、若いうちにお金持ちと結婚して仕事辞めた友達が来て、社長にも世間にもチヤホヤされてたら辛い。その友達を殺しちゃうし。誰もメグを責めないでほしい・・・

 

個人的には、ファントムとクリスティーヌがセックスしてたという点が、一番の前作との齟齬ポイントだった。だって前作のクリスティーヌはあんまりファントムのこと好きそうじゃなかったもん・・・それなのにラウルとの結婚式の前夜にセックスしてたと言う設定でびっくり。しかも朝起きたらファントムはいなかったとは、それはファントムが悪い。結婚式に乗り込んでクリスティーヌを連れて逃走するやつをやるべきだった。

 

前作のファントムは才能はあるのに人に愛されなくて辛いというキャラクターだったけど、本作ではジリー母娘には愛されているし、才能も認められているしで、自分の居場所を見つけて安定したのだなと思った。ラストのメグの自殺を止めるシーンでは、お前にそんなコミュニケーション能力あったのかと思って意外だった。しかし、自分の思い通りにならないとすぐ人を脅す癖(癖ってレベルじゃないぞ)は直っていないのでイカン。

ファントムが、グスタフの父親が自分だというのは秘密にすると約束したのに、次のシーンでもうラウルに対してそう仄めかしたのは笑っちゃった。確かに直接言ったわけじゃないけどね。よっぽど子供がいるのが嬉しかったんだな。

ファントムがグスタフと感性が同じだ!ってなるシーンでは、仲間を見つけたサブカルオタクみたいで可愛かった。自分の音楽を認めてもらうことや感性を分かってもらうことと、自分自身を受け入れてもらうことと未分化なところが、非モテオタクで悲しい。ファントムが作ったテーマパーク「ファンタズマ」は名前から分かるように、ファントムの趣味全開の空間で、ティム・バートン映画みたいな感じ。物語の舞台である19世紀終盤は、「ドラキュラ」などのゴシックロマンス小説が書かれた時代でもあるし、理解者はいたはずとも思うけど。というか、ゴシック小説である原作をゴシックたらしめている張本人であるファントムさんが意識的にゴシック趣味をしているのって何か不思議な感じがする。しかし、音楽の才能は遺伝するのかもしれないけど、趣味は遺伝しないんじゃないか?

 

ラウルはダメ夫と化してしまっているが、不思議と憎めない感じだった。でもクリスティーからしたら、夫が借金こしらえたので働こうとしたら、働いたら浮気ってことにさせられるってどういうことよという感じだし、見捨ててやろうかなと思うのも無理はないと思う。まあ、ラウルからしてみれば、妻には浮気されるし、息子もそいつとの子供らしいし、駆けつけてみれば妻は間男の腕の中で死んでるしで、もうどうしたらいいか分からんよね。かわいそうかも。

 

音楽的には『オペラ座の怪人』よりさらにロック寄りな感じ。ちょっとだけ前作のテーマが入ってたりしたけど、もうちょっと組み込んだ方がファンは喜ぶだろうになーと思った。売れた前作に安易に頼らないのが、巨匠の拘りなのかしら。

 

 

アンドリュー・ロイド・ウェーバーの配信の、他の作品の感想は下のリンクから見られます。

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「民衆の歌」の革命歌・運動歌としての受容

コロナ禍の中、ミュージシャンが演奏動画を配信するのが流行っている。先日、ミュージカル俳優の方々が「民衆の歌」の動画を配信したりして、世間が盛り上がっていた。

左翼ミュージカルおたくとしては何となくモヤるところがあるので、お気持ち表明をしていきたいと思います。

 

まとめ

・「民衆の歌」はミュージカルに出てくる曲

・物語の舞台はフランス革命ではない

・原語(英語)の歌詞は革命歌してる

・台湾や香港での運動では、原語とは異なる独自の歌詞がつけられている

 

 

「民衆の歌」とは 

まず「民衆の歌」って何なのかと言うと、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の劇中曲である。「民衆の歌」が歌われるのは、学生や若者たちが蜂起する場面で、劇中で最も盛り上がるシーンの一つである。

 

レ・ミゼラブル』のストーリー

まず『レ・ミゼラブル』のあらすじを紹介しておく。日本では『ああ無情』としても知られているユーゴーの同名小説が原作である。

主人公のジャン・バルジャンは元泥棒だが、改心して市長にまでなる、というストーリーは知っている人が多いと思う。ジャン・バルジャンはコゼットという少女を引き取って育てているのだが、成長したコゼットは、マリウスという若者と恋に落ちる。マリウスは、「ABCの友」という共和主義者の秘密結社に加入して活動している活動家だ。「ABCの友」には、マリウスのほかに、リーダーである美青年活動家アンジョルラスを始め、魅力的な学生たちや若い活動家たちが加入している。

物語のクライマックス、ついに「ABCの友」は王政の打倒を求めて暴動を起こす。ミュージカル版において、この暴動の場面で歌われるのが「民衆の歌」である。しかし、暴動は鎮圧され、マリウス以外のメンバー全員が殺されてしまう。

  

モデルとなった時代

ミュージカルの原作となった小説『レ・ミゼラブル』は、ユーゴーによって1862年に発表された。

物語のクライマックスである「民衆の歌」のシーンは、6月暴動という1832年の実在の事件をモデルとしている。フランス革命だと思っている人もいるのではないかと思うが、実はフランス革命ではないので注意。

 

筆者は理系だったせいで高校のときの世界史の授業はナポレオンまでしかやっていなかった。そのため、ナポレオン以後の世界史は全くの未知であり、何となくナポレオン失脚後はすんなり共和制に移行したと思っていた。ところがどっこい、フランス革命後は共和制・帝政・王政を行ったりきたりする混迷の時代に突入する(ちなみに現代のフランスは第四共和制である)。

フランス革命の後、第一共和制、ナポレオンによる第一帝政が続いたのはご存知の通り。ナポレオン失脚後、1815年の王政復古によりルイ18世プロヴァンス伯)、続いてシャルル10世(アルトワ伯)が即位した。しかし、1830年の7月革命により再び王政は打倒され、シャルル10世は退位した。有名な「民衆を導く自由の女神」の絵は、この7月革命を描いたものである。

しかし、ブルジョワ階級に人気のあるルイ・フィリップが国王となり、共和主義者は落胆させられることになった。食糧難やコレラの流行を背景として、1832年、共和主義運動を支援したラマルク将軍が亡くなったのを契機に、共和主義者が蜂起したのが、この6月暴動である。残念ながらこの暴動は鎮圧されてしまい、フランスに共和制が復活するのは1848年の2月革命を待つことになる。

 

レ・ミゼラブル』の物語は、ナポレオン没後の1815年から1833年の間、フランスが王政と共和制の間を揺れ動いた時代を舞台としている。

 

ミュージカル『レ・ミゼラブル』ができるまで

さて、現在日本でよく知られているバージョンのミュージカル『レ・ミゼラブル』は、ロンドンのウェストエンドで初演されたものである。

ウェストエンド版より以前、1980年にパリで初演されたミュージカル『レ・ミゼラブル』があった。これに、有力なミュージカル・プロデューサーであるキャメロン・マッキントッシュが目をつけ、ウェストエンド公演を企画した。パリ版は、ストーリーをよく知っている人向けに作られていたらしいが、ウェストエンド公演にあたり初心者にも分かりやすく改訂されている。

この、ウェストエンドバージョンは非常に有名になり、世界中で公演されているし、2012年には映画化も行われた。この中で、6月暴動のシーン、バリケードを築いた青年たちが政府軍を待ち受ける場面で歌われるのが「民衆の歌」である。(動画は映画版)

youtu.be

 

各国版歌詞の比較

さて、「民衆の歌」を歌うことがどのような意味を持つかを考える前に、各国版の歌詞を比較してみたい。

 

英語版

まず、一番有名なバージョンである英語版を見てみる。適当ですが訳もつけてみた。

Do you hear the people sing?

Singing the songs of angry men?

It is the music of the people

Who will not be slaves again!

When the beating of your heart

Echoes the beating of the drums

There is a life about to start

When tomorrow comes!

民衆の歌が聞こえるか?怒れる者たちの歌が?
それは二度と奴隷にはならぬ者たちの歌
心臓の鼓動が太鼓の音と響きあい
明日には新たな人生が始まる


Will you join in our crusade?

Who will be strong and stand with me?

Somewhere beyond the barricade

Is there a world you long to see?

Then join in the fight

That will give you the right to be free!

われわれの聖戦に加わろう
共に立ち上がる強者を求む
バリケードの向こうに待ち望んだ世界がある
闘いに加わり自由への権利を勝ち取ろう

 

Will you give all you can give

So that our banner may advance

Some will fall and some will live

Will you stand up and take your chance?

The blood of the martyrs

Will water the meadows of France!

旗を前進させるために全てを差し出そう
何人かは死に、何人かは生きるだろう
立ち上がりチャンスを掴もう
殉死者の血がフランスの野を染めるだろう

 

英語版の歌詞をみると、歌詞の内容はかなり革命歌らしい革命歌である。2番で血なまぐさくなるのも革命歌っぽい。「血が野原を染める」と言う部分は「ラ・マルセイエーズ」を思い出すが、本家の血は敵の血なのに対して、こちらは自分たちの血なのでちょっと悲壮感がある。また、「砦の向こうに世界がある」の部分は、「砦のう~えにわ~れらが世界」の「ワルシャワ労働歌」を想起させる。

いろいろな革命歌を参考に、革命歌らしく作られているのは間違いなさそうだ。

 

日本語訳詩

日本語版のミュージカルで歌われている歌詞は、以下のようなものだ。


戦う者の歌が聞こえるか?
鼓動があのドラムと 響き合えば
新たに熱い 命が始まる
明日が来たとき そうさ明日が!

列に入れよ 我らの味方に
砦の向こうに 世界がある
戦え それが自由への道

悔いはしないな たとえ倒れても
流す血潮が 潤す祖国を
屍越えて拓け 明日のフランス!

英語版の訳詩なので、基本的な内容は英語版と同じである。ただし、英語歌詞を日本語に訳すときの性質上、かなり内容はそぎ落とされており、その過程で血なまぐささも軽減されている。

 

フランス語版

フランス語は分からないのでリンク先のサイトを見てほしい。英語版・それを訳した日本語版とはかなり内容が異なっているようだ。

仏語版 "Do you hear the people sing?" | 梟の見下ろしたるパリー

『民衆の歌』英語版とフランス語版の違い : foggyな読書

 

社会運動の場での受容

各国の社会運動での受容

この曲が革命歌として、つまり社会運動の現場で使われた例で最も有名なのは、香港の運動であろう。昨年(2019年)の民主化デモで歌われていた動画は非常に有名になったが、2014年香港での雨傘革命で既に歌われていたそうだ。昨年(2019年)の香港での民主化デモでも歌われていた。

www.afpbb.com

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今回気になって調べたところ、香港での運動より前に、2013~2014年の台湾でのひまわり学生運動でも歌われているのを確認できた。

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日本でも、2015年夏の国会前での安保法制反対集会で歌われていた記憶がある。下の動画は自由の森学園という高校の生徒さんたちらしい。動画は見つけられなかったのだが、みんなで「民衆の歌」を歌おうという企画もあったような気がするが、証拠を見つけられなかった。おそらくSEALDs周辺の人の呼びかけだったと思うが・・・

これ以後、日本では国会前抗議で「民衆の歌」を歌う企画は度々行われているようだ。

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これは合唱ではないが、2016年のソウルでのろうそく革命でも歌われていたようだ。歌めっちゃうまいね。

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ほかにもトルコで歌っている動画などもあったが、主に東アジアの若者の運動の中で受容されていると思ってよさそうだ。ちなみに、「民衆の歌」のWikipediaの記事には「イラクの反政府デモでも歌われた」と書いてあったが、これのソースが見つけられなかった。(デモの映像に音源がつけてある動画ならあったけど、それは歌われたとは言わないだろう。)

 

運動の場での歌詞の扱い

台湾の運動で歌われていたのは、福建語版だそうだ。ミュージカルの『レ・ミゼラブル』が台湾で公演されたことはないはずだから、公式の台湾語歌詞はないはずである。そのため、おそらく誰かの私家版の歌詞が広まったのだろう。内容はほぼ英語版の訳だが、後半の"France"の部分は"Formosa”(=台湾島の美称)に変えられている。

福建語バージョン「你敢有聽著咱的歌」

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香港での運動では、2019年には英語で歌われていたが、2014年の運動では広東語の歌詞で歌われていた。下の動画には、広東語バージョンの歌詞の英語訳(ややこしいな)がついているので見てほしいが、広東語バージョンの「問誰未發聲」は、英語版ともフランス語版とも歌詞の内容は全く異なっている革命歌的な勇ましさは薄まっているが、真実を明らかにすることや公正な選挙権といった、香港の人々の要求が具体的に盛り込まれた歌詞になっている。2014年の運動の中で、ネットで公開された歌詞が広まったものだそうだ。

広東語バージョン「問誰未發聲」

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「民衆の歌」を運動歌にすることの意味

「民衆の歌」の運動の現場での受容について、使われ始めたタイミング(2014年)を考えると、2012年の映画を通じて知った人が多いと想像できる。また、香港の運動も日本の国会前も若者中心の運動である。そもそも、海外のミュージカルの曲を歌えるのはインテリの若者だけだろう。

香港の運動で英語で歌っているのを見て、これはインテリの運動だと失望したと書いている人をtwitterで見た。これは私の想像だが、広東語ではなく英語で歌っていたのは台湾や本土への連帯の意味があるのではないか?あと、広東語版はあくまで2014年の運動の中で作られた替え歌のようなものなので、2019年の運動の中心にいた人たちは必ずしも皆歌えるわけではなかったのかもしれない。

ただし、乱暴なことを言えば、日本ではミュージカル自体がインテリ・プチブルのものなので、街頭で連帯するのには向いていないかもしれない。日本でこれを歌いたがる人たちの中には、従来の革命歌は「ダサい」から歌いたくないが、これなら歌いたいという感覚が見受けられるので、少々気に入らない。台湾や香港の若者の中で、「民衆の歌」が受け入れられたのは、従来の中国語の共産主義的な文脈で歌われてきた革命歌とは別の新しい運動歌が必要とされたからだろう。ひまわり運動では「島嶼天光」のようなオリジナルな運動歌も作られたことだし。

 

個人的な感覚だが、「民衆の歌」はあくまでミュージカルの劇中歌であり、それを街頭で歌うことには何となく気恥ずかしさがある。感覚としてはアニメソングを人前で歌うのにに近い。また、モデルとなった出来事があるとはいえ「レ・ミゼラブル」はあくまでもフィクションである。連帯の媒体となる革命歌がフィクションであるのは寂しい感じがする。国際連帯の場では尚更だ。フィクションを通じてしか革命のイメージを共有できないのはあまりにも悲しくないだろうか。(しかも失敗した革命だし・・・)

香港の運動のように、独自の歌詞をつけ、運動歌として新たな文脈を生み出したものであれば、これも克服できる気がする。

 

コロナ禍での受容と発展

さて、最近「民衆の歌」が話題になっていた。ミュージカル俳優の方々が「民衆の歌」を歌う動画を配信する企画をやっていたためだ。これは、コロナ情勢の中「家にいよう」キャンペーンの一環である。

超豪華キャストでびびる。ラミン・カリムルーまでいるし・・・

natalie.mu

何故このような企画が行われたのかというと、もともと、自宅待機期間中にアーティストが自宅で演奏した動画を公開するというムーブメントがあった。その中で、ウェストエンドのミュージカル俳優たちが「民衆の歌」を歌うという全く同じ企画をやっていた。前述の企画はこれを日本に輸入したのだと思う。

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ここまで読んでくださった奇特な方には、もはや「民衆の歌」は、単に「みんなでがんばろう」的な歌ではないという点には疑問の余地はないだろう。6月暴動の背景にペストがあったことも鑑みれば、この歌を歌いながら街頭やら国会前に繰り出し政府を倒すのが正当な活用法と言える。独自の替え歌を作ると、もっと盛り上がるかもしれない。(そういう人、デモでたまに見るよね)

しかし、今回の企画は別に「民衆の歌」であるということに取り立てて意味があるわけではなく、単に自宅にいる人にコンテンツを提供しようという趣旨なので、そこまで怒るようなことではないと思う。

 

 

(いろいろ書いたけど、実はレミゼを劇場で見たことないんだよね。チケットが取れなくて・・・)

 

See also:

舞台の感想。

iceisland.hatenablog.com

レミゼ語り第二弾。ジャベールについてひたすら語っている。

iceisland.hatenablog.com

 

 

 

【感想】オペラ『トゥーランドット』2018年、新国立劇場 (配信)

すごいものを見てしまった。今無料公開している新国立劇場のオペラ「トゥーランドット」(2018/2019シーズン)である。

www.nntt.jac.go.jp

指揮:大野和士

演出:アレックス・オリエ

トゥーランドット:イレーネ・テオリン

カラフ:テオドール・イリンカイ

リュー:中村恵理

ティムール:リッカルド・ザネッラート

アルトゥム皇帝:持木 弘

ピン:桝 貴志

パン:与儀 巧

ポン:村上敏明

官吏:豊嶋祐壹

 

トゥーランドット』といえば、主人公の王子がなぞなぞを説いて姫と結婚する話だ。そうだったはず・・・

公式サイトのあらすじはこちら。

【第1幕】古代の北京。戦いに敗れ、女奴隷のリューとともに放浪中の老王ティムールは、息子の王子カラフと再会し、無事を喜び合う。皇女トゥーランドットが無言で姿を見せ、人々はひれ伏す。カラフは皇女の美しさに魅せられ、3つの謎を解き明かせば彼女が自分のものになると知り、謎に挑戦する。

【第2幕】3人の大臣が、皇女のせいで命を落とした異国の王子たちを思い返す。宮殿前の広場に人々が集まり、トゥーランドットが「謎が解けなければ死をもって報いる」と告げる。しかし、カラフはすべての謎を見事に解き明かす。狼狽する皇女に、カラフは自分の名を謎として与える。

【第3幕】皇女の命で人々は一睡もせずに異国の王子の名前を調べている。カラフが自らの決意をアリア〈誰も寝てはならぬ〉で歌い上げる。ティムールとリューが捕えられる。リューは「若者の名前は自分だけが知る」と訴えた後、自害する。人々が去った後、カラフは皇女に愛を語り、口づけをする。心を開いたトゥーランドットは、カラフの名を「愛」であると叫ぶ。

 だが、この演出では、トゥーランドット姫はカラフ王子に惚れることなく、自殺してしまうという悲劇に変わっている。このあらすじ嘘じゃないか!(まああらすじでネタバレされたら嫌だからいいんだけど)

 

トゥーランドットはものすごい男嫌いである。なぞなぞを説いて彼女を「得る」権利を得たカラフに対して「絶対にあなたのものにはなりたくない」「父上、娘を奴隷のように男に与えないで!」「怖がって震えているのに無理やり抱きたいの?」と大変な嫌がりようである。その理由も語られていて、彼女の先祖にあたる王女が、異国の男に国を征服され、暴力を振るわれたからということだ。(これは性暴力のことらしい)

それを意に介さずに迫りまくるカラフが怖すぎる。「絶対に姫を手に入れる」だの「貴方は私のものになるのだ」だの「貴方の冷たさは偽りだ(=嫌がっているけど本当は嬉しいんだろう?)」だの完全にモノ扱いだ。しまいには無理やりキスして服を引き裂いてしまう。完全に強姦魔にしか見えない。このシーンはカメラワークもトゥーランドット視点でカラフがぐいぐい迫ってくるのを撮っていてめちゃくちゃ怖かった。No means Noを理解できない男は本当に恐ろしい。

そして、追い詰められたトゥーランドットは、喉をかき切って自殺する。

 

トゥーランドットの周囲の人たちは、皆彼女が結婚することを望んでいる。父親の皇帝も、カラフが息子になったらいいなと言うし、大臣のピン・パン・ポンも、姫を「支配する」夫が登場してセックスすることを期待している(これは死刑を執行するのがいやだからでもあるが)。トゥーランドットと皇帝以外に王族がいる様子もないし、彼女が結婚して国を継ぐ以外なさそうだ。だから周囲の人たちが彼女に結婚してほしがるのは当然ではある。トゥーランドットはどうしても嫌だから、しょうがなくなぞなぞを解けなかったら殺すぞという無茶苦茶を言い出したのだが、これで誰も求婚しなくなるだろうと思ったら間抜けな求婚者がゾロゾロやってきたのだから困っただろう。彼女としてはなぞなぞは断るための口実であって、夫選びのためではないのだから、なぞなぞが解けたからといって結婚したくならないのは当然であるし、自殺するのも分かる。

 

この話の中にはまともな「愛」もあって、カラフのことが好きな奴隷のリューのそれである。リューは、カラフの名前という秘密を守って死ぬことで、カラフにトゥーランドットの愛を贈ることができると言って自殺してしまう。ここでのリュー役の中村恵理さんの演技は、好きな男を別の女とくっつけるために死ぬという辛さがにじみ出ていて凄かった。トゥーランドットはそういう「愛」もあることを理解し、だからこそ死んだリューの体を撫でてから、リューと同じ方法で死ぬ。さらに、最後にカラフに対して、カラフの「愛」が支配でしかないということを「この人の名は『愛』!」という言葉で示して死んでいく。北村紗衣先生はカラフは権力欲で動いているように見えたと書いていたが、私には、カラフにとってはこれが「愛」だからこそ、こうなったように思われる。

リューが死んだあと、カラフのお父さんのティムールは大層悲しんで、ワシも死にたい・・・とまで言う。このシーンも良かった。それに対してカラフはと言えば「トゥーランドットさん、あなたのせいで人が死にましたよ!」である。半分くらいはお前のせいだろ・・・

 

恐ろしいのは、この演出における変更点は、ラストでトゥーランドットがカラフに愛を告白する一節をカットしていることだけだということだ。それ以外は完全に歌詞がそのままなのだ。トゥーランドットが拒否する台詞も、カラフの支配欲にまみれた台詞も全てもともとあるものだ。この演出を見た後では、トゥーランドットがカラフに惚れてハッピーエンドな本来の演出を見たらウゲーとなってしまうに違いない。だって現代人の感覚では、絶対にこの演出の方が本当だもの。

ラストのカットされた部分のせいで、カラフが根拠もなく相手が自分を愛していると確信するキモい人間になってしまった。トゥーランドットは、カラフの名前が分かったんだから、最後「愛」じゃなくて「カラフ!」て叫んでブスーッと刺したら痛快だったかもしれない。しかし、それだと父や国民が許さないことや、このカラフを追い払っても第2第3のカラフが現れることが分かっていたから自殺しちゃったんだな。辛い。

ただ、一種ミサンドリーを肯定するような演出で、少し救われた気持ちもした。

 

衣装にも男性の暴力性が現れている。カラフやティムールは異国の人らしいが、ロシアの軍人みたいな格好をしている。ピン・ポン・パンも汚らしい格好だが(大臣なのに酒瓶を持っている)、よく見るとガスマスクを首から下げていた。どうでもいいけど、このピンポンパンのどれか眼鏡をかけていたので、オタクの友人にめっちゃ似てて笑っちゃった。言ってることも最低で笑う。

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家のしょぼいイヤホンで聞いたので音楽については言うことはないです。

コロナの間じゅう音楽を聴いたり動画を見たりばっかりなのでヘッドホン買いたいけど、電器屋さんがやっていないので買いにいけないというジレンマ・・・

 

See also:

アレックス・オリエがまたやってくれました。今度は『カルメン』です。

iceisland.hatenablog.com

【感想】在宅期間中に見たバレエいろいろ

コロナの在宅期間中、配信で見たバレエの感想まとめです。

バレエのことは何も分からん人間なので、とりあえず好きそうな題材のものを見てみた。

 

ボリショイバレエ「スパルタクス

社会主義に傾倒したFGOのオタクなので「スパルタクス」を見た。

 

とにかく、ローマの執政官・クラッスス役のラントラートフさんがめっちゃカッコいい。眼をかっと見開くのが、いかにも「狂ったローマの支配者」の顔。映画「グラディエーター」のコモドゥス帝のイメージ。細かい仕草でも、プライドが高いけど繊細な感じが出ている。

もしかすると、自分は舞台芸術とコスプレ大会の区別が出来ておらず、ローマの権力者みたいな格好のイケメンが登場するだけで嬉しいのかもしれない。

 

クラッススの愛人・エギナ役のザハーロワさんは超セクシー。兵士たちを誘惑するところノリノリすぎでは?クラッススとイチャイチャしてるところより楽しそう。衣装は一個おっぱいが出ていることにカーテンコールになってから気づいた。

スパルタクスとフリーギアのカップルは、愛情が伝わってくる感じの振り付けで素敵。スパルタクス役のロブーヒンさんもかっこいいが、常に胸筋が見える衣装を着ているし、場転のあと筋肉が闇の中で光ってから登場するのがちょっと面白い。

 

漫画「アラベスク」では「ソ連のバレエでは男性は女性の添え物にすぎない」という描写があった気がするが(うろ覚え)、この作品は主人公2人は男性だし、見せ場もめちゃくちゃある。

群舞のシーンが長く、群舞でもソロのシーンが結構あるのが以外だった。あと、大道具がほとんどなく簡素なのも。

当たり前だけど、ハチャトゥリアンの難しい金管が吹きこなされてて、スゲ~と思った。

 

ボリショイバレエ「明るい小川」

ソ連時代を舞台にしたバレエと聞いて見てみた。2012年の公演。

ストーリーは楽しいコメディ。田舎のコルホーズでの収穫祭にバレリーナの一団が呼ばれてくるが、主人公ジーナの夫をはじめとして、数人の村民がバレエダンサーたちに惚れてしまう。バレエダンサーたちと村民たちは浮気者たちをとっちめるために、ドッキリをしかける。

ドッキリのために犬の格好をしたり男装女装したりする様子が、大学生の悪ノリみたいでほほえましい。この作品は初演当時、政府からニラまれてお蔵入りになってしまったそうだが、この下らなさが気に入らなかったんだろうか。浮気者をとっちめるコメディものはオペラにも色々あるけど(『フィガロの結婚』や『ウィンザーの陽気な女房たち』とか)、人民の知性をバカにしていると思われたのかもしれない。ソ連の人民は浮気なんかせずに立派な家庭を築かないとね。

ソ連プロパガンダポスターから飛び出してきたような村民たちの衣装は印象的。農村の女性たちの派手な原色のワンピースとか、コサックの民族衣装とか、労働者の作業着とか。

 

ショスタコーヴィチによる音楽も、明るくて楽しい。あまりショスタコを聞いたことがなかったので、こんなに楽しい曲を作る人だったとは知らなかった。

 

 

ノーザンバレエ「1984

ノーザンバレエというカンパニーは、イギリス5大バレエ団と呼ばれていて結構有名なところのようだ。

 

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1984のバレエって何やねん?と思って見始めたが、悪い全体主義社会を表現するのにバレエは結構適している。『ミス・サイゴン』のベトコンのシーンを連想した。振り付けの中にも、共産圏のプロパガンダポスターを思わせるようなポージングが取り入れられていて面白かった。

1984の世界をバレエで見るのは新鮮な体験で面白かった。舞台にはでかいテレスクリーンが備え付けられていて、そこにビッグブラザーの目が映っていてビッグブラザーイズウォッチングユーを表現している。投影ではなく実際にスクリーンを置いていると思う。テレスクリーンの映像はブラウン管のエフェクトがかかっていて、映像デザインもレトロフューチャーっぽくてかっこよかった。また、2分間憎悪の場面は何回もあるのだが、毎回ちょっとずつ違うのが凝っていた。

 

私は1984の魅力は色々な独自の概念にあると思っているので、それを伝え切れていないのは残念だった。ウィンストン・スミス氏の真理省でのお仕事が資料の改竄であることはスクリーンを駆使して伝えているのだが、自由恋愛が禁止されていることは分かりづらいし、言語がないので仕方がないが「ニュースピーク」とか「二重思考」とかの概念は全く登場していなかった。

ラストの拷問のシーンもかなりバレエで伝えるのは厳しいんじゃないかと思った。スクリーンに「101」と表示して101号室であることを表現しているが、原作読んでいないと何だか分からないと思う。あと、ラストは原作と変わっていて、ウィンストン・スミス氏は存在を抹消されてしまう。

 

党員の衣装(私服)はジャージみたいなやつで、イギリスの人には相当ダサく見えるんじゃないかと思う。それに対してオブライエン氏は一人だけ妙にシュッとしていて、しょっちゅうネクタイをいじったりして、いけ好かない銀行員みたいな感じでよかった。なんでスミス氏はこんな腹黒そうなヤツを信じちゃったのか分からん。

スミス氏とジュリアのラブシーンは素敵。森の中でセックスするシーンは、ジュリアが待ち合わせ場所に着くや否や服を脱ぐのにはびびったけど、ロマンチックでよかった。「2分間憎悪、2人で抜け出しちゃおっか?」のシーン(抜け出さないけど)も中高生みたいで可愛い。ただし、全体的に表情の変化が非常に少ない演出になっているので、なかなか感情移入しづらいところがあった。

 

スミス氏とジュリアがラブホとして使う古道具屋には大きい棚に色々な道具が詰め込んであって魅力的だった。ただ、スミス氏が買ったガラスドームみたいな物がなんだか分からなかったんですが、原作にそういうシーンあったっけ?古道具屋は店主も怪しげで雰囲気が素敵だなと思ったら、高橋宏尚さんという日本人ダンサーの方だった。怪しげな東洋人が営む古道具屋で逢引しないほうがいい。

 

"The Shows Must Go On"感想まとめ

アンドリュー・ロイド・ウェーバーYou Tubeでミュージカルの無料配信を行うプロジェクト"The Shows Must Go On"の感想まとめ記事です。

後世の人々は忘れていると思うが、現在COVID-19なる流行病のせいで、外出をやめて家に引きこもれというお触れが出ている。そのために色々なアーティストがコンテンツを配信するなどしているのだ。

 

1週目:"Joseph and the Amazing Technicolor Dreamcoat"(邦題『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』)1999年ビデオ版

iceisland.hatenablog.com

 

2週目:『ジーザス・クライスト・スーパースター』2012年アリーナツアー版

iceisland.hatenablog.com

 

3週目:『オペラ座の怪人』25周年記念コンサート版

iceisland.hatenablog.com

 

4週目:"Love Never Dies" メルボルン公演版

iceisland.hatenablog.com

 

5週目:アンドリュー・ロイド=ウェバー ロイヤル・アルバート・ホール セレブレーション

コンサートなので、感想はお休みです。

 

6週目:"By Jeeves"(邦題『天才執事ジーヴス』) 2001年ビデオ版

iceisland.hatenablog.com

 

7週目:『キャッツ』1998年映画版

iceisland.hatenablog.com

 

この後、アンドリュー・ロイド・ウェーバー作品はネタ切れとなった。日本からは見られない公演がいくつか配信されていたが、把握しておらず・・・

 

?週目:『パリのアメリカ人』ウェストエンド公演版

iceisland.hatenablog.com

 

随時追加します。